第17話 三年後
私がディンケル辺境の地に来て、三年が経った。
とても長かった気がするけど、あっという間だった気もする。
ずっと前線で戦い続けたから、もうそんな時間が経ったのかって感じね。
今日も前線で戦っているのだが、私は魔導士なのでいつも上から魔法を放つだけ。
しかも三年前の初陣と同様に、光魔法を放つという仕事。
だけどこの三年間で、かなり魔法も強くなった。
「『光明(ルーチェ)』」
私が魔法を放つだけで、近くにいる魔物が粒子状になって骨も残らず消えていく。
魔物によっては魔石を残していくのだが、とても強い魔物だけしか体内に魔石はないから、ほとんど何も残らない。
結構遠くの方にいる魔物は消えはしないが、ずっと苦しんで動けなくなる。
そこをいつも通り、兵士の方々が魔物を倒していく。
魔物の大群を殲滅し、ひとまず魔物を片付けた。
私は壁上から降りて、戦場を見て回る。
「聖女様だ、今日も光り輝いている……!」
「今日もお美しい……!」
三年後の今も、まだ聖女と呼ばれてしまっている。
あいつのせいで、本当に……まあもう慣れちゃったけど。
だけど綺麗とか美しいとか言われるのは、素直に嬉しい。
この三年で私は容姿がかなり変わった自覚がある。
とても小さくて子供に見られる身長だったが、今は平均女性の身長くらいになった。
まだ少し細いけど、健康的な細身なスタイルになっていると思う。
顔立ちは可愛いとか綺麗とか言われることが多いから、悪くないんじゃないかな?
「聖女様、本日もお疲れ様です!」
「ええ、お疲れ様です」
近づいてきた兵士に愛想笑いをしながら返す。
なぜか頬が赤い若い兵士、風邪でも引いてるのかな? そんな状態で戦うのはすごいわね。
「その、今日この後は何をするおつもりでしょうか? 兵士達の親睦会があるのですが、よければ聖女様も……」
「おい、お前」
「え、あっ……!」
若い兵士の後ろに背の高い男性が一人現れて、すごい顔で見下ろしている。
この戦場で一番魔物を倒している人で、ディンケル辺境地で彼を知らない者はいないだろう。
「ジ、ジークハルト様……!」
「お前、新人か?」
「は、はい!」
「親睦会とか言っていたが、なぜお前ごとき新人のために聖女様がそこに行かないといけないんだ?」
「そ、その……」
若い兵士よりも身長が高いジークが、威圧をかけるように問い詰める。
さっきまで頬が赤かった兵士も、顔全体が真っ青になっているわ。
「ジーク、やめなさい。大人げないわよ」
「……ふん」
ジークが睨むのをやめると、若い兵士は慌てて一礼してどこかに行ってしまった。
「別に親睦会くらい、私は出るのに」
「……そんなの時間の無駄だろ」
彼はつまらならそうにため息をつきながら言った。
ジークもこの三年で、とても成長した。
身長も伸びて、私と頭一個分くらい高くなっている。いつか抜かしてやると思ってたけど、さすがに無理ね。
顔立ちも三年前はまだ幼さが残ってたけど、それも消えてとても男らしくなった。
クロヴィス様に似ているけど、あの方ほど鋭い雰囲気ではない。おそらく目がアイルさんに似ているからだろう。
まあ簡単に言うと……とてもカッコよくなった。
「そんなこと言わないの。私を慕ってくれているのは嬉しいし」
聖女様、とよく呼ばれて慕われているのはわかる。
伯爵家にいた頃とは全然違うから、それは嬉しい。
「……くそが、聖女なんてふざけて言うんじゃなかったぜ」
「えっ、それをあなたが言うの?」
ジークが言ったから、最初はとても苦労したんだけど。
だけどジークも最初は面白がってたのに、最近は私が聖女って呼ばれることを揶揄ってくることがないわね。
むしろ今みたいに不機嫌になってる気がする。
そんなに飽きたの? 自分で言い始めたくせに。
それはそれでちょっとイラっとするけど。
「ほら、もう行くわよ。クロヴィス様に呼ばれてるんでしょ?」
「ああ、そうだったな」
私とジークは戦後処理をしてから、辺境伯家に戻った。
辺境伯家の使用人達も全員顔見知りになって、すっかり辺境伯家の人間って感じがして、少し嬉しい。
歩き慣れた廊下を通って、クロヴィス様がいらっしゃる執務室へと向かう。
「私達二人に話があるって言ってたけど、何の話か知ってる?」
「さあ、知らないな」
一人ずつ呼ばれることは多いが、二人一緒に執務室に呼ばれることはあまりない。
どんな内容なのか、と思いながら向かって話を聞くと……。
「二人とも、これから王都に行け」
「えっ?」
いきなりそんな話をされて、ビックリした。
「王都? なぜですか?」
ジークも不思議そうに問いかけた。
「辺境地で戦うばかりで、お前らは人脈を全く作っていなかったと思ってな」
「人脈作り?」
「ああ、貴族は狭い社会で回っている。最低限の人脈は作っておいた方がいいだろう。幸い、魔物の侵攻も最近はだいぶ落ち着いてきた」
なるほど、そういうことなら王都に行く必要があるわね。
だけどジークが行くのはわかるけど、私も?
