第28話 エリアスとレベッカ
レベッカが主催のお茶会が終わり、オールソン伯爵家の屋敷の庭には誰もいなくなった。
来てくれた人達の見送りも終わって、レベッカは屋敷の一室で一息ついていた。
そこには彼女の婚約者のエリアスもいた。
テーブルを挟んでソファに座って、二人は会話をする。
「エリアス様、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、とても有意義な時間を過ごせたよ。君と一緒にいる時間のすべてに、価値はあるけどね」
「まあ、お上手なんだから」
そんな会話をしながら、二人の時間をゆっくりと楽しんでいた。
話していると、やはりお茶会で一番会話をした二人の話題になる。
「ジークハルト様とはお話しできましたか?」
「この間よりも喋れたよ。まさか今日、彼が来るとは思わなかったけど」
「そうですね、私もジークハルト様はこういうお茶会に来る人ではないと思っていました」
「うん、その認識で正しいよ。彼女、ルアーナ嬢がいなかったから絶対に来てない」
「そうだと思いました」
お茶会の誘いはジークハルトにも出していたが、来るとは思っていなかった。
ジークハルトが来たということで、エリアスは一緒にいたルアーナが彼の特別だということがすぐにわかった。
「ただ特別といっても、まさかあそこまでジークがルアーナ嬢を想っているとは予想できなかったけど」
「私はそうだと思っていましたよ。エリアス様からの話を聞いて、ジークハルト様がルアーナを想っていると」
「そう? やっぱりそういう恋愛事に関して、レベッカに勝てるとは思えないよ」
「ふふっ、女の勘というものです」
子供の頃のジークハルトを知っているからこそ、エリアスはジークハルトが女性を好いていると考えつかなかった。
昔、ジークハルトが王都にいた頃は、辺境伯の嫡男という地位だけを見て寄ってきた令嬢が多かったので、彼は女性が苦手になっていた。
エリアスもその気持ちはわかるので、だからこそ二人は仲良くなれた。
約五年間会っていなかったが、まさかジークハルトもエリアスも、互いに好いた女性が見つかるとは思っていなかった。
「そういえばレベッカも、ルアーナ嬢を気に入っていたね。珍しいね」
レベッカは社交会でもなかなか顔が広く、いろんな令嬢や令息と仲が良い。
だがそれはもちろん友達ではなく、レベッカが付き合って有益だと思った相手と仲良くしているだけだ。
もちろんルアーナと仲良くするのは有益なのだが、レベッカはそれ以上にルアーナに惚れ込んでいた。
エリアスは婚約者でレベッカのことがわかっているから、ルアーナへの態度を見ればすぐにわかった。
「君が初対面の女性にあれだけ仲良くしているのは、初めて見たよ」
「そうですね、私も初めての経験です。それだけルアーナの人間性がとても素晴らしく、とても純粋で可愛くて……簡単に言えば、私がルアーナに惚れてしまったのです」
社交会で見せるような作り笑いじゃなく、ただ愛らしい笑みを見せるレベッカ。
「そうだろうね。君が僕の本性をルアーナ嬢に話したと聞いて、少し驚いたから」
エリアスが腹黒く、令嬢のことを芋のように見ていることを知っている人はとても少ない。
誰にも気づかれないほど演技をしているからバレないのだが、本当に信頼している人にはバラしている。
もちろんレベッカには言っており、彼女が婚約者のエリアスの秘密をルアーナに話すのも問題はない。
エリアスはそれほどレベッカが、ルアーナを一目で信頼に値する人物と思ったのに驚いた。
「少し嫉妬しちゃうなぁ」
「あら、そうですか?」
「僕が君の信頼を勝ち取るのは、なかなか難関だったから」
公爵家のエリアスと伯爵家のレベッカ、位が高いのはエリアスだ。
しかし婚約を申し込んだのはエリアスの方で、レベッカは何度かそれを断っている。
「だってエリアス様、腹黒いですから」
「それを見抜かれたからこそ、僕は君に惚れたんだけどね」
「婚約を申し込まれた時はどんな罠を仕掛けに来たのかと警戒しましたね」
「ふふっ、ひどいなぁ」
自分達の馴れ初めを思い出して、二人は顔を見合わせて笑った。
「ルアーナはエリアス様よりもずっと純粋で、怖いほど真っ白ですよ」
「だろうね。だから君が気に入って、守ろうとしている」
「はい。ですが私が出来ることは少ないかと。彼女の後ろ盾はディンケル辺境伯家ですから。それに貴族社会の立ち回りはわからないようですが、敵への対応は私以上です」
アルタミラ伯爵家のエルサ嬢が来た時、レベッカは守るために前に出た。
しかしその必要は全くなく、むしろその強さに圧倒されてしまった。
「本当に、本日のお茶会は有意義なものでした。ルアーナと有益な関係になれただけじゃなく、あんな素敵な子と友達になれましたので」
「僕もジークに春が来たのを知れたのはよかったね。次は僕もルアーナ嬢と仲良くなりたいな」
「あっ、それは難しそうです。ルアーナはエリアス様の腹黒さに引いてましたから」
「他人事のように言っているけど、レベッカのせいじゃないかな?」
「ふふっ、ごめんなさい」
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