6.魔王城、住処候補になる
少し歩いたところでヘイロンは小川を見つけた。
川があるなら水も手に入るし、魚も取れる。良い場所を見つけたとヘイロンは喜んだ。
眠っているニアを起こさないように木の根元に横たえると早速野営の準備に取り掛かった。
小さな組木を作って、それに魔法で火をつける。
木を削って適当な入れ物を作って、水を汲み魔法で煮沸。
川に手を突っ込んで、指先から電撃を放つと遊泳していた魚が水面に浮かぶ。
それの下処理をして焚火で焼く。
ヘイロンに出来ないことはなかった。
本当に何でもできてしまう。そのせいで仲間たちに裏切られたのだろうが……だからと言ってこの能力は恥ずべきものではない。
こうして彷徨っていても生きていけるだけの技術を持っているのだ。何を後ろめたく思う必要があろうか。
魚を焼いているとその匂いと音に、眠っていたニアが目を覚ました。
「んん……ごはん?」
「おっ、ちょうどいま焼けたところだ。腹減ってるだろ?」
焼けた魚を渡すとニアはすぐにそれに齧り付いた。熱いから気をつけろ、なんていう暇もない。
「あふっ、あふい」
「ほら、水もあるからゆっくり食べろ」
まるで何日も食べていないかのような食いっぷりに、ヘイロンはニアの境遇を想う。
この年頃にしては体は細いし、背も小さい。捨てられたも同然だったろうから、ろくに飯も食わせてもらえていなかったのだろう。
ひもじい思いをするのは誰だってつらい。そこには子供だとか大人だとか、奴隷だとか貴族だとかは関係ない。皆平等なのだ。
「ニアは行く当てがあるのか? 帰る場所とか」
「ううん」
「なあんだ、俺と一緒か」
もちろんそれは分かっていてヘイロンはニアを連れだした。今のは最終確認だ。
ここでニアが家族の元に帰りたいというならヘイロンは彼女をしっかりと送り届けようという腹積もりだった。
けれどニアは行く当ても帰る場所もないといった。
本人がそう言ったのなら、ヘイロンもその意思を尊重する。
そうなると、今後どこに行くかである。
「うーん、静かに暮らせそうな場所……」
ヘイロンは思考を巡らす。
勇者として今までいろいろな場所に赴いた。大陸の地理には詳しい。
誰にも迷惑を掛けずに静かに過ごせる場所……そんな都合の良い場所が――あった。
「うんうん、よし! あそこがいいな!」
妙案を思いついたヘイロンは手を打ち合わせる。
ニッコニコの笑顔を振りまく彼にニアは食べるのをやめて尋ねた。
「ハイロ、どこいく?」
「魔王城だ。行ったことあるか? あそこ無駄に広くてな。今はどうせ使われてもいないし、誰もいなくて静かだし、住処にするにはちょうどいい」
これ以上の場所は世界中探しても見つからないだろう。
魔王を倒したおかげで、あの場所はもぬけの殻だ。荒れてはいるが掃除して補修すれば快適に暮らせるだろう。
なんせヘイロンに出来ないことはない。少し時間は掛かるだろうが、住処として使うならかなりの好物件だ。
「まおう……」
ヘイロンの話を聞いて少しだけニアは浮かない顔をした。
けれどそれも一瞬のこと、柔らかい笑みを浮かべてニアは提案に同意する。
「そこでいい」
「よし、そうこなくっちゃな!」
「とおい?」
「うーん、少し遠いな。だからしっかりと準備を整えてから向かおう」
話がまとまったところで、ヘイロンも食事にありつく。
思い返せばろくなものを食べていない。魔王城まで行くにはかなりの距離を歩くことになる。身体は資本だ。しっかりと食べて体力をつけなければ!
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