第百三十九話 出陣

 翌日の早朝、俺達は屋敷の庭に集まっていた。

 ガルフさんとマルクさんが参加した本体に、ブルーノ侯爵家騎士団の獣人部隊が二十人参加する。

 というかこの獣人部隊、以前俺と訓練したことのある人達だ。

 あれから訓練を重ねて、魔獣も討伐できるようになったらしい。

 俺も獣人の成長に感慨深いものがある。

 ルキアさんが俺達の前に立って話し始めた。


「皆さん、朝早くからお疲れ様です。この作戦は極秘作戦になっていますが、とても重要な戦いになります。無事に成功することを祈ります」


 皆は黙ってルキアさんの話を聞いていた。

 昨日も思ったけど、だいぶ大貴族の当主の風格が出てきている。

 初めてあった時から、かなりいい方向に変わったな。


「では作戦の内容を、ライズ子爵より説明してもらいます」


 ライズ子爵って誰だ? って声がそこら中から聞こえる。

 おい、ミケも一瞬忘れていたぞ。

 俺が前に出ると、ざわざわと獣人部隊がざわめき始めた。


「えー、サトーです。この度子爵に叙爵されました。これは置いといて、作戦の概要を説明します」


 喋りだしたら静かになってくれたので良かったが、獣人部隊は俺が子爵になって目が点になっている。

 ちゃんと話を聞いてくれるかな?

 ちょっと心配だけど、そのまま話を続けよう。


「表向きはギース伯爵領の調査になりますが、既にギース伯爵領で人神教国やワース商会が暗躍しているのが確認されています。ギース伯爵領の人神教国とワース商会の関係者を捕縛もしくは無効化し、魔獣が現れたら討伐するのが主な目的です」

「この後直ぐに山道からギース伯爵領を目指し、ギース伯爵領に到着次第直ぐに作戦開始となります」

「制圧目標は三箇所、領主邸と人神教会とワース商会になります。ここは本隊のメンバーを分散して配置します」

「領主邸には俺とエステル殿下、従魔にタラちゃんとホワイトにショコラをつけます。ショコラは領主邸制圧したら、直ぐにここブルーノ侯爵家のお屋敷に飛んでもらいます」

「人神教会にはビアンカ殿下とオリガさんとマリリさんに、従魔をフランソワにサファイアとタコヤキか着きます」

「ワース商会には、リンさんとガルフさんとマルクさん。従魔はポチとスラタロウが着きます」

「人神教会とワース商会は無効化が優先です。フランソワとポチの糸での拘束をうまく使って下さい。領主邸と人神教会とワース商会の制圧が完了したら、ビアンカ殿下は陛下に連絡して部隊の派遣を依頼してください」

「ミケとシルと馬は遊撃隊です。街中に魔獣が出た場合は優先して討伐し、その後は人神教国に繋がる森の付近で警戒にあたります」

「獣人部隊は、巡回と街道の警備です。街道は三つあるので、巡回を多めに四部隊に分けます。ワース商会や人神教会の残党がいたら、直ぐに拘束してください。また魔獣が現れたら、街道に逃さない様に対応してください」

「今回は住民を守りながらの難しい戦いになります。後衛部隊が少ない分、怪我には十分注意してください」


 皆真剣に話を聞いてくれた。恐らくこれで大丈夫だろう。

 後はいつもながらだけど、状況に応じて動くしかないな。

 少数精鋭だから、臨機応変に動ける強みがあるし。


「では最後に、リンドウ男爵より一言お願いします」


 ルキアさんがリンドウ男爵って言ったら、またもや誰だって雰囲気になった。

 ミケがスタスタと前に歩いていったら、特に獣人を中心にざわめきが聞こえた。

 まさかミケちゃんが貴族に? って声が聞こえたけど、俺もまさかって思ったよ。


「えっと、悪い人をやっつけて、みんなを助けよう!」

「「「おー!」」」


 ミケらしい言葉だったが、皆の威勢の良い声が上がった。

 一応締まったので、出発となる。

 各々準備を整えて、お屋敷の門の前に集まった。


「皆さんお気をつけて」

「ルキアさん、後は宜しくお願いします」


 ルキアさんに見送られて、俺達はギース伯爵領へ出発した。

 少し歩くと直ぐに山道へ通じる道に出た。

 今の所は普通の道だな。

 段々と傾斜が上がっていく山道を進んでいく。

 その途中で、獣人部隊の隊長から声がかかった。


「あのー、ライズ子爵? サトー様? 何て呼べばいいですか?」

「サトーでいいですよ。ミケも普通に読んで下さい」

「ではサトーさんでいいですか? いやあ、久々にあったら貴族になっていてビックリしました」

「俺もビックリしていますよ。授爵されたのも昨日ですし。でも貴族になっても、結局やることは変わらないですよ」

「エステルやリンのアネゴも変わらずに接してくれます。俺達からしたら、肩肘張らずに済んで助かってます」

「特にエステル殿下は気を張るのが嫌いだからな。今のままでいいと思うよ」


 隊長と談笑しながら山道を進んでいく。

 ミケは普通に獣人部隊の人と話をしている。

 でも獣人部隊の人は、ミケを少しだけ憧れの目で見ている。

 隊長に聞くと、同じ獣人で貴族になったのが励みになっているという。

 そう思うと、ミケが貴族になって良かった面もありそうだ。


 順調に行程は進んでいき、既に山頂を過ぎてギース伯爵領側に入った。


「ビアンカ殿下。この山道は所々崩れていて狭くなっていますが、このくらいなら直ぐに修復できますね」

「妾やスラタロウではなく、普通の土魔法使いなら直ぐに補修ができる。これは公共工事として、ルキアに任せても問題ないじゃろう」


 俺達がやれば直ぐに補修できるが、統治者としてはそれは良くない。

 そんな事を思っていたら、ミケが街の異変に気がついた様だ。


「お兄ちゃん、街から血の匂いがするよ」

「あっしらも感じましたぜ。間違いない」

「思ったより状況は良くないかもしれない。急ぎ向かいながら、各分担に分かれて行動を開始する」


 もしかしたら、街中で何かあったのかもしれない。

 はやる気持ちを抑えて、早足でギース伯爵領の街に進んでいく。

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