第百四十七話 治療開始

 夕方になると、ブルーノ侯爵領からの応援と国境からの小隊が到着した。

 皆ギース伯爵領の被害の大きさに驚いていた。


「軍務卿、一個小隊到着しました」

「ご苦労。野営地を作り終えた後、休憩を取るように。明日朝から活動を開始する」

「はっ、かしこまりました」


 小隊長は軍務卿から指示を受け、行動を開始した。


「サトーのアニキ、俺らはまだ動けますぜ」

「そうです、こんな惨状は見過ごせません」

「じゃあこちらも野営地を設営後に、救護班の一部は教会と獣人部隊は今活動している部隊と交代で。戦闘があったから、活動している人を休ませよう」

「わかりやした、直ぐに準備します」

「私達も準備して教会に向かいます」


 ブルーノ侯爵領からの部隊はギース伯爵領から近い分まだ動けるので、野営地を設営後に活動となった。

 うーん、お屋敷の庭がまるでキャンプ村になっているけど、こればかりはしょうがない。

 既にスラタロウの手によって、トイレや食べるためのテーブルやイスも作られている。

 今は夕食の準備中で、人数が多い分大量に作っている。

 そのスラタロウの姿を見て、唖然とするヘレーネ様。


「エステル様、リン様。スライムがものすごい勢いで料理を作ってますが」

「最初は誰もがびっくりするよね」

「安心してください。とっても美味しいですよ」

「はあ、にわかには信じられません」


 そりゃそうだよな。そもそもスライムが料理をするなんて考えられないよな。

 逆にスラタロウの料理を食べたことのある小隊や応援部隊は、ワクワクしながら料理ができるのを待っていた。

 そこにミケの乗った馬車が到着した。


「お兄ちゃん、悪い人連れてきたよ」

「お疲れ、まだ悪い人いる?」

「まだいるよ、もう一回行ってくる!」

「ララ達は?」

「教会に行ったよ。怪我した人が一杯いるの」

「そっか、明日は救護所とかもう少し増やすか」


 御者のいない馬車にびっくりした人もいるが、この馬なら問題ない。

 騎士が馬車から次々と襲撃犯を降ろしていき、馬車の中が空っぽになった所で再び馬車は動き出した。

 うーん、確かにてくてくと馬が勝手に馬車を引いている様に見えるな。

 でも、今は人手が足りないから放置で。

 と、今度はララ達が乗った馬車がやってきた。

 御者台にはレイアがいるが、馬の手綱は握っていない。

 まあ、問題はないだろう。


「パパ、大怪我している人を連れてきたよ」

「え、本当か?」

「うん、手とかがちぎれちゃったりしているの。簡単には治療したよ」

「そうか、良くやったな」


 レイアの頭を撫でながら馬車を見ると、重傷者が四名乗っていた。

 騎士が一名を慎重に運ぶ中、ララとリリとレイアが念動で患者を運んでいた。

 いつの間にできるようになったんだ?

 ララ達は、重傷者を運んだら直ぐに教会に引き返した。

 まだ患者が沢山いるという。

 明日は、朝から門の前で炊き出しや治療所をやったほうがいいな。


「痛々しいですね。治すことができるのでしょうか?」


 ヘレーネ様もこちらにきたが、手足がなかったり重度の骨折をしていたりと、見ただけで重傷者とわかる。


「まあサトーなら直ぐに治すから」

「そうですね。見ていてびっくりしますよ」

「え、そうなのですか?」


 ヘレーネ様は信じられないという表情で、エステル殿下とリンさんを見ていた。

 まあ、この手の重傷者は、宮廷魔道士か教会でも高位の人でないと治らないだろうな。

 とりあえず足が重度の骨折のおっさんから聖魔法をかける。

 うーん、このおっさんビール腹だから肝臓に痛風もあるな。

 ついでに治しておこう。

 聖魔法をかけると、随分と良くなったようだ。

 お次は、手首から切断されている男の子と。

 他に悪い所はないから、一気に聖魔法をかける。

 次は複数箇所を骨折しているお婆さん。

 白内障なのか目も悪いから、一緒に治しておこう。

 最後に顔に大怪我をおった少女。

 おや? 血液疾患か他の病気なのか、全身が悪いな。

 ちょっと魔力使うけど、一緒に治そう。


「とりあえず、治療終わりましたよ。他にも悪い所があったので、ついでに治しています」

「流石の手際の良さね」

「ええ、改めて思います」


 エステル殿下とリンさんは、俺の手際の良さを褒めてくれた。

 一方、ヘレーネ様はポカーンとした表情をしていた。


「そんな、これだけの大怪我があっという間に治った。しかも欠損部位まで再生している」


 どうも俺の治療の効果が信じられないようだ。

 その気持ちが分かると、エステル殿下とリンさんもちょっと笑っていた。


「最近噂に聞いている救国の聖女様は、欠損部位も大怪我もあっという間に治したと聞きました。まさに同じですね」

「あ、その聖女はサトーの事だから」

「え? 聖女様は女性と聞いていますが」

「サトーさんが女装した姿なんですよ。一度見るとビックリしますよ」


 エステル殿下とリンさんが聖女サトーの秘密をアッサリとバラしたが、ヘレーネ様は全く信じられないようだ。

 エステル殿下が何かを期待する目で俺を見ているが、俺は女装なんかしないぞ。

 治療の終わった人は、順に救護室代わりのテントに搬送する。

 ブルーノ侯爵領からきた救護班が様子を見てくれているので、看護はお任せしよう。


「お兄ちゃん、ただいま。悪い人連れてきたよ」

「お疲れ、これで全部かな?」

「うん、全員だよ。ガルフお兄ちゃんとマルクお兄ちゃんも一緒に乗っているんだ」

「そっか、ご苦労さま。ちょうど教会に行った馬車も戻ってきたから、落ち着いたら夕食だな」

「やったー!」


 ララ達の馬車も到着したし、ここで一回休憩にしよう。

 改めての自己紹介に、今後の事も決めないとならない。

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