第百九十三話 宴をぶち壊した襲撃者

 レイアがドラコの好きな人をバラしたので、急遽関係者が集まることに。

 先ずはうちの面々。

 軍務卿と奥様とヴィル様にミミ。

 そして何故か王妃様とフローラ様にライラック様。

 ドラコの母親と、先程ドラコの母親がお姉さんと呼んだ人も参加する。

 実はこの方、ドラコの父親のお姉さんという。

 何故かメイド仕事が好きで、メイドをしているらしい。

 ちなみにドラコの父親は、娘に好きな人ができたのが相当ショックだったらしく、真っ白に力尽きて寝込んでしまった。


「ドラコお姉ちゃんがヴィルお兄ちゃんの事を好きなの、ミケ知っているよ」

「ララも」

「リリも」

「ミミも」


 どうやら子ども達の間では、ドラコがヴィル様を好きなのは当然のことらしい。

 ということで、ドラコに話してもらいました。


「前から格闘術の事で相談に乗ってもらってて。優しいし、でも決断力もあるし。って何言っているんだろう」


 ドラコは顔を真っ赤にして両手で顔を覆っていた。


「ドラコが乙女だ」

「とても可愛い」


 あの、エステルにリンよ。

 その気持ちは分かるが、煎餅をバリバリ食べながら言うのではない。


「いやあ、まさかドラコが孫の事を好きになっているとは」

「でも、真っ赤になりながら一生懸命に喋って。とても可愛いわ。ヴィルもドラコさんの事は嫌いではないでしょう?」

「はい、僕もドラコさんの事は好ましく思います」

「うんうん、いい坊やだね。私も気に入ったよ」


 ヴィル様もオッケーぽいし、両方の当主も歓迎ムードだ。

 

「でも、ビアンカに悪いよ」

「何が悪いんじゃ?」

「龍は一夫一妻だから」

「こちらは一夫多妻じゃ。何も問題ないぞ」

「そっか、そうだよね」


 ドラコは龍の一夫一婦制に悩んでいたみたいだけど、こちらは一夫多妻制だから特に問題はない。

 ビアンカ殿下も、特にその辺は気にしていないみたいだ。


「ビアンカとも付き合いはあるし、何も問題ないわね」

「しかも赤龍王の娘とは、恐れ入ったわ」

「ヴィルも、王女と龍のお姫様を迎えて大変ね」


 王妃様達も歓迎ムードなので、全く問題はなさそうだ。

 となるとお祭りモードになっていき、いつの間にか宴会が始まった。

 特産の牛の焼肉に、地元名産の冷酒が振る舞われた。

 大人はお酒を堪能していて、子ども達は、ジュースを飲んでいた。

 一緒に連れてきたスラタロウは、冷酒やご飯を試食し何やら新しい料理を考えている。


「皆、仲いいのですわね」

「色々あった子ども達ですけど、その分繋がりは強いです」

「人種は関係なく、兄弟みたいなものもですわね」


 俺は大人に混じって食事しているけど、本当に子ども達は仲が良い。

 他の赤龍の子どもも加わっても、あっという間にワイワイやっている。

 ちなみにドラコの父親は、娘の嫁入り先が決まってまたしても気絶していた。

 ドラコの父親が本当に赤龍王なのか気になる。

 

「キャー!」

「姉さん、シラユキが襲われた!」


 食事も終盤になって、大人がいい感じで酔っ払っていた頃、屋敷の外から突然悲鳴が聞こえてきた。

 赤龍の若者が抱えてきたのは、真っ白い髪の女の子だった。

 顔色は相当に悪いけど、毒でも使われたか?


「シラユキ! なんて酷いことを」

「すみません、暗闇に紛れて賊を見失いました」

「ミケが捕まえる!」

「ララも」

「リリも行く!」


 メイド姿のドラコのおばさんの娘らしく、血相を変えて娘を抱きしめていた。

 俺も直ぐに駆け寄って治療を開始する。

 傷は脇腹の一つだけだけど、全身に淀みがまわっている。

 間違いなく毒が使われたな。

 急いで聖魔法を使い、状態回復魔法と回復魔法で治療を行う。

 強力な毒が使われたのかかなりの魔力を使ったけど、何とか回復させられた。

 

