第19話 ジークの笑み?
その後、私とジークの特別褒章は今度正式に頂くことになり、皇帝陛下の話は終わった。
静かだった会場が、また貴族の方々の話し声で埋まり始まるのだが……。
「ジークハルト様、ルアーナ様、おめでとうございます!」
「とても素晴らしい功績ですわ!」
「ディンケル辺境での活躍、ぜひお話を伺わせていただきたいです!」
いきなりいろんな令嬢から私達は話しかけられ始めた。
さっきまでは遠くで見ていた人達が、特別褒章の話をきっかけに声をかけに来ているみたい。
「あ、あの……」
まさかこんなに来るとは思わなかったから、私は戸惑ってしまう。
最初に家名を言われたのに一気に来て混乱していたから、ほとんど名前を覚えてない。
ど、どうしよう……!
「失礼、ルアーナは社交界に慣れていないので、私が話しても大丈夫ですか?」
私が困っていると、隣にいたジークが割って入ってくれた。
とてもいい笑顔を浮かべているんだけど……なんかすっごい違和感。
初めて見る余所行きの笑み、顔立ちは整っているので好青年な感じが出ている。
「あっ……は、はい」
「ぜひジークハルト様のお話も……」
ジークの好青年な笑みを見て、令嬢達は顔を赤くする。
まあカッコいいし、顔を赤くする理由はわかる。
ジークは適当に戦場での話をすると、さらに令嬢達の目がうっとりとしてきた。
最初はいろんな話をしていたのだが、最後の方は令嬢達がジークに「好きな女性のタイプはなんでしょうか?」など聞き始めていた。
あからさまにジークを狙い出している……まあ彼は辺境伯の嫡男だし、婚約を狙うとしたらかなり有望株だろう。
ジークもさすがにそこまでは想定していなかったみたいで、少し困っているようだ。
助けてあげたいけど……正直どうやって助ければいいかわからないわね。
「ルアーナ嬢、今、挨拶してもよろしいですか?」
「えっ、あ、はい」
後ろから話しかけられたので振り向くと、貴族の若い男性の方がいた。
適当に挨拶をされて、私も挨拶を返す。
「改めて、特別褒章おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「お若くてお綺麗なのに、本当に素晴らしいですね」
「ふふっ、そんなに褒められると照れてしまいます」
愛想笑いをしながら適当に話す。社交界ってわからないけど、こんな感じでいいのかな?
「よければ個人的に仲を深めたいので、よければ今度ご一緒に食事でも……」
「失礼」
貴族の男性の言葉を遮るように、ジークが私の前に出た。
ジークはさっきの好青年の笑みは全くしておらず、戦場で少しピリピリしている雰囲気に似ていた。
「な、なんでしょうか?」
若い貴族の男性もその雰囲気を感じ取ったのか、声を震わせてビビってしまっている。
「……失礼、彼女が緊張で体調を崩したようなので、外に連れていきます」
「えっ、別に私は……」
「体調を、崩しているよな?」
「……そ、そうね」
好青年らしい笑みを浮かべているのに、威圧感がすごいある感じで確認してきたので、私もあまり刺激をしないように仕方なく頷いた。
「では、失礼。ご令嬢の皆様も、失礼します」
男性の方には冷たく言い放ち、女性達には笑みを浮かべて言った。
令嬢達は顔を赤らめながら「はい……」と言ってくれたので、私達は会場を出て庭へと向かった。
皇宮の庭はとても広く、夜なので少し光を放っている魔道具で、庭の真ん中あたりを照らしていた。
真ん中あたりには人はあまりおらず、逆に少し暗いところに男女がチラホラといる。
「ここって……もしかして、男女の逢瀬の場所とか?」
「ああ、それか会場で仲良くなった男女が仲を深める場所だ」
なるほど、だからみんな少し暗いところで目立たないように話しているのか。
「私達も目立たないように暗いところに行く?」
「……まあ、そうだな」
ジークの返事が少し躊躇ったように聞こえたが、気のせいかな?
とりあえず少し光が当たるくらいの暗い場所に向かい、ベンチがあったのでそこに座る。
逢瀬用なのかわからないけど、ベンチも用意されてるのね。
「はぁ、社交界って疲れるわね。まあ戦場ほどじゃないけど」
「俺も久しぶりだから、なかなか大変だったな」
「そう? 結構上手く出来てたと思うけどね」
「まあお前よりはな。人の名前、全然覚えられてなかっただろ」
「うっ……それに関しては助けてくださりありがとうございます」
さすがに気づかれていたか、まあ気づいてくれたから助けてくれたんだろうけど。
「だけどあの男性が来た時は別に助けなくてもよかったのに。一対一だから名前を忘れることは絶対になかったよ」
「……一対一だから、だろうが」
「えっ?」
「っ、なんでもない。ルアーナ、喉乾いてないか?」
「えっ、まあ少しだけ」
「適当に飲み物もらってくるから、ここにいろ」
ジークは何か誤魔化すように、会場へと戻ってしまった。
照れている感じだったけど、何に照れてたんだろう?
まあ喉は乾いていたから、その気遣いは嬉しいけど。
ベンチに座ってぼーっと待っていると……。
「おい、ルアーナ」
「ん? あっ……」
ジークの声ではない男性に名前を呼ばれて、そちらの方を向くと……アルタミラ伯爵家の嫡男、グニラお兄様がいた。
それに隣にはエルサお姉様もいるわね。
暗くても、二人のことはすぐにわかった。
「お久しぶりです、お兄様、お姉様」
私は一応立ち上がって、軽く笑みを浮かべて挨拶をする。
伯爵家にいた頃はこの人達と顔を合わせたくないと思っていた。
今も同じ気持ちだが、少し違う。
昔は「怖い、近づきたくない」という気持ちだったが、今は「めんどくさい、近づいてほしくない」といった気持ちだ。
「はっ? なんだその態度」
「ほんと、イラつく顔が見えなくなるまで頭を下げて挨拶しなさいよ」
二人は暗くてもわかるくらいに嫌悪感で顔を歪めたようだ。
私の方が顔をしかめたいくらいだけど?
やっぱり予想通り、何か文句を言いに来たようね。
「お二人揃って、私に何か御用でしょうか?」
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