第九十五話 子ども達の冒険者登録

「「「おお!」」」

「これがギルドか!」


 朝食を食べて身支度を整えて、皆で馬車に乗り込み冒険者ギルドへ。

 ぶっちゃけバルガス領のギルドの方が大きいけど、子ども達にとってはバスク領のギルドも大きいんだな。

 ララとリリとレイアは建物の大きさにビックリしたような声を上げ、ドラコは冒険者ギルドに感動してキラキラした目をしていた。


「ここで止まると他の人の邪魔になるから、中にはいるぞ」

「「「「「はーい」」」」」


 ミケも含めて、元気よく返事をして手を上げていた。

 引率する感じで、俺が先頭で歩いている。

 その後を行儀よくついてくる子ども達。気分はアヒルの行進だ。


「ふふ、とても可愛いです」

「微笑ましい光景ですね」

「妾もあのような時があったのじゃ」


 リンさんとエステル殿下が、俺達の後ろから子ども達の様子を見てほっこりしている。

 あと、ビアンカ殿下。随分と昔の様な発言をしていたけど、あなた確かドラコと同じ年ですよ。


「バスク領の冒険者ギルドへようこそ」

「「「「うわあ」」」」

「この子達の冒険者登録をお願いします。全員五歳以上です」

「畏まりました。ではこちらの書類に記入をお願いします」

「ありがとうございます。文字書けるか?」

「「「「大丈夫!」」」」


 ギルドの中に入って、受付のお姉さんの所で手続きを始める。

 子ども達は、お姉さんの冒険者ギルドへようこそに感動したらしい。

 今は一生懸命に書類を書いている。


「お騒がせてしてすみません」

「いえ、サトー様には薬草の件と街道の魔物退治の件もあり、更にはワース商会の事もございます。言わばバスク領のギルドにとっても恩人でございます」

「そう言って頂けますと、我々も頑張ったかいがあります」


 受付のお姉さんと雑談していたが、ギルドの中の雰囲気もだいぶ良くなった。

 前のギスギスした感じも薄れ、所々に初心者も見受けられる。

 この分だと依頼の種類も増えたんだな。


「パパ書けた」

「お、どれどれ?」


 最初にレイアが書き終わったので、書いた紙を受け取って見てみる。

 問題はなさそうだし、随分と達筆だな。


「すみません、こちらをお願いします」

「はい、確認します。可愛らしいお子さんですね」

「実際の子どもではないんですけどね。ワース商会事件で保護した子達です」

「それにしては随分と懐かれてますね」

「有り難いことに、よく懐かれてます」


 受付のお姉さんと話していると、どうやらララとリリも書き終わった様だ。


「「はい、お兄ちゃん」」

「どれどれ。大丈夫かな」

「はい、確認しますね」


 ララとリリはお姉さんに書類を確認してもらっていて、ワクワクしているみたいだ。二人の背中の羽が、小さくパタパタと動いている。


「サトーできたよ」

「ドラコもできたか。うーん、もう少し字を練習しないと」

「うう、勉強キライだもん」

「まあまあ、男性の冒険者ですと物凄い字を書く方がいらっしゃいますから。このくらいなら全く問題ありませんよ」


 ドラコの字は読めなくはないが、もう少し頑張らないと。

 ただ、お姉さんが言っていた様に、汚い人は暗号の様に見えるらしい。


「はい、ではできたらこの番号で呼ぶので、少し待っててね」

「「「「はーい!」」」」


 バルガス領でも作り終わったら番号で呼ぶので、この辺はどこのギルドも同じなのかも知れない。

 番号札はレイアが大事そうに持っていた。


「じゃあ、登録カードが出来るまで、あっちの依頼掲示板を見に行こう」

「「楽しみ!」」

「どんな依頼があるのかな?」

「魔物倒したい!」


 カードが出来るまでの間、掲示板を見ることに。

 子ども達も掲示板に興味津々だ。

 ビアンカ殿下とエステル殿下とリンさんにミケも依頼掲示板の所にいるので、ついでに依頼も見ておこう。


「みなさんおまたせしました」

「以外と早かったのう、後はカードができるのを待つばかりか」

「はい、ところで何でリンさんとエステル殿下は機嫌が悪いのですか?」

「はあ、無自覚じゃのう」


 そう、リンさんとエステル殿下が俺の顔を見つめながら不機嫌な顔をしている。

 ちなみに子ども達は、ミケと一緒に早速依頼を見ている。


「サトーさん」

「サトー」

「はい」

「サトーさんは人妻が好きなんですか?」

「そうです、人妻好きなんですね」

「はっ? 何のことですか?」


 突然二人が変な質問をしてきたぞ。

 俺が人妻好きって、何のことだ?


