第4話 パンを売ってみる
「このパンを売るだって……!?」
「そう、そうすれば、うちももう少し裕福になって、お父さんも助かるでしょう?」
それに、お金が手に入れば他にもパンの材料がそろう。
「よし! そうと決まればさっそく村の市場で売りにだしてみるか……!」
「ありがとうお父さん!」
どうやら村では週に一度、市が開かれ、それぞれの農民が自分たちの製品を売りにだすみたいだ。
うちは他の農家と違って小麦をそのまま売るしかなかったらしいけど、これからはパンにして売れる! と母さんも喜んでくれた。
さっそく、週末に市場にパンを並べると――。
最初は誰も興味を示さなかったけれど、隣の牛乳農家のアルフォンスさんがやってきてくれた。
アルフォンスさんは安く牛乳を譲ってくれた人で、お返しにパンをあげることにした。
「ほう、これがうちの牛乳でつくった新しい製品か」
「パンっていいます。ぜひ食べてみてください!」
「ふむ。小麦のスープばかりは飽きていたところだ。ためしてみよう」
アルフォンスさんは恐る恐るパンを口に運ぶ。
自前で持ってきた牛乳と一緒に口に入れると、アルフォンスさんの目がかっと見開いた。
「なんだこれは……!? 驚異的なうまさだ……! 今までにこんな食べ物は食べたことがない……!!!!」
アルフォンスさんが大声でそう叫ぶと、それをきいた周りの人たちも、なんだなんだと一斉に寄って来た。
みんな未知の茶色い物体に興味津々だ。
「おい、俺にも一個くれ!」「こっちもだ!」
「はい、50Gです!」
私の出来損ないのパンは、飛ぶように売れた。
ついでにアルフォンスさんの牛乳もたくさん売れて、アルフォンスさんはご満悦だった。今度おいしい牛肉をプレゼントするとまで言ってくれた。
「それにしても、すごい大繁盛だな! 小麦を売ってたんじゃ、一年かかるくらいの儲けだぞ……! まるで錬金術だ……!」
お父さんはそうやって喜んで、私のあたまを撫でる。
パンで錬金術か……なんだかおもしろい。
夕方になっても、パンは飛ぶように売れ続けた。
儲けたお金から、少しお小遣いとして自由につかっていいと言われたので、帰り際にいくつか店をみてまわる。
私はチーズを買えるだけ買って家に帰った。
「シャロン、そんなチーズばっかり買ってどうするんだ?」
「これを次にパンを焼くときに入れるの!」
「パンにチーズをか……? ふうむ、どんな味になるのか想像もつかん……。それって合うのか? チーズといえば酒のつまみにしかならんと思ってたが……」
「いいから、パンのことは私に任せて!」
「はいはい、小さい錬金術師さん。お前に全部任せるよ」
そして来る翌週――。
私はチーズパンをたくさん焼いて、市場にもっていった。
今度は先週のパンの売り上げのおかげで、卵も牛乳もケチらずにすんだ。
美味しいパンを食べなれた私からしても、これならなんとか及第点という出来だ。
チーズがカリカリに焼けて、ピザのような感じの美味しいチーズパンだ。
先週の評判をききつけてか、市場にいくと朝から、まだ準備もできないというのに、人だかりができていた。
「おい! パンはまだか!」「パンとやらを食わせろ!」
「どんだけ上手いんだ……!?」「金はある! 俺に先にくわせろ!」
「おい割り込みをするな!」「くそ、我慢ならねえ!」
大の大人が大勢でよってたかってわめきちらす。
まさかパンにこれほどの中毒性があったなんて……。
でも、私も人のこと言えないな。パンを愛する気持ちは、私が一番よくわかる。
ようし、みんなのために今日もパンを売りまくるぞ!
そう思っていると、急にひとだかりが、まるで海が割れるように引いていく。
そしてそこを分け入ってきたのは、一人の初老の男性だった。
あれほどパンを待っていたみんなが道を譲るということは、それほど偉い人なのだろうか。
「お、おい……貴族さまだ」「領主さまだ……!」
「なんでこんな村の市場にまで……」「パンの噂をききつけてきたらしい」
まさかの領主さまのご登場だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます