1-13『黒幕』
「
向けられた銃口に、ジンは
勝負は一瞬、連中がエイムの狙撃に
一秒でも長く時間を稼ぐため、ジンは
「こういう取引きは、軽い世間話や
「
「だァから、やり取りが直球すぎなんだよ。もうちょっと心に余裕を持って、ユーモアの精神を大切に──」
直後、銃声が響いた。
ジンの足元で金属の
「……よーし分かった。分かったから、その
時間稼ぎ終了、ジンは
もたせた時間は一分にも満たない。
額に冷や汗が浮かぶ。なんとか時間を稼ぐ、などとエイムに
とはいえ策がないのも事実。
その時、誘拐犯のリーダーらしき男が
「もしかして、仲間の
「……!」
「イケないねぇー。確か
予想だにしていなかった言葉に、ジンは思わず目を見開いた。
一方男は、ジンの反応を見て勝ち
『お前らは初めから
しかし、
「……なんだよ、最初から全部お見通しってわけか。なら
「あ?」
次にジンが放った言葉は、非常に
男からすれば、ジンを絶望させるキラーワードのつもりだったのだろう。
状況は四対一という圧倒的不利。さらには銃を向けられ人質まで取られている。
であれば援護も無しに戦況を
確かに、そう考えるのが普通だ。ただジンにとって、それらは
「ま、やることの手順が変わっただけだ。結果が一緒なら問題ねェだろ」
「テメェ、さっきから何を言って」
ジンの反応が気に食わなかったのだろう。男の声に
それを無視して、ジンはスーツの内ポケットに手を入れた。
途端、銃を持つ四人の間に緊張が走る。しかし取り出された物を目にした途端、彼らは揃って目の色を変えた。
「ほら、これがお前さん達の欲しがってた
「!?」
「欲しけりゃしっかり、受け止めなッ!」
そしてジンは、あろうことか身代金が入った箱を、アリーナの客席目掛けて放り投げた。
その一瞬、全員の視線が
「なにを……ハッ! その使用人から目を離すな!」
「もう遅ェよ」
ジンが、動き出す。
「まず一人」
「っ!?」
真っ先に狙われたのは、
男は突然ジンが動いたことに慌てて引き金を引くが、ろくに
あっという間に腕の中に潜り込まれ、銃を持つ手を強引に引っ張られる。
「ぐぇっ」
体が
一撃。中央の男は潰れたカエルのような声と共に、その場に倒れて動かなくなる。
「くっ!」
「このぉ!」
中央の男がやられたことで、両側の男女も我に返ったのだろう。
慌ててジンから距離を取ると、両側から
しかし、
「そりゃ
「ぐあぁッ!」
「きゃあッ!」
同時に放たれた銃弾は吸い込まれるようにジンへ向かい、彼が一歩身を引いたことで互い違いに
女は肩から、男は
二人が行動不能になったことを確認し、ジンは胸を撫で下ろす。
「おォ、両方いっぺんってのは
「動くなッ!」
しかし最大の
顔を上げると同時に、男の怒号がアリーナに響く。
「流石リーダー……っぽいやつ。判断が早ェ」
「動くなよ。一歩でも動いたら、ガキの命は無い」
男は少女を乱暴に
「おいおいおい、それで
「黙れッ! いいか、絶対に動くなよ……」
「動かねェよ……ったく、どうしたモンかねェ」
人質に銃を向けられた以上、ジンに出来ることは何もない。男に言われるがまま、その場に立ち竦む。
結局、こうなってしまえばお手上げだった。
とはいえジンは、決して無策で特攻を仕掛けた訳ではない。
大前提であるエイムの支援が封じられたこと、また彼女の存在が知られた時点で他に選択肢が無かったというのが実情だった。
さァ困ったと、ジンはガシガシと頭を掻く。
しかし一方で、
「動くな、動くなよ……」
何も出来ないという点は、その
男は
彼は理解していた。もし人質を死なせたら最後、目の前の使用人は
先の三人を一瞬で戦闘不能にした
そのためにも人質は、男にとっても決して傷付けることの出来ない存在だった。
「
理解していても動けないもどかしさに、ジンは
このまま指を
そして彼は、ある
「おーい、よーく見とけよ!」
「っ!?」
大声で誘拐犯の男を呼ぶジン。そしてあろうことか、いきなり衣服を脱ぎ始めた。
途端、男は
「な、なに考えてんだお前!?」
「見ての通り、お前さんに出血大サービスだ。今なら丸腰の相手を狙い放題。こんな
彼が思い付いた策、それは自らを
服を脱いだ理由は、
しかしそれが、その行動そのものが
「く、来るな、変態!」
「……あるェ?」
あらゆる生き物は、理解の及ばぬ存在に恐怖を覚えるモノである。それは人も例外ではない。
今の状況でジンがとった行動は、男にとってまさに"それ"だった。
人質から銃口を
その時。
「んーっ!」
「うおっ!? あ、暴れるなガキぃ!」
身の危険を感じたのだろう。男の腕の中で、少女が抵抗するように身体をよじった。
瞬間、少女の身体が地面に落ち、慌てた男の視界からジンが外れる。
手元がブレたことにより、銃口は一瞬、狙いを完全に見失った。
