第26話 友達作り成功?



「申し訳ありません、ルアーナ嬢!」


 さっきまでジークにすごい剣幕で怒っていたレベッカ嬢に、私は謝られていた。


「ルアーナ嬢を騙して情報を聞き出してしまい、本当に申し訳ありません!」

「い、いいんです、レベッカ嬢。大事な情報を簡単に話してしまった私が悪いんですから」

「それは私がルアーナ嬢を騙したからで……!」

「だけど教えてくださったじゃないですか、そういうのを話しちゃいけないって」

「そうですけど……!」


 私の身の上話をした後、いろいろと教えてくれたレベッカ嬢。


 最初は私と友達になるつもりはなく、多少仲良くなって情報などを教えてもらおうとしていたらしい。


 それにまんまと騙されて話したのだが、それを聞いて改心してくれた……らしい。


 気づけば私に「そんな大事な話をしちゃいけません! 私みたいな悪い女に騙されますよ!」と怒られて……なんで怒られたんだろう、私。


 貴族社会では力よりも情報がとても大事なので、簡単に話しちゃいけないと教わった。


『ジークハルト様に貴族社会での立ち回りを教わらなかったんですか?』

『ジークにですか? 教えられてませんね。先日の皇宮での社交会でも、特別褒章をいただくことすら教えられなかったので』

『なんですって……?』

『ひどいですよね? まあジークが意地悪なのはいつものことなんですけど……』


 と話していたら、レベッカ嬢が怒って、今さっきまでジークに説教をしていたのだ。


 あれはビックリしたけど、私のために怒ってくれていることがわかって少し嬉しかった。


 レベッカ嬢に怒られるジークの情けない姿も見られたしね、ふふっ。


「私を許してくださるのですか、ルアーナ嬢……」

「もともと怒ってませんよ、レベッカ嬢。私はレベッカ嬢と、友達になりたいのですから」

「うぅ……ルアーナ嬢……!」


 私のことを見上げて、また泣き始めてしまうレベッカ嬢。


 とても綺麗な顔をしているのに、ますます目が晴れてしまう。


 目が腫れていても綺麗だけど。


「ありがとうございます、ルアーナ嬢……本当に、この令嬢は世間知らずで扱いやすいと思ったこと、本当に申し訳ありません……!」

「はい、大丈夫で……えっ、そこまで思ってたんですか!?」

「だけどもう大丈夫です! ルアーナ嬢がどれだけ馬鹿でも、私が必ず守って差し上げます!」

「え、ええ、ありがとうございます……?」


 なんだか複雑だけど……まあいいわ。


「レベッカ嬢、私達は友達になったのですよね?」

「はい、ルアーナ嬢が許してくださるなら、私もあなたのような素敵な女性と永遠の友達になりたいです」

「あ、ありがとうございます! それならその、友達になってすぐで申し訳ないですが、一つお願いが……」

「私は騙してしまったので、なんでもお聞きしますよ」

「その……名前を、敬称なしで呼び合いませんか? ルアーナと、レベッカで……ダメでしょうか?」


 少し子供っぽいお願いなので、私は少し恥ずかしくて小さな声で頼んでしまった。


 視線も下を向いていたので、勇気を出してレベッカ嬢の顔を見ると……また涙を流していた。


「うぅ、ルアーナ嬢が、良い子すぎて、可愛すぎて……辛い……!」

「えっと……レベッカ嬢、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です……! ルアーナ、でいいですか?」

「は、はい! ありがとうございます、レ、レベッカ……!」


 初めての同性の友達で、敬称なしで名前を呼ぶのに少し照れてしまった。


「くっ、可愛い……私が結婚し手一緒に暮らしたいくらい……!」

「えっ!?」

「おっと、それはいけないな。レベッカは僕の婚約者だから」


 いきなりの求婚でビックリしたが、後ろで静観していたエリアス様が話に入ってきた。


「あら、エリアス様。いたのですね」

「ずっといたよ、レベッカ。無視なんて寂しいね」

「すみません、ルアーナの可愛さに目と心をやられてまして」


 エリアス様とレベッカ嬢……レベッカが並ぶと、美男美女だからとても様になっている。


 二人は婚約者同士だから、とても親しそうに身体を寄せ合って話していた。


「おい、ルアーナ」

「あっ、ジーク」


 私の隣に来たジークが、なんだか私のことをジト目で見ている。

 さっきのレベッカに怒られて、少し疲れているようだ。


「お疲れ様、ジーク」

「俺が疲れているのはお前のせいだからな」

「なんで? ジークが私に意地悪をするせいでしょ?」

「お前が馬鹿みたいに身の上話をレベッカ嬢に言うからだろ」

「うっ、それはその……」

「まさかそんな重要な話を、友達になるって騙される感じで、数十分の奴に話すとは思わなかった。お前、そんなにアホだったか?」

「ア、アホじゃないから! だって、友達作りたかったし……」


 今思うと、確かに考えなしで全部偽りなく話してしまったかもしれない。


 レベッカも私を騙そうとしていたらしいし、レベッカが本当は良い人でよかったけど。


 うぅ、これからはレベッカやジークの言う通りに、気をつけないと……。


「まあ、お前が大丈夫ならいいが」

「大丈夫って何が?」

「他人に同情されるくらいの身の上話を話して、自分が傷ついてないならよかったって話だ」

「……えっ、もしかして心配してくれたの?」


 私が身の上話を話して傷ついたかもしれない、と思ってくれていたの?


「別に、そういうところが鈍感なお前なら大丈夫だとは思ったがな」


 否定しているようで否定しないわね、これ。


 私から視線を逸らしているけど、いつも通り耳が少し赤いし。


「ふふっ、心配ありがとう。大丈夫よ、もうあの人達で傷つくことなんてないから」

「そうか、ならいい」

「うん」


 私達がそんな会話をしているところを、近くでエリアス様とレベッカが見ていた。


「あの二人、婚約してないのですよね?」

「してないみたいだよ。だけどジークの気持ちは……」

「まあ、そうなのですね。ルアーナも多分気づいてないだけで……」

「ふふっ、なんだか今後の楽しみが増えたよ」

「私もです」


 なんかクロヴィス様やアイルさんが私達を見て、コソコソ話している雰囲気に似ているけど。


 まあレベッカとエリアス様が楽しそうならいいわ。

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