「受付のお姉さんと仲良く話をしてました」

「仲良くって、事件解決のお礼とかされてただけですよ」

「ニコニコと話ししてました」

「子ども達もいるから、そりゃ威圧して話はできないですよ」

「あの受付のお姉さん、結婚していて子持ちなんですよ」

「そうなんですね。だから子ども達にも優しいんだ」

「私達みたいな小娘よりも、人妻の包容力がいいのかと」

「それ以前に人妻に手を出したら犯罪ですよ」


 成程、俺が受付のお姉さんと話をしていたからやきもちを焼いたんだ。

 そもそも仕事中にナンパはしないし、人妻には手を出しません。


「ほら、妾の言った通りじゃろう、サトーが人妻に手を出す訳はないと」

「そうですけど」

「サトーは誰にも優しすぎです」


 じゃあ、どうすればいいんだよ。

 久々に二人が焼きもちモードに入ったぞ。


「三番の札の方、登録が終わりましたよ」

「パパ、呼ばれたから行ってくる」

「ああ、じゃあ俺も行くよ」

「サトーさん、わたしも行きます」

「そうだね、わたしも行くよ」


 ただ、子ども達のカードを受け取るだけなのに勝手に修羅場になっていく。

 ビアンカ殿下も溜め息をついているぞ。


「おまたせしました。リン様もようこそギルドへ。リン様にも事件の事で色々対応頂きありがとうございました」

「ええ、この領の為ですから当然の事をしたまでですよ」


 あーあ、受付のお姉さんから最初に丁寧な言い回しをされたから、リンさんもツッコミづらくなったぞ。

 これは人生の年季の差だろうな。


「「登録できた?」」

「ええ、確認をしてくださいね」

「「「「やったー」」」」


 早速カードを受け取り喜ぶ子ども達。

 後は小さなマジックバックと、初心者用の冊子も貰った。

 バルガス領のギルドと同じだな。

 あと、これは聞いておこう。


「初心者講習とかは受ける必要ありますか?」

「バスク領では特に初心者講習は行っておりません。ただ、初心者の方は初めはできるだけ経験者のグループについて行くように指導しています」

「この子達なら俺達がいますので問題ないですね」

「はい、サトー様達なら問題ありません」


 新人講習を受けなくてもいいんだ。

 俺とリンさんはまさかのビルゴだったし。

 担当にも当たり外れはありそうだ。


「実はサトー様とリン様の講習の担当が指名手配になりましたので、講習制度が一時的にストップしております。以前から講師の当たり外れもあり、ギルドとしても別の対策を検討中となります」


 って、マジでビルゴ問題でストップですか。

 一定数を闇ギルドに勧誘していたと言うし、これは仕方ないのだろう。

 

「サトー様はこれからどちらへ向かわれますか?」

「子ども達を連れて、王都に向かう森で薬草取りをする予定です」

「もし可能でしたら、三人の新人冒険者グループの面倒を見てほしいのです」


 受付のお姉さんが指差した先には、三人の女の子のグループがいた。

 三人は獣人のグループで、猫獣人と犬獣人とうさぎ獣人だった。

 ビアンカ殿下より少し年上で、十歳位に見える。


「ビアンカ殿下、エステル殿下、リンさん。どうしますか?」

「別に初心者講習位なら大丈夫じゃろう。どうせ子ども達にもやらんといかんし」

「いいんじゃない? 薬草取りなら先に私達でもできるし」

「原因が私達にもないとは言えないので、ここは手助けしてあげた方がいいですね」


 今日は子ども達に冒険者の心得を教えても問題ないし、ポチとフランソワがいるから他のメンバーでも薬草取りを任せても良いだろう。


「分かりました、俺で良ければ引き受けますよ」

「こちらこそ申し訳ありません。助かります。それでは彼女達を呼んできますね」


 受付のお姉さんは、獣人の女の子達に声をかけていた。

 そういえば、バスク領の冒険者はつい最近まで護衛依頼が多かったから、圧倒的に男性が多い。

 俺達は女性が多いから、その辺も頼まれた原因になるのだろうな。


「サトー様、おまたせしました。こちらの冒険者グループになります」

「チナです。初心者講習受けてくれてありがとうございます」


 受付のお姉さんが冒険者グループを連れてきた。

 チナと言ったうさぎ獣人が代表して挨拶してきた。


「ここでは何だから、移動しながら話を聞こう。薬草は常時依頼だから、後でも手続きできるし」

「はい、分かりました」


 うーん、チナさんは若干緊張していて挨拶が固いな。

 他の猫獣人と犬獣人の子も緊張しているぞ。

 ここは子どもの力を借りよう。


「ミケ、このお姉ちゃん達も一緒に薬草取るんだって。馬車まで案内してくれる?」

「ミケにお任せだよ! お姉ちゃん行こう」

「えっ、あっ」

「ララ達も他のお姉ちゃんを連れてってね」

「「「「分かった!」」」」


 子ども達に手をひかれながら、チナさん達を馬車に誘導していく。

 俺の後ろでは、ビアンカ殿下がヤレヤレといった表情をしていた。

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