「これで大丈夫かと。ただ、強力な毒を使われたので暫く安静が必要ですね」

「サトーさん。娘の命を助けて頂き、感謝の申し上げようもありません」


 ドラコのおばさんは、涙ながらに感謝してくれた。

 毒のせいで衰弱してしまったので、暫く安静が必要だ。


「お兄ちゃん、悪い人捕まえてきたよ」

「何だか、場違いの人間が混ざっているな」


 ミケが犯人を直ぐに捕まえてきた。

 タラちゃんの糸でぐるぐる巻きにされているので逃げようがない。

 襲撃犯は四人で、三人はどう見ても犯罪組織の構成員。

 もう一人は、どう見ても貴族っぽい服を着ている。


「ダータラム子爵、何故ここにいるのですか?」

「ひい!」


 王妃様の冷徹な声が響いた。

 やはり貴族だったのか。

 山道は夜間は締まるというので、ここにいる関係者以外はいないという。

 つまりは、この男も侵入者。

 ダータラムと言われた小太りの貴族は、ここに集まっているメンバーに言葉を失っているようだ。


「せっかくの祝の席なのに!」

「お酒が不味くなってしまいましたわ」

「祝の席を狙うとは、余程命知らずだな」

「娘の受けた仕打ちを、お前も食らうがいい」

「ひいいいい!」


 王妃様達に加えてドラコの母親とおばさんも一緒になり、ダータラムと言われた貴族を屋敷の空き部屋に引きずっていった。

 十分後、怒り心頭の制裁組が、真っ白に燃え尽きているダータラム子爵を再び引きずってきた。


「こいつは龍のウロコを手に入れようとしたらしい」

「今まで何回も侵入していたのは、コイツラで間違いなさそうだ」

「赤龍の中に真っ白い龍がいたから、普通以上に効果があると思っていたらしいよ」


 急遽陛下と総督が呼び出されて場所を総督府に変え、制裁組による説明がなされていた。

 親玉であるダンビル伯爵がこの街に逗留しているというので、自治領の兵と軍務卿率いるミケ達によって捕縛するために宿に向かったいった。

 王都のダンビル伯爵とダータラム子爵の屋敷にも、既に騎士が向かっているという。


「お主等は、本当に我が国の害虫だな。自己の利益の為に、周りを食い荒らすとは」

「自治領にとっても、今まで本当に厄介でしたからね。捕まってほっとしてます」


 陛下も総督もかなりのお冠だ。

 タヌキ侯爵の事件から殆ど日が立っていないのに、またしても貴族主義の連中が事件を起こしたのだから。


「陛下、ダンビル伯爵を連れてきました。毒も発見しました」

「な、何でここに陛下が!」

「お主に語る必要はない」


 軍務卿によって連れてこられたダンビル伯爵は、総督府に陛下がいることに驚いていた。

 しかし陛下は相当に怒っているのか、ダンビル伯爵に対してかなり冷たい反応だ。


「毒殺未遂事件があって、今一度毒は厳罰だと通達したはずだ。もはや言い逃れはできないな」

「くぅ」


 フローレンスの毒の件があって、全貴族に毒に関する通達が出ていた。

 平気で破ったのだから、言い逃れはできないだろう。


「もはや、これまでだ! ぐふぇ」

「おっと、魔獣にはさせないよ」


 どんな行動を起こすかチェックしていたので、奥歯を噛み締めようとしたのも直ぐに分かった。

 当て身で直ぐに寝てもらった。

 しかし全く鍛えていない腹だったから、気をつけないと貫通しそうだった。

 ちなみにダータラム子爵と襲撃犯はタラちゃんの催眠魔法で寝てもらい、その空きに口の中にあった薬を奪わせてもらった。

 ダンビル伯爵も、直ぐに口の中から薬を取り出していっちょ上がり。

 直ぐに王都にワープして、兵士に引き渡した。


「サトー達がいてくれて助かった。しかし馬鹿な奴らだのう」

「まさかタヌキ侯爵がいなくなって、直ぐに行動に起こすとは思いませんでした」

「北方にあるエルフ自治領にも、今回の件を通達した。本当は直ぐにサトーにはエルフ自治領へ行ってもらいたいのだが、暫くは事後処理だな」

「無事に龍のウロコも手に入れたので、王都の防壁作りが先決ですね」


 ドラコとヴィル様の婚約決定のパーティーは、改めて日を決めて行うことになった。

 関係者を王都に戻して、俺達はドラコの実家で宿泊することになった。

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