第百四十八話 明日以後について

「「「「おー!」」」」

「こ、これがスライムが作った料理?」


 皆戻ってきたので、早めの夕食。

 今日のスラタロウの逸品は、人数が多いのでオーク肉のビーフシチューに野菜スープ。

 ビーフシチューは前にも作ったからか、野菜の出汁を取ったりと更に手が込んでいる。

 パンとご飯が選べていて、兵士はご飯を選んでいる人が多いな。

 

「お、美味しい。こんなに美味しい料理は初めて食べました」

「だよね。私はもうスラタロウの料理の虜だよ」

「その気持ちはよく分かります」


 ビーフシチューを一口食べたヘレーネ様は、その美味しさに感動している。

 子ども達と兵士も、美味しいとガツガツ食べている。

 俺もビーフシチューを食べるが、改めてスラタロウの料理の美味しさに感動だ。


「あの、すみません。私達にも何か食事を頂けますか?」


 匂いに誘われて街の人から声がかかったが、スラタロウはその位折り込み済み。

 俺達も食べ終えた人から、直ぐにお屋敷の前で炊き出しの準備を始める。

 

「エステル様、皆さん手慣れてますね」

「まあ、色々な領地で炊き出ししているからね。ヘレーネは休んでていいよ」

「いえ、私も手伝います。できることは手伝います」

「流石は軍の女神様だね」


 あれ? エステル殿下がヘレーネ様に言った軍の女神様とは何だろう?

 その疑問には、軍務卿が答えてくれた。


「ヘレーネは回復魔法の使い手でな。よくボランティアで、教会や軍で無料で治療していたのだ」

「だから軍の女神様なんですね。エステル殿下も呼び捨てで呼ぶほどに親しい訳だ」

「軍の強面からも評判良くてな。是非我が家に嫁にきてくれと、いくつもの求婚があった。まあ昔からの婚約者がいたから、全て断っていたがな」

 

 そういうわけか。

 それなら軍の女神様と言われても納得がいく。

 今も炊き出しの横に仮設した治療所で、直ぐに治療を始めている。

 人のお世話をするのが好きなのかもしれない。

 話し合いができるようになるにはもう少し掛かりそうだから、俺も治療に参加しよう。


「ふう、とりあえず一段落ですね」

「また明日改めてやりましょう」


 日も落ちて夜になったので、炊き出しも治療所も今日は終了。

 明日に向けて、スラタロウ作成の食堂で色々話をすることに。

 明かりの魔道具もあるので照明も問題ないし、皆で紅茶を飲みながらゆっくりしている。

 軍務卿はお酒飲んでいるが、量は少な目にするという。

 その前に改めて自己紹介だか、驚かれたのはミケとリンさん。


「ミケちゃんって、貴族の当主なのですか?」

「そうだよ。でも、貴族っぽい事してないし、呼び方もミケでいいよ!」

「はあ……」


 まさかこんな小さい獣人の女の子が、武功で貴族になるなんて信じられないだろう。

 だけど、ミケもこれまでかなり活躍しているからな。


「リン様も貴族当主ですか。同級生で貴族当主になれたのは、一番早いんじゃないですか?」

「といってもほぼサトーさんについていった結果だし、当主といっても名誉爵位だから一代きりだしね」

「それでも凄いです。尊敬します」


 ヘレーネ様がリンさんに向ける眼差しは、まるでアイドルを見ているかのようだった。

 まあ同級生が名誉爵位とはいえ新しい当主になったのだから、俺もヘレーネ様の気持ちは分かる。


「ちなみに私とリンちゃんは、サトーの婚約者候補。サトーが伯爵になれば、めでたく結婚かな」

「え、えー!」


 エステル殿下が、ついでというか余計な情報を流した。

 ヘレーネ様はビックリして、驚いた表情で俺とエステル殿下とリンさんを交互に見ていた。


「明日のことについて話をしますか」

「思いっきり話を切り替えたのう」


 ビアンカ殿下がニヤニヤしながら言ってくるが、このままでは話が始まらないですよ。


「軍務卿、明日朝に飛龍部隊がくるんですよね?」

「そうだ。行きは、アイザック伯爵とかギース伯爵の王都の屋敷の人が乗ってくる。帰りに三人の当主を王都に護送する予定だ。部隊も明日朝王都を出るが、早くても明後日の夕方到着だな」


 飛龍はそこまで人を乗せられないから、まずは重要な人がきてから他の人は明後日の夜につく。

 といってもお屋敷がボロボロだから、作り直すといっても仮住まいは必要だろう。


「ビアンカ殿下、明日は国境付近の防壁を作らないといけないですよね?」

「うむ。本来は屋敷の事もどうにかしないとならぬが、どうしても防衛が先になる」

「朝一で簡単な倉庫とか作れますか? 荷物とかはできるだけ運び出しておきたいので」

「そのくらいなら問題はない。明日朝すぐにやろう」


 荷物はアイテムボックスに入れれば運び出しとかできるから、俺だけでも対応できる。

 必要不必要とかあるから、そこはヘレーネ様に見てもらわないと。


「ブルーノ侯爵領やランドルフ領の様に残党がいると思うので、ミケやララとかと一緒に街を巡回させましょう」

「そのほうが良いのう。ポチとかをつけて、直ぐに拘束させるようにするのじゃ」

「ミケとララ達も良いかな?」

「ミケにお任せだよ!」

「ララ大丈夫!」

「リリも」

「レイアは、ビアンカ殿下と一緒の方が良いかな?」

「その方が、妾としても助かるのう」

「レイアも頑張る」


 子ども達はこれでいいかな。

 炊き出しとかはいつものメンバーでいいだろうし、ヘレーネ様も手伝うと言ってくるだろう。

 マリリさんはほぼノア様に付きっきりになるけど、こればかりはしょうがないな。

 もう一つ確認しないといけないことがある。


「軍務卿、捕まえた三人の当主の領地の確認も必要ですよね?」

「本音だと今すぐにでもサトーに向かってもらいたいが、ギース伯爵領も国の要所だからある程度は復旧させないとまずい。王都から部隊を出すというが四日はかかるからな」

「中々悩ましいところですね。確かここからも三日はかかるという」

「周辺は小領地ばかりで他に上位貴族もいないから、国の代わりに兵を派遣することもできん。当主が不在になって、大人しくしてくれればいいがな」

「そう願うしかないですね」


 こっちも忙しくて手がまわらないから、あちら側が大人しくしてくれることを祈るばかりだ。

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