第百九十四話 ドワーフの親方

「うーん、これは暫くこちらで治療が必要ですね」

「すみません、宜しくお願いします」


 昨日襲撃者に毒で襲われたシラユキさんは、まだ体の一部に毒が残っていた。

 というのも、龍を襲撃するというので、フローレンスの時の百倍の濃度の毒を使ったという。

 龍とはいえ、いくらなんでも酷すぎる。

 シラユキさんは母親であるドラコのおばさんにも頼まれて、一時的に家で預かって治療をすることになった。

 シラユキはドラコと同じ年だという。

 うちは、今年九歳になる人が多いな。


「すみません、ご迷惑をおかけします」

「いやいや、シラユキさんが気に病む事はないですよ」


 しかし流石は龍というべきか、あれだけの毒を受けてもう意識を取り戻している。

 暫くは治療とリハビリが必要だけど、直ぐに回復するだろう。

 ちなみにシラユキさんが赤龍なのに全身が白いのは、隔世遺伝の為らしい。

 何代か前に白龍という氷属性の龍を迎えた為らしい。

 名字にあたる部分は赤龍なので、中々ややこしい。

 今は客室のベットで寝かせていて、フローレンスが面倒を見ている。


「これからはたまに帰ってくるよ」

「そうしてやって。あの人が起動する程度に」

「ねーね、またね!」


 ドラコは、家族に見送られて出発した。

 ちなみに父親は、未だに起動していないらしい。

 なので、鍛冶場の棟梁へのお詫びは娘であるドラコがすることになった。

 シラユキさんを送ってこないといけないし、どうせ直ぐにくると思う。


「しかし、ドラコの母君は妾の母上に似ている」

「あ、レイアも思った」

「お酒飲んでいたら、肩組んでいたよね」


 馬車で山道を下っていく途中で、ドラコのお母さんの話になった。

 確かに雰囲気は王妃様に似ている。

 

「僕も初めて王妃様にあった時に思ったよ。あ、お母さんに似てるって」

「中々豪傑な女性だったのう」

「あはは、でも本当はお父さんとお母さんはラブラブなんだよね」

「また会いたいな」

「シラユキの事もある。直ぐに会えるぞ」


 どうもマチルダは、ああいう母親が良いみたいだ。

 実の母親から虐待を受けていたので、ああいった母親像に憧れているのかも。

 豪快だけど、優しそうな母親だったな。


「そういえば、ドラコの祖父母はいなかったのう」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんは、確か世界一周の旅に出ているよ。旅行が好きで、ふらふらとどこかに行っているよ」

「何とも羨ましい。妾達もゆっくりしたら、温泉でも入ってノンビリとしたいのう」


 年取っても夫婦で旅行か。仲良くていいな。

 龍は基本的に一夫一婦制というのもあるかもしれない。


 ガキン! ガキン!


