百二十七話 スライムの幼生体

「あら、可愛いスライムね」

「プリンちゃんっていうの。まだ子どものスライムなんだって」


 王城に行く日にプリンを連れて行ったら、ティナおばあさまは珍しそうにプリンを見ていた。

 因みに今日はフード付きのケープを着ていないので、僕の肩の上で寝ている。

 ちょっと落ちないか心配だけど、スラちゃんがいつもリズの頭の上に乗っているから、きっと大丈夫だと信じたい。


 プリンを肩に乗せたまま勉強部屋に向かうと、やはりと言うか、皆プリンの事に気がついた。


「うわあ、小さいな」

「こんなスライム初めてみた」

「すやすやと寝ているね」


 皆でツンツンとプリンを突っつくが、プリンは全く起きない。

 ある意味大物かもしれないな。

 と、ここで先生も珍しそうにプリンを見ている。


「ほお、これはスライムの幼生体ですな。実際に見ることは珍しいのです」

「先生、そうなんですか?」

「スライムの幼生体は物陰や落ち葉の下に入ることが多くて、中々見つけられないのですよ」

「あれ? プリンは僕のフードの中に入っていましたよ」

「きっとアレク殿下が膨大な魔力を持っていると分かったので、自らアレク殿下に身を寄せたのでしょう」

「へえ、そうなんだ」


 なんだかスライムについて新しい発見をした感じだ。

 さて、僕は勉強をしないと。

 プリンは、机の上に寝かせておいた。


「これから王国は冬に向かいます。ホーエンハイム辺境伯領は比較的暖かいですが、そろそろ王都には雪が降ってきます」

「防寒対策はどうしていますか?」

「火鉢や薪ストーブを使うことが多いです。しかし、そのために火事も多く発生します」

「うーん、火事を起こさない何か良い方法があればいいですね」

「中々難しいですね。床暖房とかもありますね」

「北方の厳冬の地域で見られます。しかし、設備の改修が必要なので王都では中々普及していないですね」


 辺境伯領はそこまで底冷えしないから、薪ストーブでも大丈夫だけど、王都は盆地だもんな。

 王城も石作りだし、きっと物凄く寒くなりそうだ。

 あ、横でルーカスお兄様がウンウンと頷いていた。

 寒いのは僕も苦手だよ。


「熱を発する魔導具を使って暖房ができれば、火事にならず安全ですよね」

「確かに魔導具ギルドで何かアイデアがあるかもしれませんな」


 この世界は魔導具が発達しているから、暖房の魔導具もできそうな気がするんだよね。

 今度陛下にも聞いてみよう。

 そして、プリンはずっと寝たまんまだった。


 リズ達の方を見ると、何故か全員机の上で伸びていた。

 スラちゃんがドヤ顔でいるけど、何かあったのだろうか?

 その理由は、ビクトリア様が教えてくれた。


「実はね、書き取り問題を出したら、スラちゃんが一番だったのよ」

「「「悔しい!」」」


 あ、そういう訳ね。

 スラちゃんも頭いいからな。

 しかもスラちゃんに負けないと意気がったのに負けたので、追加の補習が決まったらしい。

 ドンマイとしか言い様がないぞ。


「あ、起きた」

「わあ、もぞもぞと食べている」

「まるで赤ちゃんみたいだね」


 昼食のタイミングになって、やっとプリンが起きてきた。

 今日も、取り分けられたご飯をもぞもぞと食べている。

 ちょっとした生態観察で、少し面白い。

 早めに食べ終えた幼女三人組は、プリンの食事光景をじっと見ていた。


「スラちゃんは大人のスライムなの?」


 リズの質問に、スライムは否定的なふるふるをしている。

 スラちゃんも、大きいように見えてまだ子どもなんだ。

 うーん、スライムの生態って謎だな。


「そもそもスライムを従魔にする者は少ない。テイマーはドラゴンとかをテイムする事を目指すのだよ」

「でも、ドラゴンを従魔にすると、お肉いっぱい必要かも……」


 陛下の言葉に、リズが珍しく現実的な意見を言ってきた。

 確かにどれ位お肉食べるか、想像つかない。


「あの馬鹿貴族なんか、珍しい魔物を持つこそ貴族といって、無理矢理捕まえた魔物をコレクションにしておったぞ」

「えー、それは可哀想だよ」

「普通はそう考えるな。勿論、解放して元の住処に戻している」


 ベストール侯爵は、他にもいっぱい隠してそうだな。

 家宅捜索でそれだけ見つかるとは。

 僕には理解できない世界だよ。


「そういえば、馬鹿の一派がアレク殿下とリズ殿下は下等生物を連れていると、暗にスラちゃんを貶していたな」

「えー、スラちゃんは凄いスライムなのに!」

「そうそう、頭も良くて魔法も凄いの」


 陛下からの追加情報に、リズとエレノアは猛抗議。

 スラちゃんも、かなり怒っている。

 流石に僕も怒るな。

 スラちゃんを下等生物って、どういう事だよ。


「奴らは珍しい物にしか興味がないからだろう。ちょうど今、闇ギルド関連で一斉に家宅捜索に入っている。どんなものが出てくるか楽しみだな」

「リズも捜索したかったなあ」

「エレノアもしたかったの」

「お前らにはまだ早い。ルーカスはもうそろそろ経験してもいいな」

「「えー」」

 

 スラちゃんも捜索に参加したかった様だが、何だかベストール侯爵一派は自業自得って感じがするよ。

 余談だが、家宅捜索の結果やはり違法動物が多数見つかり王城で保護された。

 ベストール侯爵一派の罪状は、更に重くなったそうだ。

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