第九十四話 子ども達の魔法訓練その一

 ペシペシ、ペシペシ。


「「お兄ちゃん、起きて」」

「パパ、パパ」

「うーん、ちょっと待ってよ」


 朝から顔を叩かれて起こされる。

 なんだ? まだだいぶ朝早いぞ。


「ララ、リリ、レイア、朝早いぞ。もう少し寝させて」


 スヤー。

 ララ達の攻撃を無視して、再び夢の世界へ。


 ペシペシ、ペシペシ。

 ペシペシ、ペシペシ。

 ペシペシ、ペシペシ。


「「お兄ちゃん、起きて起きて」」

「早くしないと、薬草が逃げちゃうよ」


 レイアよ、薬草から足生えて逃げたら大変な事だぞ。

 ダメだ、ララ達が冒険に行ける興奮で完全に目が覚めてしまっている。

 これは薬草取りに行くまでに、何かをして時間を潰さないと。


「うーん、ちょっと待ってな」


 俺の上に乗っていた三人を下ろして、ベットから起きる。

 頭をかきながら周りを見渡すと、俺の脇ではミケとドラコが寝ていた。

 昨晩は一つのベットに俺一人と子ども五人がぎゅうぎゅう詰めで寝ることに。

 子どもは体温が高いから、俺は寝汗をかいてしまったよ。

 ちなみに床ではシルとベリルが就寝中。

 昨日お屋敷に到着した時に姿を見せなかったベリルは、サロンでエーファ様の膝の上で頭を撫でられながら爆睡してやがった。

 完全にグータラな生活を送っていたようだ。

 エーファ様が俺の事を呼んでその際に起きたベリルは、俺と目があってかなり慌てていた。

 エーファ様が庇ってくれたので何も言わなかったが、今日の薬草取りは頑張ってもらわないといけないな。


 どうせだから、朝食まで時間があるから三人の魔法の上達具合を見てみよう。

 

「朝食まで時間があるから、庭で三人の魔法を見ようか。裏庭にいくか?」

「「「行くー」」」


 という事なので、三人を連れて裏庭に移動。

 しかし相変わらず朝早くてもメイドさんが忙しなく動いている。

 本当にお世話のプロはすごいな。

 裏庭に着いたら、ララが俺の腕を引っ張ってきた。


「お兄ちゃん。お兄ちゃんがいない時に、マルクさんが魔法の適性を見てくれたんだよ」

「リリも見てもらったよ」

「レイアも」

「そうなんだ。後でマルクさんにお礼を言わないと。どんな適性があった?」

「うーんと、ララは水と聖と生活魔法だって」

「リリは火と闇と回復だって言ってた」

「レイアは風と雷と回復。ベリルは土と風だって」

「うまい具合にバラけたな。三人で魔法少女できそうだ」


 力とかはまだだから前衛には立てないけど、うまく育てば強力な後衛になりそうだ。

 しかもララとリリは魔法制御が上達すれば飛行も可能らしいから、三次元攻撃も可能だ。


「じゃあ、ララから順番に俺に魔力を流してみてね」

「はーい」


 ララ、リリ、レイアと順番に俺に魔力を流しているが、問題なくできている。

 これなら、この先に移っても問題はなさそうだ。


「よし、じゃあ次はもっと難しい魔法制御になるけど、三人はできるかな?」

「ララ、大丈夫だよ」

「リリも大丈夫」

「レイアも」

「よし、ちょっと待ってな」


 アイテムボックスから魔法剣の柄を出す。

 三人は不思議そうに魔法剣の柄を見ていた。

 俺は適当に一つを手に取る。


「これはね、魔力を剣とかに変える事ができるんだ。こんな感じだよ」

「「「おー!」」」


 三人は、俺が発動した魔法剣にびっくりしたようだ。

 目が点になっている。


「でもね上手く魔力制御しないと、魔法の刃ができないよ」

「ララできるもん」

「リリもリリも」

「レイアも」

「よし、それじゃあこの中から一つ選んでみてね」


 三人は魔法剣の柄の中から自分にあったのを選んでいた。

 何を選ぶか三人は迷うかなと思ったら、あっさりと決まった。


「ララはこれがいい」


 ララは槍タイプのものを選んだようだ。

 天使だから、イメージにぴったりだ。


「リリはこれにする」


 リリは大鎌だ。

 確か死神のイメージだけど、悪魔だから良しとしよう。


「レイアはこれにする」


 レイアは短弓だな。魔法で矢を作って飛ばすらしい。

 弓はいかにもエルフっぽいな。


「これだって感じたよ」

「リリもこれって思った」

「レイアも」


 どうやら三人とも直感で武器を選んだらしい。

 きっと本能で使いやすい武器を選んだのだろう。


「よし、じゃあ魔法剣を持って少し離れて。体の一部の様に……」

「できた!」

「こんな感じなのかな?」

「お、当たった」

「あはは、もうできているよ」


 俺が説明しようとした所で、既に三人は魔法剣を発動させていた。

 あ、レイアの放った魔法の矢が木に綺麗に刺さった。

 俺が教える必要、もうなくない?