 そうこうしている内に、鍛冶場に到着。

 中からは、金属を叩く音がしている。

 大声で色々な指示が飛び交っている。

 まさに仕事場って感じだ。


「これはこれは姫様。どういったご要件で?」

「お父さんが溜め込んでいた鉱石を持ってきたの。ご迷惑をおかけしてごめんなさい」

「いえいえ、まあ在庫はまだありますから。こちらにどうぞ」


 事務所にいって、中にいたドワーフにドラコが色々説明をした。

 しかしやはりここでもドラコは姫様か。

 事務のドワーフも、えらく説明が丁寧だ。

 事務のドワーフに連れられてきたのは、鉱石置き場だった。


「種類別に分けてありますので、種類ごとに置いてください」

「分かりました」


 俺は指定された場所に、鉱石を種類ごとに置いていく。

 というか、ドラコの父親は随分と溜め込んでいたという量だ。


「ありがとうございます。実は少し前から、ゴレス領の鉱石も入ってきたので在庫には少し余裕がありました」

「とはいえ、お父さんがこんなにも溜めていてごめんなさい」

「いえいえ、姫様が謝ることではないですよ。ではいつもどおりに書類を進めておきます」


 ゴレス領からも鉱石が入ってきたんだ。

 鉱山の親方達が頑張っているんだな。

 事務員さんは、そのまま鍛冶場に連れて行ってくれた。


「親方! 姫様が鉱石を持ってきてくれたぞ」

「そうか、丁度赤龍の取った鉱石が必要だったんだ。助かる」


 親方と呼ばれたのは、いかにもドワーフの鍛冶屋といった感じのオヤジだった。

 見た目で良いものを作っていると分かる。


「おお、様々な物を作っているのじゃな」

「各地にも鍛冶場はありますが、ここドワーフ自治領の鍛冶場は大きいですからね。生活用品から武器まで何でも作ります」


 ナイフやフォークにフライパンやら鍋も。また剣や盾も並んでいる。

 小さな金具とかもあったので、本当に何でも作れるんだ。


「あ、刀もある。俺の折れちゃったから、買い替えようかな」

「何! 刀が折れただと! 見せてみろ!」

「あ、はい!」


 ぼそっと刀のことを言っていたら、親方が飛んできた。

 鍛冶屋のプライドがあるのだろう。

 俺は折れた刀を親方にみせた。


「成程、魔法剣の刀か。作りは悪くないが鍛えが甘いし何より粘りがない」

「仲間を守るために、とある水晶を破壊したら壊れてしまって」

「味方を守るために壊れたなら本望と言うやつがいるが、俺は違うね。武器は無事であってこそ主人を守るものだ」

「おお、カッコいい」


 レイアが、親方を絶賛している。

 確かに職人魂が見えた感じがした。


「魔法剣で使うにしても、刀は鉄鉱石の方が良い。刀は粘りが命で、ミスリルでは粘りがでない」

「しかし、鉄鉱石で魔法剣につかえるのですか?」

「赤龍の取った鉄鉱石なら問題ない。後は、龍のウロコの粉があれば完璧だ」

「親方、お父さんのウロコでも大丈夫?」

「姫様の所のウロコなら一級品だ。全く問題ない」

「じゃあ、とりあえずツボ一つ分でいい?」

「ははは、流石は奥方の娘様だ。何とも豪気な感じがいいぞ」


 ドラコも間に入って商談が成立した。

 お金は後払いでいいとのことだ。


「さっき総督から、武器の販売に関して色々通達があったな」

「うむ、しかしサトー達は販売に支障はない。何せ、救国の聖女の関係者なのだからな」

「そうか、あの有名な聖女の関係者か。なら気合を入れて作らんとな」


 親方はガハハと笑いながら、気合を入れて刀作りをしてくれるという。

 出来上がりは二週間後らしいので、非常に楽しみだ。


 その後市場に出て、米を大人買いしてついでに米問屋に米の大量購入について話を聞いた。

 どうも去年豊作だったので米余りらしく、売れるなら是非と言ってくれた。

 王都にも商会があるらしいので、帰ったら是非とも行ってみよう。

 陛下や王妃様達には日本酒を大人買いしておく。

 あと、エステル達には親方作成のネックレスを買おう。

 というか、あの親方スゲーな。こんなアクセサリまで作るとは。

 子ども達にも色々お土産を買って、我が家にワープで戻る。


「へえ、サトーにしては気の利いたお土産ね」

「羽根の形をして、とても綺麗です」

「私まで貰い、ありがとうございます」


 早速買ったネックレスをエステル達にあげたら、かなり喜んでくれた。

 子ども達へのお土産も好評だった。


「注文した刀ができるのが二週間後だから、その時に一緒に行ってみる?」

「いく! 昨日は夜だったから、あまり街の様子は分からなかったんだよね」

「本当は温泉にも入りたいですけど、もう少し落ち着いてからですわね」


 刀が出来るときには、皆でもう一回ドワーフ自治領に行くことに。

 貴族主義の連中の件が収まれば、サザンレイクのコテージやドワーフ自治領の温泉にゆっくり行きたいな。

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