第18話 こんな奴を乗組員になんかするんじゃなかった
――と、そのとき、船がぐらりと揺れたので、俺は視線を外へ向ける。ラビが食事している間、ずっと外で待っていたレイクザウルスの親が、また俺を揺さぶりにかかっていた。俺もこいつらと長く居たせいか、奴らの行動が何を意味しているのか大体分かるようになってきた。こうして俺の船体を揺すってくるときは、俺に何かをしてほしいとねだっているときだ。
『ったく、今度は何だよ? まさかお前らまで腹が減ったとか言うんじゃないだろうな?』
駄々をこねてくる恐竜親子を前に、一体何をしてほしいのか分からず手を焼いてしまっていると……
「……この子たち、あなたにも来てほしいんだと思う」
船長室から出てきたラビが、まるで恐竜親子の心を読むようにポツリとつぶやいた。
「私たちが見て回った場所に、あなたも連れて行きたいって」
『俺を? 何で俺まで……あのな、残念だが俺はここを動けないんだ。重い
(まぁ、コイツにそう言ったところで通じる訳ないんだが……)
こんなことなら、あの商船の乗組員たちを殺さずに脅して、この船で無理やり働かせた方が得策だったかもしれないな。
「じゃあ、私がそう伝えてみるね」
『……は? お前、コイツらと会話できるのか?』
「何となく分かるの、この子たちの思っていることが。……だから、私の思いもきっと分かってくれると思う」
ラビはそう言って、恐竜親子の前に歩み出ると、ゆっくりと手を伸ばした。すると親の方が長い首を曲げてラビの手が届く位置まで頭を下げてくる。ラビはその巨大な鼻先に手を置き、祈るように目を閉じた。
(本当にそんなことできるのかよ……)
俺は半信半疑のまま様子を見ていると、やがてレイクザウルスは頭を持ち上げ、そのまま子を引き連れて湖に潜ってしまった。
『ほら見ろ、やっぱり聞いてくれなかったじゃないか』
「………いや、違う」
ラビは駆け出して、船首側の
『おい、まさか………』
それは、両端にかぎ爪の付いた鉄製の重り――俺の
驚きのあまり声も出せずにいると、甲板の上に立つラビが、
「ほら、やっぱりちゃんと聞いてくれていたでしょ?」
○
恐竜親子は、まるで置き土産のように錨を
俺はもう一度、ラビのステータスを見てみる。
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【名前】ラビリスタ・S・レウィナス
【種族】人間 【地位】なし 【天職】
【HP】50/50
【MP】0/0
【攻撃】25 【防御】35 【体力】35
【知性】75 【器用】100 【精神】40
【保持スキル】錬成術基礎:Lv1、剣術:Lv2、鉱物学基礎:Lv1、裁縫:Lv2、歌唱:Lv3、宮廷作法:Lv2、以心伝心:Lv1、騎乗:Lv1
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いや、なんかしれっとスキル増えてるし。下の二つなんて、この前見たときには無かったぞ……
恐竜親子と遊んでいる間に、知らず知らず獲得したのだろうか? おそらく恐竜親子がラビの言うことを聞いてくれたのも、この「以心伝心」というスキルのおかげなのだろう。彼女、魔法系スキルは使えないが、それ以外のスキルは獲得しやすいようだ。
しかし、
と、気が
『おいラビ、お前にもう一つ仕事だ。マストに昇って帆を固定している
俺がそう命じると、ラビは高くそびえるマストを見上げ、顔を真っ青にさせる。
「えっ……あそこまで、上るの?」
『そうだ。心配するな、落ちても俺が「念動」スキルを使って受け止めてやるから』
そう言ってやるものの、彼女は肩を震わせて首を横に振った。
『上るんだ! 普通の帆船にしろ魔導船にしろ、帆を広げないことには自力で動けない。お前どんなことでもするって言ったよな? 俺に乗ったからには、俺の言うことには
そう言い付けると、ラビは
しかし、半ばほど登ったところで、ラビははしごにしがみ付いたまま動けなくなってしまった。
『だから、落ちても俺が受け止めるって言ってるだろ。下を見るな』
「駄目、無理……怖い………」
ラビは首を横に振って弱々しい声を
『お前にしかできないんだ。このままじゃ俺もお前も、この湖から出られないままなんだぞ』
「………う、うん」
ラビは勇気を振り
「大丈夫……怖くない、怖くない、怖くなんか……」
必死にそう自分に言い聞かせ、縄に足をかけてゆくラビ。しかし、つい足元に目が行ってしまい、はるか真下に遠く映る甲板が、彼女の恐怖を加速させた。
「ひっ!!――やっぱり駄目っ! 降りさせてっ!」
『駄目だ! 上るんだっ!』
と、俺が叫んだそのときだった。ラビの胸に刻まれた
しまった――と思ったときにはもう遅かった。ユニークスキル「
電撃を受けもだえ苦しむラビ。彼女の蒼い瞳の中を、振りかざされた剣の
「―――お父様っ! お母様~~っ!!」
ラビは涙を流しながら自分の両親の名を叫び、襲い来る電撃の苦痛と恐怖のあまり気を失ってしまった。縄ばしごの縄と縄の間から手脚をだらりと垂らして宙ぶらりんになってしまった彼女を、俺は「念動」を使ってそっと下に降ろしてやった。
『少しやり過ぎたか……』
俺の方も感情的になり過ぎてしまったようだ。いち早くこの船を動かしたくて気が
いや、犯罪
『ちくしょう……マジで外道はどっちなんだよ………』
俺は胸の内で
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