「サトーよ、見ておったがあっさりと子どもに抜かれたのう」

「これは種族特性もありそうだね」

「ビアンカちゃん、サトーも一生懸命に教えていたんだから」


 裏庭にビアンカ殿下とリンさんとエステル殿下が顔を出した。

 どうも暫く俺達の様子を見ていたようだ。

 しかし種族特性ってなんだろう。


「リンさん、種族特性ってなんですか?」

「種族によって力が強かったり、魔法が得意だったりするんです。例えば獣人は力が強かったり、エルフなどは魔法が得意だったりしますよ」

「なるほど、そういう事か」


 天使と悪魔とエルフだと、どう考えても魔法が上手いイメージがあるな。

 あっさり追い越されたのはそういう事にしておこう。


「ララよ、今なら魔法が放てそうな気がしないか?」

「そういえば、何だかできそうな気がする」

「リリもできそう」

「レイアも」


 ビアンカ殿下がララ達に魔法が放てるか聞いたところ、できそうだとみんな答えた。

 前にも同じような事があったな。


「ビアンカ殿下、ミケが魔法使えるようになった時も魔法剣の柄を使えた後ですね」

「うむ、妾もそう思って聞いてみたのじゃ。この魔道具は上手く改良すれば、魔法が使えないものの訓練道具になりそうじゃ」

「訓練道具なら、別に魔法剣発動させる必要もないし安全ですね」


 ビアンカ殿下はこの魔道具の別の利用価値に気がついた様だ。

 それなら難しい構造は不要だし。


「ララ達よ、魔法を放ってみたいか?」

「「「うん!」」」

「自分の属性の魔法で放ってみたい魔法をイメージするのじゃ。そして手に魔力を集めるのじゃ」

「「「あ、なんかできそう」」」


 ビアンカ殿下がララ達に放出系の魔法の使い方を教えているが、ララ達の手は俺に向いていないか?

 あ、魔力が集まってきた。やばい。

 俺は急いで魔法障壁を展開する。


 ちゅどーん、ちゅどーん、ちゅどーん。


「危なかった……」


 結構な威力の魔法が飛んできたぞ。

 後少し魔法障壁の展開が遅かったら危なかった。

 冷や汗をかいていたが、三人は初めて魔法が使えて喜んでいた。


「凄い凄い!」

「リリ魔法が使えた」

「レイアも」

「では、今の感覚を忘れぬ内にもう一回じゃ。なに、サトーなら魔法障壁を使えるし問題はないのじゃ」

「よーし、頑張るぞ」

「リリも頑張る」

「レイアも」

「ちょっと!」


 ドカン、ドカン、ドカン。


 急いで再度魔法障壁を張ったところに、再度魔法が直撃してきた。

 くそ、さっきよりも威力が上がっているぞ。

 暫くの間、ひたすら高威力の魔法を防ぎ続けていた。


「ぜいぜいぜいぜい」

「あーあ、お兄ちゃんに全て防がれちゃった」

「リリ、もっと魔法が上手くなるように頑張る」

「レイアも頑張る」


 全部防ぐのは当たり前だ、当たったら大怪我するよ。

 息を切らしている俺を横目に、三人は残念がっていた。

 そこにミケとドラコにシルとベリルが、部屋から起きて裏庭にきたようだ。


「うむ、それでは明日はドラコも加わった魔法訓練にするぞ。三人もまた朝特訓だ」

「おー、ついに僕も魔法が使えるんだね」

「ララ頑張る!」

「リリも、リリも頑張るよ」

「レイアも頑張る」


 シルの一言で、明日はドラコも加わっての魔法訓練となった。

 ドラコも含めてみんな喜んでいる。


「主人は、また魔法障壁だぞ」

「そんな事だと思ったよ」


 もう展開が読めていたので、諦めておくことにした。

 どうせ、ベリルも加わっての魔法砲撃大会になりそうだな。

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