氷塊
「はっ?」
衝撃が先に、そしてその後に熱と痛みがハインツを襲う。
「!!!!」
唐突な攻撃、明らかにエリックじゃない。
エリックは直ぐ様身を翻し、レナンのもとへ駆け寄っていた。
レナンの体を支え、惨劇から隠すように自身のマントへ引き入れた。
「あぁ…」
レナンは真っ白な顔で吹き飛んだ腕と、血に塗れたハインツの顔を見ている。
自力で立っていられず、エリックに体を委ねていた。
「謀った罰だ。当然の報いだ」
レナンは見なくていい、と強く引き寄せる。
「痛いですよね、苦しいですよね。エリック様たちはもっと痛かったのですよ。もちろん僕も。こんな事になって、こんな事をして、あぁ心が痛む」
誰もいなかった場所に男が現れた。
血の付いた剣を持ち、返り血を浴びて立っていたのは、ニコラだ。
「エリック様が引き付けていたから後ろへの警戒が無防備でした。僕、ずっと居たんですよ」
ここは裏庭で、エリック達の後ろが庭園、ハインツの後ろは固く閉ざされた裏口だ。
裏口は結界を張る前に凍らせており、通れるはずはない。
屋敷との行き来は庭園を通るしかないし、戻って来た素振りはなかったはずだ。
ニコラがいると思われる場所には隠れる場所もないし、何より皆が屋敷に入り、気配がなくなったからこそ誰も入られないように結界を張ったのに。
「どこから現れたのです…?」
結界を破ったなら違和感があるはずなのに。
気配を感じるより先に現れた。
ハインツは自身の出血箇所を魔法で凍らせて応急処置を施す。
血が流れすぎるのはまずい。
腕も拾いたいが、ニコラがそれを許してくれそうにない。
「キュアの幻影魔法ですよ、あぁ踏み込んでしまったから地面に穴が…どうしましょ」
おろおろとしだすニコラにエリックは目配せをした。
「庭師にでも頼め。そいつの腕一本分の料金は俺が出してやる。気にするな」
エリックは、耐えきれず気を失ってしまったレナンを支えていた。
「失神されてますね、ショックが大きかったのでしょう…」
キュアも現れ、レナンを診る。
ハインツの多量の出血や腕が吹き飛ぶ様子を見れば、普通の令嬢が耐えられる訳が無い。
エリックは早く決着をつけたくて苛立っているようだ。
「そいつを生け捕りにしたらボーナスをやる。それで地面はチャラくらいだろう、散らした花は知らんが」
「腕一本じゃ足りないって事ですね、わかりました」
お金は大事だからとニコラの姿が消えた。
ゾワリとした感覚より早く、右手側に防御壁と氷の塊をつくる。
防御壁はあっさりと壊れ、ガギンと氷は深く抉れたものの右手は無事だ。
「喋りすぎましたね、予測されちゃいました」
生け捕りと言ったのに、もう片方も取るつもりだったようだ。
加減を知らないのか、出血多量で死ぬぞと心の中でニコラに悪態をつく。
一瞬で姿が見えなくなったのは、ニコラの風魔法だ。
身体強化を足に掛け、風の力で瞬時に対象物に近づく。
暗ければ何が起きたかわからないまま首を落とされるのだ。
使う剣も魔法耐性が高いものを持ってきた為、防御壁も突破しやすい。
再度ニコラが剣を構えた。
今度は容赦などしない。
「なぜそれだけの力を、あの時に見せなかった!」
少しでも時間を稼ごうとする。
そしてこの腕前なら、この前だって簡単に捕縛出来たのではないかと疑問を口にした。
「あの時は周りに兵もいたので、万が一の巻き添えを考えて使いませんでした。ここなら、後でロキ様に謝れば大丈夫ですし」
確かにニコラの踏み込みと風魔法のせいで庭がぐちゃぐちゃになっている。
周囲には切り裂かれたような跡がいっぱいついていた。
「さて、終わりです」
ニコラの本気の目にハインツは怯えた。
このままではマズい!
死ぬわけにも、捕まるわけにもいかないのだ!
「俺は死ぬわけにはいかない、必ず故郷へ帰るんだ!」
持っていた魔石を砕き、見る間にハインツの身体が氷に包まれる。
ニコラはエリックの元まで飛び退り、その光景を見守る。
手出しすべきか、否か。
キュアとニコラが防御壁を張るが、無用のものとなった。
魔法が落ち着いた時にはハインツは巨大な氷に包まれていたからだ。
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