第百二十三話 屋敷内の捜索

「さて、我々もそろそろ動こう」


 空にかかる虹が消えた後、アルス王子が声をかけた。

 俺達も動き出さないと。


「飛龍をブルーノ侯爵領とバスク領に飛ばす。この時間なら夕方までには小隊が到着するだろう」

「到着までの間、国境を妾達で抑えておこう」

「屋敷内にいる人の保護も必要ですね。伯爵夫妻の末の娘もいるということですし」

「住民の栄養状態も良くなかったので、急ぎ炊き出しも必要でしょう」


 ここからは分担して動くことに。

 アルス王子が騎士に指示を出して飛龍を各地に向かわせ、屋敷内の捜索を行うことに。俺とミケも同行する。

 国境へはビアンカ殿下とエステル殿下にオリガさんが向かう。

 場合によっては国境の土塁とかを強化しないと行けないため、スラタロウとポチも一緒に行く。

 念の為に、連絡役としてサファイアも行くことに。

 残りのリンさんマリリさんで、炊き出しと治療所をすることに。

 調理担当はタコヤキです。

 回復役と警護で、タラちゃんとフランソワが一緒にいます。


「では、宜しく頼む」

「「はっ」」


 二頭の飛龍が飛び立ったのを見送った後、活動を開始する。

 残った騎士は、国境の方に行くことに。

 ちなみに殿下の飛龍は、早速保護された子ども達と遊んでいる。

 ブルーノ侯爵領でも手慣れていたし、もう優秀な保育士さんだ。


 俺達は屋敷内に再び入ったけど、玄関ホールとかが戦闘の後で凄く汚れている。

 俺は生活魔法で玄関ホールをキレイにしながら、討伐した魔獣を回収していく。

 ちなみにダインとビルゴの遺体は、アルス王子が回収していた。

 そりゃ重要な証拠だからな。

 しかし魔力制御の力が上がった為か、生活魔法もうまく使えるようになってピカピカになっている。


「思ったよりも酷い状況だったな」

「屋敷の使用人をダインが殺害したり、魔獣にして徴兵したのでしょう」


 一階を捜索したけど、目新しい物は見つからなかった。

 何人かのメイドと使用人が見つかったけど、メイドはまた手足の欠損が見受けられた。

 後は、ダインによって殺害されたと思わしき人が何人かいる。

 男女関係なく殺害されていたけど、この人たちも回収して後で埋葬しないと。

 部屋も生活魔法でキレイにして、直ぐにでも住めるようにする。

 台所も食堂も物凄いグチャグチャだったので、ここも生活魔法でキレイにする。

 屋敷の管理が追いつかない程に、使用人を殺害していたのだろう。


 二階に上がって部屋を捜索したが、異様な部屋が二つあった。


「ミケ、この部屋には入っちゃ駄目だ」

「分かった、廊下で待っている」

「とても子どもには見せられないな」


 先ずはダインと思わしき部屋、というか間違いないだろう。

 急いで生活魔法でキレイにしてドアを開けて換気をしたが、物凄い腐臭が室内を漂っていた。

 というのも、あたり一面にダインによって殺害された人が転がっていたのだ。

 子どもと思われる遺体もあったので、ダインの残虐性に思わず吐き気をもよおす。

 遺体を回収して室内を捜索するが、特に目新しい物はない。

 できればこの部屋は、念入りに浄化したほうがいいだろう。


 次の部屋は、ブルーノ侯爵家に嫁いだ娘の部屋。


「うわあ、これはこれで凄いな」

「宝石が一杯!」

「頭を抱えたくなるものだな」


 部屋を開けると、中は宝石や絵画などの高級品が山積みに。

 この部屋だけで、一体いくらの価値の物があるのだろう。

 宝石なども回収して、扱いをどうするかを王都で決めるそうだ。


「さて次の部屋が恐らく末の娘の部屋だろうが、先に伯爵夫妻の部屋を捜索しておこう」


 アルス王子の方針で、先に伯爵夫妻の部屋を捜索することに。

 部屋を開けると、キチンと整理されている空間が広がっていた。