「クロヴィス様、私も行くのですか?」
「もちろんだ、ルアーナもディンケル辺境伯家の者として行くぞ」
「辺境伯家として……いいんですか?」
クロヴィス様は私を認めてくれたようで、ディンケル辺境伯の家族だと言ってくれる。
「もちろんだ。王都にはタウンハウスもあるし、そこでしばらく暮らせるだろう」
それはとても嬉しいのだが、私がディンケル辺境伯家として行くのは少し躊躇する。
家族だと私は思っているが、公の場でディンケル辺境伯家の者と言うのは迷惑をかけそうだ。
そう思って断ろうとしたのだが、執務室にまた人が入ってきた。
「あら、みんな揃ってるのね。私だけ仲間外れなんて寂しいわ」
入ってきたのは女性、クロヴィス様の奥様のアイル辺境伯夫人、ジークのお母様だ。
アイルさんはとても綺麗な人で、一年近く前まで療養していたとは思えないほどだ。
「ひどいわ、あなた。ジークちゃんもルアーナちゃんもいるのに、私を呼んでくれないなんて」
「仲間外れにしたつもりはないよ、アイル。君も呼ぶつもりだった」
「そう? それならいいけど」
私とジークの前に座っているクロヴィス様の隣……ではなく、膝の上に横向きに座ってお姫様抱っこのようになるアイルさん。
「こらこら、アイル。息子達の前だぞ」
「いいじゃない、何年もあなたと別れて暮らしていたんだから。それとも、あなたは嫌なの?」
「嫌なわけがないだろ、アイル。私も君と一緒に暮らせて嬉しいよ」
……私達を放ってイチャつき始めた辺境伯夫婦。
アイルさんがこの屋敷に帰ってきてから、たびたび起こっていることでもう慣れてしまった。
いつも厳しいクロヴィス様が、まさかここまで愛妻家だとは思ってもいなかったけど。
アイルさんは魔毒で三年間眠っていた影響もなく、戦場にも普通に立っている。
クロヴィス様やジークは、いつもアイルさんをめちゃくちゃ心配そうに見つめているが。
「息子達ね……あなたの言う通り、ルアーナちゃんが家族になってくれて本当に嬉しいわ」
「私もです、アイルさん」
「そうね、早く周りにも自慢の娘って言いたいんだけど……。
「そうだな、アイル。私もルアーナが娘になれば嬉しい」
お二人は見つめ合いながらも、チラチラと私の隣にいるジークを見ている気がする。
なんでだろう? もしかして息子じゃなくて、娘が欲しかったとか?
私もジークを見ていると、彼は気まずそうに視線を逸らす。
「……なんで俺のこと見てんだよ」
「ううん、ちょっとね……」
そういえばジークとクロヴィス様は容姿がとても似ているけど、性格も似ている気がする。
「もしかしてジークも……」
「俺がなんだよ」
「いや、ジークもいつか結婚したらクロヴィス様のように、奥さんをすごく愛してあげるのかなぁ、って」
「なっ!?」
私の言葉に顔を真っ赤にして動揺するジーク。
「あっ、やっぱり自分でもそう思うの?」
「う、うるさい! 別に俺は父上と母上みたいには……!」
「いや、なるぞ。ジークは私に似ているからな、奥さんを心の底から愛してやまない夫になるだろうな」
「うんうん、ジークちゃんはあなたに似ているもの。絶対に奥さんを幸せにすると思うわ」
「父上! 母上! 少し黙っていてください!」
とても恥ずかしそうにしているジーク、なんだか可愛らしい。
だけどそれはとても素晴らしいことだし、恥ずかしがることではないと思う。
「大丈夫よ、ジーク」
「な、何がだよ」
「あなたは意地悪で素直じゃないところがあるけど、とても優しくてカッコいい男性だから」
「っ、い、いきなり何を……」
「だからいつか、とっても素敵な女性に出会えるわ」
「…………あ、そう」
えっ、なんでいきなりそんなに冷めるの?
すっごい褒めて励ましてあげたつもりなんだけど。
「はぁ、まあそうなると思ったが……ルアーナはいつも通りだな」
「ジークちゃんが可哀そうだけど、私達がやれることは何もないわね」
お二人が顔を寄せてコソコソと話しているが、何を言っているのかは聞こえない。
その後、私とジークが王都に行く話をして、解散した。
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