第81話 ノックもせずに入る奴は大抵ロクな奴じゃない
俺の
『こいつは一体何なんだ? ニーナ、こいつの種族のこととか、知ってるか?』
「う~ん……多分魚人じゃないの? 普通なら魚人は海の中に住んでいて、滅多に地上には現れないって聞くんだけど……実際に私も見るの初めてだし」
どうやらこの異世界には、エルフや獣人だけでなく、魚人も存在しているらしい。魚人と言ったら半人半魚のマーメイドみたいな姿を想像するが、実際の魚人はこんな姿をしているのか?
しかもこいつ、体つきから見て間違いなく女だ。体格は女性そのものだし、胸にも膨らみがある。さっき俺が電撃を浴びせたときに聞いたこいつの悲鳴も、女性の声――というよりはまるで小さな子どものような声だったけれど……
俺は鑑定スキルを使って、そのシャチ人間を鑑定してみた。
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【名前】:クロム・レア
【種族】:魚人(
【HP】:540/540
【MP】:50/50
【攻撃】480 【防御】850 【体力】390
【知性】30 【器用】50 【精神】340
【保持スキル】潜水:Lv10、跳躍:Lv5,捕食:Lv7、
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やはりニーナの言った通り、こいつは魚人で
しかし攻撃や防御の数値が高い分、知性や器用の数値が圧倒的に低い。果たして知能の低いコイツが、俺たちの言葉を理解できるのだろうか?
とりあえず俺はラビに命じて、そのシャチ似な魚人を
ガシャーン
四方を鉄格子に囲われた部屋に放り込まれ、牢の扉が閉まると、その魚人は目を覚ましたらしく、ゆっくりと起き上がった。
「うぅ……ん………あれ? ここ、どこ?」
魚人は、頭の模様である白い斑点の下に付いた小さな目を擦りながら、眠たげな声を上げる。この魚人、知性は低いけれど人の言葉を喋れるらしい。……が、その声はとても幼く、まるで昼寝から起きた幼稚園児のように聞こえた。
「……あ、えと、ここは船の中です。海賊船クルーエル・ラビ号の中です」
牢屋の外に居たラビが、恐る恐る答えを返す。
「あ、あの……体とか平気ですか? さっき、凄い電撃を受けて痺れていたので……」
「うぅん? デンゲキ? ……あぁ、さっきのビリビリのこと?」
魚人はそう言うと、ふぁあ、と呑気に大きなあくびをしてみせる。あくびした際、口周りにズラリと並んだ鋭い牙が剥き出しになり、ラビは怖がって顔を青くさせた。
普通、あれだけの電撃を浴びせれば人間なら感電死するレベルなのだが、コイツの場合、電撃を受けても気絶しただけで、起きたら何事もなかったようにケロッとしている。こいつのステータスを見ると雷耐性持ちだったから、雷攻撃はあまり通用しないのだろう。
「あのさぁ、さっきはよくも私の仲間を食らってくれたわね! 言っとくけど、私たち血も涙もない海賊なんだよ。こんなことして、タダで済むと思ってんの?」
すると、今度はニーナが強い口調で魚人に向かって言い付けたが、魚人は指をくわえたまま、何を言っているのか分からないとでも言いたげにポカンとした表情でこちらを見つめてくる。
「食らう? ……あぁ、さっき食べたお肉のこと? とっても美味しかった。まだあるの? ちょうだい」
「無いわ! てか、もうやる気も無いわ!」
ニーナの即答に、その魚人は「えぇ~、もっと欲しいよぅ」と物欲しそうな目をして訴える。
「我がまま言わないの! アンタのせいで、私たちがどんだけ大変な思いしたのか分かってんの⁉」
声を上げて叱り付けるニーナ。まるで悪いことをした子どもを
「クロム、それよく分かんない。でも、お肉は美味しかった。ビリビリも気持ち良かった」
そう言って、えへへと笑う魚人。ニーナも話の通じない相手にお手上げのようで、「ああもう何なのよコイツ!」と憤慨していた。さっきからこのシャチ頭の魚人との会話を聞いていると、本当にまだ言葉の
「あの、あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
ラビが魚人にそう尋ねると、魚人は「名前?」と首を傾げた。
「クロムの名前はクロム。クロム・レア。……お前、小さくてとっても美味しそう。食べていい?」
「へっ? あ、あああの、食べちゃダメですっ!」
いきなり「食べていい?」と問いかけられ、ラビは慌てて頭を左右に振る。
「ええと……クロムさんは、どうして私たちの船に来たんですか?」
「……? お腹が空いたから」
包み隠そうともせずに白状するクロム。話を聞いたところによると、水の上を進む俺の影を水中から見てクジラか何かと勘違いしたらしく、食い付いてやろうと思い切り突進したところ、勢い余って船体を突き抜けてしまったという。
――って、いやいや、俺の影をクジラと間違えるのはまだ分かるとして、突進の勢いで船体を突き破るとか、魚雷かよ! コイツの頭は石頭なのか?
しかもクロムは、さっきエルフを三人も平らげただけではまだ足りないらしく、ラビの方を見て舌なめずりしながら言う。
「そこの小さいの、本当に美味しそう……せめて腕一本だけでも分けて。ダメ?」
「だからダメだって言ってるじゃないですかっ! 怒りますよ!」
あまりにもしつこくねだってくるものだから、ラビも観念できずに声を上げてしまう。
「ちぇっ、ケチ! もういい! 力尽くでお前食ってやる!」
クロムは痺れを切らしたように鉄格子を両手でつかむと、鉄格子はぐにゃりと歪んで、左右に押し広げられてゆく。
「ヤバっ! コイツどんだけ怪力なのよ! これじゃ檻を破られる!」
慌てて檻から離れるニーナたち。俺はもう一度、電撃魔法を檻に向かって放った。電撃が檻を囲う鉄格子に流れ込み、火花を散らす。
「アバッ⁉ アババババッバアバババ!!」
感電したクロムが声を上げ、体から白い湯気を立てて床に転がる。
しかし、それでもまだ懲りないらしく、クロムはまた体を起こしてビクンと身震いした。
「あぁ……またビリビリ来た………とっても、気持ち、いい……」
――マズい、どうやら俺の電撃が、このアホに変な性癖を植え付けてしまったらしい。
「もっとビリビリ、頂戴!」
するとクロムは、電撃欲しさのあまり再び檻を壊し始めた。これじゃ大人しくさせるどころか逆効果じゃねーか! とうとう俺の堪忍袋もブチ切れて、最大限の魔力を込めて
『いい加減にしろ! このアホ
バリバリバリバリッ!!
体内の血が沸騰するほどの電撃を浴びせて、ようやくクロムの暴走は止まった。うつ伏せに倒れ、ピクピクッと体を震わせながら、クロムは弱々しい声で言う。
「……だ、誰かがクロムのこと、
しまった……ついうっかりこの魚人にも念話スキルを使ってしまった。船員たちに俺の存在を気付かれないために、念話を使うのはラビとニーナだけって決めていたのに。
まぁ、バレてしまっては仕方がない。
『いいかよく聞け白黒頭。次に少しでも檻をこじ開けようとしてみろ。今度は
脅すように警告すると、クロムは声を大きくして俺にこう言い返した。
「だから、クロムは白黒頭じゃなくてクロムなのっ!」
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