 中にあった執務机の上には、書類がキチンと整理されて置かれていた。

 アルス王子が書類に目を通した後、俺に書類を渡してきた。

 受け取った書類に目を通す。


「普段意識を保てる時間が無いから、要約して書いてありますね」

「だが、事件のあらましが良くわかる。ここにもビルゴが絡んでいたとは」

「だから伯爵夫妻は、あそこまでビルゴに怒りを覚えていたのですね」


 簡単なあらましでは、五年以上前にランドルフ伯爵家に新しい使用人がやってきた。

 それがビルゴだったらしい。

 ビルゴは伯爵夫妻の息子と娘に薬を飲ませて正常な判断ができないようにし、子どもを人質にして夫妻も操ったとの事。

 実際には子どもの負の側面を表立つ様にして、横暴な性格にしていたという。

 後の経緯は俺も知っている通りだったが、この辺も専門家の分析が必要なのだろう。

 自分の子どもを人質にされたら、それはビルゴに対して怒るだろうな。

 早速アルス王子は、この文書を国王の元に魔道具で送っていた。

 他にも室内を探すといくつか書類が出てきたので、それも纏めて国王に送っていた。

 後は夫婦の思い出の品だったので、これは流石に手を付けられない。

 アルス王子曰く伯爵としてではなく夫妻の個人の物だから、残っている末の娘に譲られるものとの事。

 俺も夫妻の思い出の物は接収したくないな。

 ちなみに伯爵夫妻が俺と娘に渡した剣と杖も、伯爵夫妻が生きている内の個人的な贈与なので何も問題無いらしい。


 最後に末の娘の部屋に入る。

 そういえば、全ての部屋の鍵が空いていたな。

 鍵の束は伯爵夫妻の部屋にあったので、今後はその辺は心配はない。


 部屋を開けるとベットの上に弱った少女がいた。

 すえた匂いがしたので、動けずにずっとベットの上にいたのだろう。


「ミケ、窓を開けて」

「分かった」


 ミケに換気をしてもらい、その間に少女を治療することにする。


「王族のアルスだ。そなたを保護しにきた、もう心配はない」


 アルス王子が少女に声をかけると、少女はこくんとうなずいた。

 俺はまず生活魔法で少女をキレイにし、ポーションを飲ませた。

 少し顔色が良くなったが、痩せていてあまり容態はよくなさそうだ。

 体を観察したが、今までの中で一番容態が良くない。

 片目はくりぬかれ、全ての四肢が切断されている。

 犯された跡もあるから、犯人は間違いなくダインだろう。

 実の妹にこのような仕打ちをするあたり、いくらビルゴによって狂わされたとはいえ元々ダインにはそういう狂気があったのだろう。

 とはいえ、このままでは良くない。

 回復魔法をかけたとはいえ、体力がかなり落ちている。

 スープやおかゆなどで少しずつ食事をとって、体力を戻さないといけない。


「アルス王子、この少女はここから動かすのは危険ですね」

「ある程度動ける様にならないと、かえって危険だ」


 どっちにしろ暫くはここにいるだろうから、その間に体力を回復させないといけないな。


「ミケ、炊き出ししているマリリさんに声をかけて、スープとかを貰ってきてくれない?」

「分かった。直ぐ行くよ」


 ミケは、外の炊き出しの所に走って行った。

 そして直ぐにマリリさんを連れてきた。


「アルス王子、サトーさん。ご飯を食べさせるのとあわせて着替えもさせます。男性は外にお願いします」

「ああ、分かった」

「ミケ、宜しくね」

「任せて!」


 少女の世話をマリリさんとミケに任せて、アルス王子殿下と俺は屋敷内の捜索を続ける。

 次は、伯爵夫妻の部屋で見つけた屋敷内の図に書かれていた地下牢に向かう。

 と言っても特筆すべき物はなかった。

 牢の中は全て空っぽっているのもあったので、捜索するものが何もなかった。

 