ジンが、その隙を見逃す筈もない。
「
ジンは、ここぞとばかりに目の色を変え、
たったそれだけでジンの身体は、風を
「くっ、この……!」
焦る男。しかし彼も
再び人質に銃を向けようとして、ふと気付く。
はたして人質を撃ったところでジンの動きが止まるのだろうか、と。
答えは否。こんな
二人の距離は、現時点でおよそ三十メートル弱。構えてから撃つだけの余裕は充分にあった。
「へっ、
勝利を確信したのだろう。
男は冷静に銃を構え、照準をジンの
一撃で
それだけでヤツを行動不能ないし、殺すことが出来るのだから。
腕を伸ばす。引き金に乗せた指に力を込める。
その時──。
「ぐあっ!?」
突如、"男の腕"が
思わず溢れる
しかし分からない。目の前で今も迫り来る男は何もしていない。
『いったい誰が、
そして遠目に
「──
マンションのベランダで
「クッソがああああああ!!!」
絶叫と共に男の手から銃が落ちる。
無事な手で拾おうとした時には、もう遅かった。
「歯ァ食いしばれ、
「ガッ──」
低く唸るような声が、男の鼓膜を叩く。気付けば
直後、顔面に激しい衝撃と痛みが走る。
その一撃で、男は
※ ※ ※ ※ ※
「……ふゥ、
すっかり
男を倒したジンが次に
武士の
抵抗されたり不意打ちで襲われないよう、現在は二人ともジンに
そうして治療を終わらせた、ちょうどその時。ズボンのポケットからスマコの呼び出し音が鳴った。
『お疲れ様、ジン。無事、依頼達成だよ』
「おゥ、お疲れさん。連中の仲間がそっちに向かったって聞いたが、大丈夫だったか?」
相手はエイムだった。
それは腰に手を当てて大きく伸びをするジンも同じだった。
とはいえ、エイムが怪我をしていないか、動ける状態であるかを確認するまで気は抜けない。
するとエイムは、まるで
『うん、来たよ。来たけど……意外と、なんとかなった』
「意外っていうと?」
『率直にいって、警戒していたほどじゃなかった。個人個人は
「なんだそりゃ……って言いたいたころだが、こっちも似たような感想だ」
『そうなの?』
スマコの向こうで首を傾げるエイム。
それに応えるようにジンは続ける。
「あァ。身代金を放り投げたら
『……なんだかチグハグだね。誘拐を成功させるだけの計画性と実行力はあるのに、その後の見通しが甘すぎるような……って、ちょっと待って。身代金を放り投げたって、どういうこと?』
「あ゛ー、
『ちょっ、ジ──』
「……身代金、エイムが来る前に見つけねェとな」
ジンが話した内容に、エイムは違和感を抱く。
しかし、その理由を思案する時間は一瞬だった。身代金を放り投げたという、耳を疑う発言が聞こえたからだ。
遅れてジンも自身の失言に気付き、慌ててはぐらかす。そして
そして広い客席に目を向けると、大きな溜め息をついた。
「っと、その前に。お嬢、大丈夫かい?」
しかし身代金を探す前にやるべきことがある。
ジンは少女の元へ駆け寄ると、目隠しと
途端、解放された少女は
「あのぉ、あなた様は……?」
「儂はジン。旅人の……じゃなかった、便利屋アークのサムライだ。ショーガン氏の依頼で、アリアお嬢を助けに来た」
「まぁ、お父様のお知り合いでしたか」
ジンが
のんびりとした口調は、つい先程まで人質として捕まっていたとは思えないほど落ち着いている。
アリアはゆっくりとした動きでその場に立ち上がると、スカートの
「大変ご迷惑をお掛けしました。そして助けて頂いたこと、
「なァに、お嬢が無事で何よりだ……それに、よく頑張ったな。男に
「ふふ、褒められてしまいました……ところで、その、お召し物はどうされたのです?」
「あ、いけね」
無事に依頼を達成できた安心からか、
しかし忘れてはいけない。今のジンは上裸ということを。
アリアも
その指摘に、ジンは服を取りに向かうため慌てて腰を上げる。
その時、
「──おいおい、いい加減にしてくれよ」
ジンはポツリと呟く。
アリーナの出入り口から、すっかり耳に馴染んだ金属音が聞こえたからだ。
それは、引き金に指が掛かる音。
続けて、激しい銃声──。
「危ない、お嬢ッ!」
「え──?」
理解と同時に、ジンの身体は動いていた。
すぐにアリアを抱き上げると、前転の要領で前へと飛び込む。直後、それまでアリアがいた空間に一発の弾丸が通り抜けた。
突然の事態に、アリアは目を白黒させて辺りを見回す。
一方、ジンは確信を込めて言った。
「……ま、裏があるのは分かっていたさ。それがこんなコトとは思わなかったがな」
銃声の主に、ジンは聞こえよがしに声を上げる。
途端、アリーナの出入り口に立つ人影は、ゆっくりとその姿を現した。
「誤射だって
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます