一段落
ディエスはようやくリンドール国から釈放された喜びを噛み締めていた。
「牢という場所は本当に疲れたな…」
しばしまともに動かしていなかった体が悲鳴を上げていた。
凝った体を解しつつ、リリュシーヌと共に散歩をする。
今いるのはアドガルム国より与えられた新たな領地だ。
アドガルムに来る前にお世話になったロキの別邸だが、ハインツとの戦闘でだいぶ傷んでしまい、改修工事に移るそうだ。
「一生掛けてでも弁償してもらうからな」
裏庭や建物を破壊した二コラに、物凄い圧をかけて迫ったロキの顔が思い出される。
あれだけの損害があったのに肝心のハインツが捕まえられなかったのだから、ロキの怒りは収まるはずもなかった。
エリックもいくらかは出すそうだが、そこから先は働きを見て出していくそうだ。
「借金がまた増えた…」
と切なそうな顔をしていた二コラが忘れられない。
そそくさとアドガルムに移り、娘たちとまた一緒に過ごせることは待ち望んでいたので、今はとても幸せだ。
ただ思っていた以上に動かない生活は体を鈍らせていたので、ゆったりと時間をかけて調子を整えていかねばならない。
お腹のお肉も思ったよりもぷよぷよしている。
「これからもまだ大変よ。娘たちの、結婚話とかね」
「あぁ…身を立て直すより大変で、重要な案件だな。娘たちが幸せになれるように頑張らないといかん」
レナンの婚約もだが、ミューズとティタンも順調に交際を重ねている。
娘二人の幸せを願わなくてはならない。
自分が投獄されていた時に支えてくれていたのだから、認めないわけにはいかない。
寂しいが新たな幸せを自分達で掴んだのだし、親として応援しなければなるまい。
もう親に頼るだけではなく自分の足で立てる程に成長したのだ。
「私ももっと強くならねばな」
ディエスは独り言ちる。
自分に隙があったから、ハインツや大臣にあのようにつけ込まれてしまった。
祖父とアドガルムの繋がりがなければ家族もどうなっていたかわからない。
故郷に殺されかけたのだから、こうして離れてしまえばもうリンドールへの恩義や未練は全く感じることはなくなった。
後悔はハインツの事だけ。
レナンの婚約者だったはずなのに、まんまと騙された。
腹立たしい男だ。
見つけたら絶対に許さない。
王太子も同じ思いだろう。
穏やかな日々。
ここひと月ばかりの慌ただしさが嘘のようだ。
レナンはエリックとお茶を飲んでいる。
一緒に王城に来た妹のミューズは騎士の訓練場に行っていた。
「剣で俺に勝つまでは、ミューズをくれてやるわけにはいかん!!」
と祖父のシグルドはティタンにそう宣言してから、ティタンは今まで以上に訓練に時間を費やすようになっていたのだ。
エリック不在時はさすがに公務の手伝いに回っていたが、エリックが戻って来るとすぐに訪れ、訓練に力を入れる許可を得に来た。
「ミューズを守れる強い男になること、そしてシグルド殿から一本とれるよう頑張りたいのです」
そう言われて断るわけもなく、エリックはすぐに了承していた。
落ち着いて話すことは出来なくなったものの、鍛錬中の勇ましいティタンを見るのは好きらしく、楽しんで向かっていた。
「私のために頑張ってくれているのだもの、不満なんてないわ。それにティタン様の剣はもうすぐお祖父様に届きそうですもの」
その瞬間に立ち会うのが楽しみだと話していた。
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