「とりあえずはこの辺までだな。後は部隊が到着してから再開だな」

「そうですね。屋敷の中はあまりないですね」


 アルス王子と俺は屋敷を出て、先ずは屋敷前の炊き出しの所に。

 住民が沢山並んでいる所を見ると、食料事情も良くないのだろう。

 子どもも美味しそうに、タコヤキの作った料理を食べていた。

 そして人手が足りないのか、リンさんの横で殿下の飛龍が大きな手を器用に使いながらスープをよそっている。

 お玉を上手く摘みながら配膳している姿は、かなりコミカルな光景だ。

 並んでいる人の整理は、もう一頭の飛龍が行っている。

 余計な仕事をさせてしまって申し訳ない。

 治療所の方はあまり患者はいない様で、そんなには並んでいない。

 動けない患者もいる可能性があるので、また訪問看護をしないといけない。


「リンさん、任せてしまって申し訳ない」

「いえ、食事した人達も手伝ってくれているので何とかなりますよ」


 任せっきりにしてしまっているリンさんに申し訳ないが、もう少し頑張ってもらうことにした。

 その後アルス王子と俺は人神教会とワース商会を捜索したが、こちらも事前に資料などを引き払っているのかめぼしい物はなかった。

 ワース商会で囚われている子どももいなかったので、保護した十人の子どもが全部なのだろう。


 そして国境付近に向かうと、ビアンカ殿下とスラタロウが何やら頑丈な土壁を作っていた。

 国境の橋は飛龍部隊の騎士によって警備されていて、その横では拘束されている兵らしきのがいる。


「ビアンカ殿下、あの拘束されている兵らしきのは誰ですか?」

「闇ギルドの人間じゃ。ブルーノ侯爵領に来たときの様に、下っ端が警備しておった」

「まあ、見た感じ国境なのに警備施設何もないですからね」

「人神教国のやつらは、ノーパスで出入国していたのじゃろう。ここは早急に整備をしないといけないのじゃ」


 川にただ橋が繋がっているだけで、周辺にはなんにも監視する場所や防衛の為の城壁がない。

 ビアンカ殿下とスラタロウは急いで監視所を作り、簡易的な城壁を作っていた。

 と言っても土をかなり圧縮しているから、かなり固い城壁になっている。


「アルス王子。国境なので、普通は中隊くらいいてもいいですよね?」

「うむ、ここまで警備がザルなのもマズイ。これからくる部隊のうち、先ずは三小隊を配置して順番に監視させよう」


 と、ここでランドルフ伯爵領に一番近いブルーノ侯爵領から部隊がやってきたようだ。

 

「殿下、ブルーノ侯爵領より三小隊到着しました」

「ご苦労。休憩を取った後に二部隊は国境の警備につき、一部隊はワース商会と人神教会の捜索にあたるように」

「はっ」


 これで国境の警備はひとまず安心だな。

 まだ土魔法で城壁を作っているビアンカ殿下に、この後の予定を聞いてみた。


「ビアンカ殿下、まだ城壁作っていますか?」

「うむ。夕方までには、ある程度形にしておかんと」

「分かりました、無理をしないで下さいね」


 ビアンカ殿下と別れて、屋敷に戻る。

 屋敷前に着くと、突然三つの影が俺に抱きついてきた。

 

「「お兄ちゃん!」」

「パパ」

「ララとリリにレイア? 何でここに?」

「兵隊さんと一緒にきたの」

「ちゃんとルキアお姉ちゃんの許可を取ったよ」

「シルも一緒ならいいって」


 黙ってこっちにきた訳ではないから大丈夫なのだが、ちらりと馬車の方を見ると中でシルが爆睡していた。

 何かあれば起きると思うが、ぱっと見は護衛しているとは思えないな。

 遠くからは別の部隊も見えてきた。バスク領からの部隊だな。

 着々と戦力が整いつつあるので、国境の警備もこれで一段落だろう。

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