転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ

百二十六話 新たなスライム

 そろそろ年末も近くなってきたので、比較的温暖な辺境伯領も少し寒くなってきた。

 なので、冒険者として依頼を受ける時は、ティナおばあさまから貰った冬用の冒険者服を着るようになった。


「リズちゃん、可愛いケープね」

「うん、おばあちゃんに貰ったの!」

「あらー、それは良いわね」


 薬草採取で一緒になるおばちゃんも、リズの事を可愛い格好だと褒めてくれた。

 因みに、最近のスラちゃんは、リズがフード付きのケープを着ている時はフードの中に入ることが多い。

 と言うか、フードの中で寝ている事が多いな。


 今日の薬草採取は、新人さんも何人かいた。

 新人さんはお姉さん三人組で、剣士に魔法使いにシーフという組み合わせ。

 田舎から冒険者を目指してやってきたという。

 初心者向けの講習を受けたばっかりで、この薬草採取が初めての依頼となるらしい。


「お姉さん、宜しくね!」

「こちらこそ宜しくね」

「アレク君にリズちゃんはFランクなんだね」

「そうだよ。薬草いっぱい採ったんだ!」

「そうなんだ、凄いね! ギルドからも薬草採取の名人だと言っていたよ」


 森に向かう道中、リズとお姉さん達は色々と話をしている。

 ギルドから、僕達に付いていけば確実に薬草が手に入ると言われたっぽいな。


 何はともあれ、皆で森に到着。

 すると、早速ウルフが集団でお出迎え。

 十頭が、二手に分かれてこちらを囲んでいる。

 この時期は寒いので餌が少ないのか、ウルフも少し気が荒くなっている。

 僕達は、ササッと攻撃の準備を終えた。

 おばちゃんもメイスを構えて準備万端。

 それに対して、お姉さん達はいきなりのウルフ登場にあたふたしてしまって、攻撃の準備が出来ていない。


「とー!」


 その間に、僕とリズとスラちゃんでウルフを撃破。

 何頭かは、おばちゃんがメイスで倒していた。

 お姉さん達は、何もできずにポカーンとしていた。


「ほらほら、森に入ったらいつ魔物が出るか分らないのだよ。直ぐに動けるように準備しておくのは、冒険者の基本だよ」

「ボーッとしていないで、ウルフの血抜きをするから見学しな!」

「「「はい……」」」


 おばちゃんの勢いに圧倒されながらも、お姉さん達は血抜きを恐る恐るしていく。

 初めての血抜きなのか中々うまくいかなくておばちゃんの檄が飛んでいたけど、何とか出来た様だ。

 僕達の倒した分は、スラちゃんがササッと血抜きしてくれた。

 切断した頭の部分は、穴を掘って埋めよう。


 その後は、予定通りに薬草採取。

 今度は、リズがお姉さんに薬草の採り方をあれこれ教えている。


「薬草は根本から丁寧に採るんだよ」

「こんな感じかな?」

「うん、それを十本採ったら一纏めにするんだよ」

「薬草採取って中々大変だ」

「まず、どれが薬草か分らないぞ」


 初めての人は、薬草と普通の草を見分けるのが大変。

 今日は僕が薬草採取の本を貸してあげたけど、中々苦戦している様だ。

 リズが採った薬草をサンプルにしながら、何とか集めていた。


「お兄ちゃん、スラちゃんの所に他のスライムが集まっているね」

「たまにこういう光景はあるからな」


 スラちゃんが魔物を警戒している辺りは、血抜きをしたり不要部分を埋めていたりしている所が多い。

 すると、森のお掃除屋さんのスライムが集まってくる事がある。

 既に何回か見た事のある光景だし、スラちゃんも他のスライムには手を出さない。

 そもそも普通のスライムは討伐対象でもないし、皆も放置している。

 お姉さん達は、スライムがうようよいる光景にびっくりしていた。


「お兄ちゃん、ノルマは採れたよ」

「了解、僕もオッケーだよ」


 いつもよりも時間はかかったけど、無事に薬草採取は完了。

 お姉さん達も十分な量が採れた様だ。


「お姉さん、大丈夫?」

「ありがとう、リズちゃん。初めての薬草採取だから、緊張したよ」


 ただ、初めての依頼だったので、だいぶ緊張したようだ。

 三人はかなり疲れてしまっていた。

 後始末をして森から帰るのだが、ここで久々のトラブル発生。

 それに気がついたのは、ギルドで完了の手続きをしていた時だった。


