第九十三話 子ども達との再開

「リン様、みなさま、おかえりなさいませ」

「ただいま戻りました、マルクさん」

「リン様、オリガとマリリは同行しておりませんか?」

「ええ、ブルーノ侯爵領でルキアさんの護衛を任せておりますわ」

「左様でしたか。馬車は私がお預かりします。みなさま中へどうぞ」


 バスク領のお屋敷に到着したら、マルクさんが出迎えてくれた。

 オリガさんとマリリさんがいないのが気になったらしいが、元気に任務中と分かるとホッとしていた。

 お屋敷の中に入ると、直ぐに三つの人影が俺に飛び込んできた。


「「「おかえりなさい!」」」

「おっと。ただいま、元気にしていたか?」

「「「うん!」」」


 俺に飛び込んできたララ、リリ、レイアを抱きしめて頭を撫でてやる。

 三人共、元気一杯で良かった。


「あらあら、直ぐにサトーさんに飛び込んでしまったのね」

「お母様、ただいま戻りました」

「おかえりなさい。怪我とかしてないですか?」

「はい、何事もなく無事に帰ってきました」


 サーシャさんも着てくれて、リンさんを抱きしめていた。

 娘が無事に帰ってきて嬉しいのだろうね。

 ここで、サーシャさんはドラコに気がついた様だ。


「あら、こちらのお嬢さんは初めてですね」

「初めまして、ドラコです。サトーに助けてもらって、一緒に冒険者することになりました」

「あら、そうなんですね。ワタシはサーシャ、この娘の母親ですよ」

「リンのお母さん?」

「そうそう、良くできました」


 サーシャさんはリンさんを開放したかと思ったら、ドラコに抱きついてきた。

 おや、ドラコを抱きしめるサーシャさんの瞳が怪しく光ったぞ。


「ドラコちゃん。お洋服は今着ている物の他にある?」

「いや、これだけで」

「あら、それは大変。女の子なんだから、可愛い服を一杯着ないと駄目よ」

「え、ちょっと」

「そうだ、ミケちゃんの服もあるからこっちにおいでね」

「はーい」

「ちょっと、サトー助け、あー!」


 凄いぞサーシャさん。

 ドラコの服がないと分かると、ドラコをお針子さんがいる部屋に引きずっていった。

 人化しているとはいえ、龍の子を引きずっていくとは。


「サトーよ、取り敢えずバスク卿のところにいくぞ」

「そうですね、気にしたら負けですね」


 ドラコとミケをサーシャさんに託して、テリー様の執務室へ。

 ララ達は俺にべったりくっついているので、無理矢理離すのはやめておいた。


 コンコン。


「お父様、宜しいでしょうか」

「おお、リンか。入ってくれ」


 執務室に入ると、テリー様が待っていた。

 俺達はソファーに座るが、ララ達は俺の膝の上や股の間に座り込んだ。

 その様子に、テリー様もニコニコとしている。


「ははは、サトー殿は早速捕まりましたか」

「まあ、寂しい思いをさせましたから、このくらいは我慢します」

「今日は甘えさせてあげるがいいぞ」


 取り敢えず挨拶はこのくらいにして、本題に入るとするか。


「無事にブルーノ侯爵領でのワース商会の対応は完了し、領主の救出に領主夫人の拘束ができました」

「それは良かった。ブルーノ侯爵が生きているとなると、我らも対応がしやすい」

「既に事件の関係者は、王都に移送されました。現在は、復興と難民の帰還に向けた調整が始まったところです」


 こういう良い話ができるのはいいな。

 色々な問題に対する事の話し合いばっかりだったし。


「今回はブルーノ侯爵領で薬草が不足している為に、一時的に採取に来ました。しかし、難民の問題も平行して対応してますので、また直ぐにこちらに来ると思われます」

「我が領もそうだが、ブルーノ侯爵領にとっても人々の帰還は早いほうが良い。色々決まったら、我々も協力しよう」

「ありがとうございます」


 バスク領が一番難民の数が多いので、とにかく早く動かないと。

 少しでも早く、難民が安心して暮らせるようにしないと。


「ブルーノ侯爵領ではオース商会に助けられました。またお金を援助いただき感謝します」

「援助は気にするな。我が領を助けてくれたお礼も含んでおる。それにオース商会からも報告が入ったが、かなりの売り上げを出してくれたようで。逆にお礼をしないといけないな」


