11.幼女、甘やかされる
翌日――宿の朝食を摂っていると部屋のドアがノックされた。
「ん? 誰だ、こんな朝早くに」
ヘイロンがドアを開けると、そこには宿の主人が立っていた。
「おはようございます。今日はこれから発たれますか?」
「ああ、一応そのつもりだけど……なに?」
「村長がなにやらお話があるようで。出発する前に寄ってほしいと」
「ふうん。なんの用だろうな」
とりあえず了承してヘイロンは途中だった朝食に手を付ける。
「さっきの、なに?」
「さあ? なんか用があるらしい。厄介な事じゃなければいいけどなあ」
村長からの頼みとなれば、火急を要するものかもしれない。もしかしたらヘイロンの身分がバレたのかも……と一瞬思ったが、宿の主人は何も触れてこなかった。
「警戒はしておくけど、ニアは俺の傍から離れるなよ? 何かあった時にすぐに守れる場所に居てくれ」
「うん」
ニアに言い聞かせて、朝食を済ませるとヘイロンは村長宅へ向かった。
何かの罠かもしれないと警戒していたヘイロンをよそに、村の中も村長その人も怪しい所は何もない。
「取り越し苦労ってやつかもなあ」
「……? なんの話ですかな?」
「ああ、いや。こっちの話」
ヘイロンの様子を気にも留めないで、村長はわざわざ呼びつけた理由を話してくれた。
「こうしてお呼びしたのは貴方様に確認してほしいことがあるのです」
「確認してほしいこと?」
「この先にある小さな村、マーシアには寄られますかな?」
「ああ、進路上にはあるから立ち寄るつもりだけど……それがどうしたんだ?」
マーシア村はここから二日歩いた距離にある。
魔王城への道中に通る場所でもあるし、ヘイロンも場所は知っていた。
「月に一度、わが村とマーシアとで物々交換の商隊を交わしておるのです」
「へぇ……」
「それが二か月前から音沙汰がなく……立ち寄るのであれば村の様子を見てきてほしいのです。もちろんタダでとは申しません。手間賃としてこれほど……」
村長がヘイロンの手を取って金を握らせてきた。銀貨二枚。
どうせ立ち寄ることになるし、断る理由もない。
「いいよ。お安い御用だ」
「ありがとうございます。ロバステからの使いだと言っていただければ、あちらも察してくれるでしょう」
話が終わったところで、ヘイロンは席を立った。
隣で甘いジュースをご馳走になっていたニアは、ヘイロンを見上げて一言。
「おはなし、おわった?」
「ああ、もういいよ」
「ま、まって!」
ニアは残っていたジュースを飲み干すと、椅子から飛び降りた。
心なしか機嫌が良さそうなのは、美味しかった証拠である。
「そういえば貴方様のお名前を伺っていませんでしたな」
去り際に村長はヘイロンに名を聞いた。
流石に関わっておいて名乗らないのは逆に怪しまれる。
「へ……、ハイロだ。こっちはニア」
少し悩んでヘイロンは、『ハイロ』と名乗った。
名前には特に拘りはないし、ニアもハイロと呼んでくれる。余計に誤魔化す必要もないだろう。
「それではよろしくお願いします」
村長は最後に頭を下げて、二人を見送った。
ロバステ村を出たヘイロンは上機嫌なニアに、さっきのジュースの感想を聞く。
「なあ、さっき飲んでたの。うまかった?」
「うん! おいしかった!」
「あー、いいなあ。俺も見栄張らないで頼めばよかった」
ガックシと肩を落としたヘイロンを見て、ニアは一度立ち止まると背中に背負っていた背嚢を漁る。
そこから取り出した包みを小さな手に握って、ヘイロンへと突き出した。
「なにこれ?」
「おかし。さっきもらった」
「あの村、子供に甘いよな。ああ、うん。これもすっごい甘い」
「ニアのぶん、のこしてね」
甘いお菓子をつまみながら、二人は次の目的地マーシア村を目指す。
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