「あれ? お兄ちゃんのフードの中に小さなスライムがいるよ」

「あ、本当だ」


 スライムは特に敵認定していなかったので、探索してたけど気が付かなかったな。

 だいぶ小さめの黄色いスライムが、僕のフードの中でスヤスヤと眠っていた。

 僕がフードの中に入っていたスライムを取り出すと、一瞬僕の方を見たけど直ぐに眠ってしまった。


「起きないね」

「起きないよ」


 スラちゃんも小さいスライムをツンツンと突っつくけど、寝たまんまだった。

 このスライムの意思が分からなかったので、従魔登録は行わなかった。

 鑑定すると、スラちゃんと同じくハイスライムらしい。

 仕方ないので、再度僕のフードの中に入れておいた。


「それで、アレクのフードにスライムが入っていたのか」

「まあ、アレク君の所にきたのだから、そのまま従魔になりそうだね」


 ギルドの食堂で、皆で昼食を食べる。

 今日はジンさんにレイナさんの他に、初心者だった三人組のお姉さんも一緒だ。

 お姉さん達は、ジンさんとレイナさんがAランク冒険者だと知ってかなりびっくりしていた。


「初めての依頼はどうだった?」

「とても大変でした」

「薬草採取がこんなに大変だと思わなかったです」

「常に周囲に気を配らないといけませんので、疲れました」

「ははは、そりゃそうだ。薬草採取は森の中に入るんだ。魔物は普通にでるさ」


 お姉さん達の苦労話に、ジンさんも笑って返していた。

 薬草採取は舐めると痛い目にあうからな。


「だけど、ここの薬草採取は割が良いし、色々と勉強になる。一週間に一回薬草を採って、その間は別の依頼をこなせば直ぐにランク上がるだろう」

「最初から何でもこなせるはずはないわ。それこそ、アレク君にリズちゃんはもう凄腕だけど、小さいから別の依頼はこなせないのよ」

「むう……」


 リズとスラちゃんは悔しがっているが、小さいのだから仕方ないだろう。

 常設依頼以外は、そもそも依頼書に手が届かないのだから。

 と、ここで小さなスライムが目を覚ました。

 ヒョンとテーブルの上に飛び乗ると、目をパチパチとしている。

 小さな皿にお肉を少し取り分けると、もぞもぞと食べ始めた。


「可愛いね」

「そうだね」

「癒やされますね」


 女性陣は、小さなスライムがもぞもぞと食事する姿に心を奪われていた。

 スラちゃんは、スライムらしくなく豪快に食事をするからな。

 食事を終えた小さなスライムは、僕とリズの事をじっと見ていた。


「このスライム、お兄ちゃんとリズの魔力が気に入ったって」

「まるで出会った時のスラちゃんみたいだね。じゃあ仲間にしてあげないと」

「えーっと、黄色いから名前はプリンちゃん!」


 小さなスライムは、リズの付けた名前にふるふると震えて喜んでいた。

 ということで、小さなスライムはプリンと名付けられた。

 食事が終わると、またもや僕のフードの中に入って寝始めた。


「プリンちゃんは、アレク君のフードが気に入ったようだね」

「スラちゃんはリズのフードの中に入るんだよ。スライムってフードの中が良いのかな?」

「流石にそれは分らないぞ。まあ二人の魔力に惹かれたのだから、そっちじゃないか?」


 ジンさんの回答にスラちゃんが触手を振って答えていた。

 つまりは、そういう事らしい。

 ハイスライムは魔力に惹かれる所があるから、僕とリズの近くにいたいらしい。


 従魔登録は従魔が寝ていてもできるので、無事にプリンの従魔登録は完了。

 そのまま屋敷に戻った。


「また珍しいスライムだね」

「小さいし、スライムの子どもかな?」


 屋敷に帰ったら、早速エマさんとオリビアさんが僕のフードの中で寝ているプリンに気がついた。

 二人はプリンを起こさない程度に、ぷよぷよとプリンを突っついている。

 因みに、スラちゃんもいつの間にかリズのフードの中で寝ていた。


「ふわあ」

「あら、リズちゃんもお眠ね」

「アレク君も、着替えてお昼寝しちゃいなさい」

「「はーい」」


 お昼寝タイムになったので、部屋に移動してもぞもぞとベッドに潜り込む。

 今度スラちゃんとプリン用のベッドも用意しよう。

 プリンはスラちゃんと同じく枕元で寝かせて、僕とリズもお昼寝タイムに突入した。

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