 おっと、俺が女装して店員していた事がバレたかと焦ったが、特にテリー様は何も言わなかった。

 オース商会の売上が、テリー様の役に立つなら問題ないだろう。


「これから暫くは、難民対策の為に各地を行ったり来たりします。申し訳ないですが、バスク領にも何回もお邪魔するかと」

「それは構わんよ、部屋もそのままにしてある。いつでも帰ってくるがよい」


 テリー様は笑って逗留を許してくれた。

 バスク領の懸念を少しづつ解消しないとな。


「サトー助けて」

「おっと、何があったんだ?」


 テリー様との話を終えてそれぞれが部屋に戻っていく途中で、ドラコが俺に抱きついてきた。

 おい、子どもとはいえ上半身裸でパンツ一丁だぞ。

 

「あ、サトーさん。ちょうど良いところに」

「ひぃ」


 そこにサーシャさんがドレスを持って現れると、ドラコはびっくりして俺の後ろに隠れてしまった。


「サーシャさん、できればそのへんで。ドラコも旅で疲れているので」

「分かっているんだけどね。その赤い髪と瞳に合わせたドレスを、どうしても着てもらいたくて」

「ヒラヒラした服は嫌い!」


 どうもサーシャさんはドラコにドレスを着せたくて仕方ないらしい。

 でもドラコは動きやすい服装が好きなのか、ドレスを嫌がっていた。

 

「今日はこの辺にしておきましょう。ドラコに嫌われたら、服を着てもらう事もできないですよ」

「あらそれは大変、それは避けないとね」

「それで、ドラコが着ていた服はどうしたのですが?」

「所々ほつれてたから、今直してるのよ」

「分かりました。ミケの予備を着させます」


 ミケはもう少しサーシャさんと一緒にいるらしいので、部屋に入ってドラコに服を着せてやった。


「うー、あのおばちゃん怖い。力も物凄いんだもん」

「あーあ、サーシャさんドラコに怖がられたな。ドラコ、サーシャさんは悪い人ではないんだよ」

「悪い匂いはしないのは分かったんだけど、笑顔が怖いんだもん」


 着替えの終わったドラコは、俺に抱きついてメソメソしている。

 ドラコにとっては、サーシャさんのファッションショーがとても怖かったんだな。

 わかる、わかるぞ。俺もその恐怖を経験したから。

 と、ララとリリとレイアが、俺に抱きついているドラコをじーっと見ていた。


「「「その子誰?」」」

「この子はドラコっていうの。一緒に冒険者をするんだよ」

「パパ、レイアの仲間になるの?」

「そうだよ」


 俺が一緒に冒険者になると言うと、レイアがトコトコとこちらにきた。

 グズっていたドラコも、レイアに気がついた様だ。


「あたしレイア」

「えっと、僕はドラコだよ」

「レイアもパパと一緒に冒険をするの。だから仲間だよ」


 レイアはそう言って、ドラコにギュッと抱きついた。

 それを見て、ララとリリもこっちに来た。


「あー、レイアずるい。ララだよ」

「わたしはリリです。宜しくねドラコ」


 ララとリリもドラコに抱きついてきた。

 ドラコは戸惑いながらも、レイアとララとリリを抱きしめていた。


「ドラコ、道中の馬車の中で言っていた子達だよ。仲良くしてやってね」

「うん、仲良くする」


 小さい子供同士、仲良くなってもらいたいな。

 と、そこにもう一人の子どもがやってきた。

 物凄い化粧とフリフリのドレスを着て。


「お兄ちゃん、どうかな? お姫様!」

「ミケ、何でそんな化粧とドレスを着ているんだ?」

「お兄ちゃんみたいに、お姫様になるの!」


 ちょっと待って、誰がお姫様だって?


「そういえば、助けてくれたときのサトーはお姫様だったよ」

「「お兄ちゃんはキレイになれるよ」」

「パパはママにもなれる」


 あなた達も勘違いしない。

 俺は男であって女装はしないぞ。


「ミケ、俺はもう女装しないぞ」

「えーそうなの? サーシャさんがお兄ちゃんのドレス作ったって言っていたよ」


 サーシャさん、あんた何をしているんですか。

 作るって言ってたのは、謁見や面会用の服じゃなかったんですか?


「ほら、ミケも化粧落として着替えてきなさい。夕食食べたら早く寝るよ。明日はみんなで薬草取りをするんだから」

「はーい」


 ミケはサーシャさんの元に行った。

 これは、どこかでサーシャさんは俺にドレスを着させようとするな。

 そんな事を思っていたら、ララが俺の服を引っ張っていた。


「お兄ちゃん、薬草取るってララも行くの?」

「そうだよ。リリもレイアもだよ。明日はドラコも一緒に冒険者登録をするよ」

「「「やったー!」」」


 三人は、ベットの上でぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。

 ドラコも、その光景を笑顔で見ていた。

 さあ、明日は忙しくなるぞ。

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