ヒロイン

IORI

私の夏

 それはあまりに突然だった

 

 どこか幼い顔立ちと高い背丈。大きな瞳が印象的なその人は、私の前に現れた。ほんの少し緊張した彼の声音が、私の鼓膜に触れる度に、忘れていた感情をノックする。

 もう無いものだと思ってた。自分には縁がないと諦めてた。なのに、彼の存在が心を染めていく。鮮やかな夏色に染まってく。蕾のままで眠っていたそれは、花開くか露に満ちるか。

 

 いつもなら見てるだけでよかった。その時の私は、心に従順だったのかもしれない。いざとなると汗ばむ手のひらは、送信ボタンのクリックでさえ臆病になる。

 貴方にまた会える

 その希望に胸を馳せて、震える指に勇気を乗せた。

 

 少しづつ弾む会話に、頬が綻ぶ。貴方の名前、貴方の口癖、貴方の優しさ。噛み締めるほどに、甘くて溶けてしまいそう。もっと知りたい。もっと知って欲しい。日に日に増してく身の程知らずの我儘さえ、貴方に届いてしまえたら、どれほど満ちていくのだろう。丁寧な言葉と小さな気遣いを貴方がくれる度に、ほんの少し期待してしまうのだ。距離が縮まったのではないかと、貴方の心に私が映ったのではないかと。

 

 好きなんて綺麗な感情だけなんだろうか。もっと話したい、もっと近づきたい、ねぇ、もっと…。溢れかれる程に、貪欲な願望たち。一つ願いが叶う度、それ以上を願うのが人間の性。彼を前にしたら言えるはずなんてないのに。素直な私も、我儘な私も、猫かぶりに隠れて誤魔化すのだ。

 

 いつか見たヒロインはもっと可愛いのだ。麦わら帽子と向日葵畑が似合うし、白肌と黒髪が映える整った顔立ち。私とは程遠くて、羨ましいことこの上ない。何一つとして勝ち目はないけど、いつか、どうか、あなただけのヒロインになりたい。


 嗚呼、暑い。目眩がするんだ。

 

 焦がれるほどの夏が、私の夏が始まった。


 

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ヒロイン IORI @IORI1203

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