妄執の先は
挨拶が終わりミネルヴァと別れると、エリックはすぐにレナンの手を引いてその場から離れる。
「では帰ろう」
「えっ?」
唐突な言葉だった。
まだパーティは続いているし、本当に最初の挨拶を交わしただけ。
ダンスも何もしないとは失礼にあたるのではないかと心配になったが、エリックは毎年こうなのだと話す
グウィエンを見つけると足早に近づき、挨拶をした。
「俺は帰る。お前もまだ残るならば、気をつけろ」
「相変わらずナ=バークに留まらないよな、お前って。毎回何もないぞ」
「何もないならばいい」
ツカツカと靴音を立てつつ、エリックは即馬車へと向かう。
既にニコラが用立てていたので、馬車の用意はされていた、早い。
「エリック様」
馬車の中に入るなり、ぎゅうぎゅうに抱きしめられる。
「俺はナ=バークが嫌いだが、王城はもっと嫌いだ。あそこには【人】がいない」
完璧なる女王制度。
特に王城内など女王に従うモノしかいない。
死ねと言われれば死んでしまうような忠義心を持つものばかりだ。
「ナ=バークは寒い、今の俺には耐えられない」
雪や氷の世界だからではない。
凍るような無表情、笑ってるのに心が籠もっていない、無機質者ばかり。
あそこにいると、エリックは錯覚してしまう。
お前も同じだ、と言われているようで留まりたくなかった。
「一緒に、帰ろう」
レナンの手を取った。
涼やかな表情とは裏腹に手には力が入っている。
「俺がいるのはここではない、アドガルムだ。そこに君と共に帰るんだ」
エリックがナ=バークに対して不安があるのは確かだ。
普段の様子とはまるで違う。
「えぇ、わたくしはあなたと共に」
レナンは握り返す手に力を込める。
共に在ろうと心の中で再び誓った。
「エリック様…」
パーティが終わり、自室へ戻るとドレスも脱がずに、目につくもの全てを破壊した。
ミネルヴァは荒れに荒れ、髪は振り乱している。
怯える侍女達は、身を寄せ、恐ろしい女王を見つめている。
しかし、部屋から逃げることはできない。
女王に仕えるものとしてそんなことは許されない。
「なぜ、何故?!」
エリックがレナンを見る顔は、人であった。
生気の通った顔で、光の灯った目で、情熱的に言葉を交わしていた。
違う、あの人は人になってはいけない。
自分と同じ人形であるはずだった。
でなければ、自分は一人だ。
充てがわれた婚約者と結ばれ、国のために子を為し、この身が果てるまでナ=バークを支える人形。
そんなミネルヴァを理解ってくれるのは、理解ってくれたのはエリックなのに!
あの女は隣りに立つべき者ではない。
自分こそが、エリックに相応しい。
「レナンがいなければ…ハインツが失敗さえしなければ…」
ブツブツと呟く狂気の女王は、その場へと立ち尽くす。
「いなくなればいい、妾を邪魔するものは全て…」
ハインツも要らない。
彼に似ていたが、あれも人だ。
ラーラを捨てきれなかった。
「いつか、必ず奪うのだ。いつか必ず…!」
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