1-11『ミッション開始』
「なァ、トラーバ。
時刻は十六時を過ぎた頃。
ウエポン
それにつれて車内の緊張も高まる中、ジンは
運転席のトラーバは、時間を確認すると申し訳なさげに答える。
「およそ一時間ほど、でしょうか。場所は
「結構かかるな。なら途中、
直後、ジンの腹の虫が声を上げた。
この日の彼の食事は、朝に栄養バー
旅人の食事量としては充分なものだが、成人男性としては到底足りるものではない。
また昼食時は謎の武装ドローンとの一戦もあり、
「
「すまねェな。代金は報酬から出させてくれ」
「いえいえ。これくらいなら経費で落とせますので、お気になさらず……と、噂をすれば」
ジンの頼みにトラーバは
すると、ちょうど同じタイミングで
「では行って参ります。お二人は、このまま車内でお待ち下さい」
「あァ、頼む。それと、なるべくじっくり時間を掛けて良いものを
「その冗談は笑えないよ、ジン」
「あ、あはは……
そんな二人に苦笑いを浮かべ、トラーバはそそくさと店内に入って行った。
その姿を最後まで確認したジンは、大きく息を吐いて
途端、エイムは
「……それで、トラーバさんをこの場から
「排除たァ人聞きの悪い。まァ間違っちゃいねェんだが……なんでそう思った?」
エイムの
ジンは思わず苦笑するものの、しかし否定はしなかった。
それどころか片目を
エイムの返答は早かった。
「空腹だからお店に寄るのは納得できる。でも『じっくり吟味して選んで』、なんて言うのは
「よーく
「見張り役だから」
一切の言い
途端、ジンの表情は感心を越えて呆れ顔へと変化した。
その様子に、エイムは小さくドヤ顔を浮かべる。
「これは、着替え中にメイドさんから聞いた話なんだが」
それは、屋敷でジンの着替えが終わった直後のこと──。
「トラーバの
それは、長い愚痴の最後にメイが発した言葉。
ジンは執事服に乱れはないかを鏡で確認しながら、それまで着ていた衣服を畳むメイにそう問いかける。
するとメイは、不思議そうに首を
「どういうこと、とは? そのままの意味で、
「そっちの旦那サマ──ショーガン氏が便利屋に依頼する時、トラーバに言ったんだよ。『もし娘に何かあれば、お前の首がどーたらこーたら』って。結果を問わず解雇が確定してるなら、わざわざそんな
ショーガンが便利屋に依頼する際、トラーバに見せた
彼が口にした"首"という言葉を、ジンは解雇を意味するものと受け取っていた。
しかし次にメイが放った言葉で、その認識は粉々に砕ける。
「あぁ、それは
「へェ、物理的……物理的!?」
「
一瞬聞き流しそうになり、間を置いて驚愕するジン。
そんな彼の反応に理解を示しつつ、メイは語り始めた。
「二年ほど前のことです。あるメイドの不注意により、お嬢様が怪我を負ってしまうことがありました。とはいえ
まるで懐かしむように、穏やかな口調で当時を語るメイ。
しかし途端に表情を
「偶然その場に
「……」
突然の展開に、反応に困ったジンは黙り込むことしか出来ない。
またメイも、トラーバはともかく主人について話すのはマズイと思ったのだろう。早々に話のまとめに入る。
「このように、ほんの
最後にメイは、親指で首を切るジェスチャーをして唇を閉じる。
ジンは、ただただ絶句するしかなかった。
「──とまァ、こんな感じの話だったか」
「……なんというか、重いね。愛が」
話を聞き終えたエイムが、絞り出すように言う。
その一言に込められた感情は複雑で、なかでも困惑と嫌悪が
その反応にジンは深く頷く。
「やっぱり思うよな。ったく、儂の親とは正反対だ」
「それは知らないけど……それで、結局なにが言いたいの?」
疑問とは即ち、なぜトラーバをこの場から遠ざけてまで今の話をしたのかについて。
するとジンは腕を組み、考えるように口を開いた。
「儂も上手くは説明できないんだがな。なんというか、違和感があるんだよ」
「違和感?」
「あァ。聞いた話じゃトラーバは、無責任な言動が目立つ男だったらしい。そんなやつが、どう
「普通は逃げないよ」
「他にも思うところは色々とあるんだが……あー、なんて言えばいいかなァ」
「相談するなら、ある程度はまとめてからにしてほしい」
何が納得できないのか、それはジン自身も深くは理解していなかった。
エイムは呆れて肩を竦めると、自分なりの
「つまり、トラーバさんには人質救出以外にも目的があるんじゃないか、って言いたいの?」
「そう! そんな感じだ」
「……考えすぎじゃない?」
「ま、確かに現状じゃあ
「もしそうなら、わたしは意味もなく気が重くなる話を聞かされたことになるんだけど……まぁ、意識しておくに
エイムの理解が満足いくものだったのだろう。
ジンは
一方エイムは呆れるように肩を竦めるものの、可能性の一端程度には意識しておくことにした。
その時、
「大変お待たせしました。ジン様に言われた通り、じっくり吟味してまいりましたよ」
「待ってましたァ! 飯の時間だァ!」
車のドアが開かれ、ビニール袋を
途端、ジンは勢いよく
「変わり身が早い……」
そんな彼を、エイムがジットリとした目で眺めていた。
※ ※ ※ ※ ※
コンビニ飯で腹を満たし、再び車に揺られること一時間。
一行は
「ここが
車を降りたジンは、
真っ先に視界に飛び込んできたのは、
その中央部には駅の改札のような通用口があり、千切れた鎖や
柵の向こうでは、古くなって錆び付いた赤茶色の建物群が顔を覗かせていた。
ここがメビウス区北東に位置する
彼らは、そのすぐ目の前に立っていた。
「ジン、準備できてる?」
「問題ねェ。いつでも行けるぜ」
「うぅ……き、緊張して参りました」
その言葉にジンが気合い十分で応じる一方、トラーバは緊張に体を震わせていた。
そんなトラーバを励ますように、ジンは彼の肩に
「なァに安心しろ。お嬢は儂がしっかり連れ帰ってやるから、お前さんは大船に乗ったつもりで待ってな」
「は、ははぁ……」
「ところで──」
ジンの
そんな彼の心情など知る
「ずーっと気になってたんだが、
「ああ、失礼しました。それならこちらに」
身代金の一億
トラーバはジンの言葉にハッとした表情を浮かべると、タキシードの内ポケットから黒い小箱を取り出した。
小箱の形は、手首から中指の先ほどの立方体。厚みはトランプケースに近い。
途端、ジンは
「……なんだこれ? 一億が入ってるにしちゃ
「えぇまあ。マネーカードですから」
「まねェかあど? ……あァ、これがこの国の現金ってことか」
「……」
その隣でエイムが何か言いたげにしていたが、特に
ジンは小箱を受け取ると、廃街に向き直る。
「確かに受け取った──じゃあ行くか、エイム」
「うん」
こうして、全ての準備が完了した。
二人は並び立つと、真っ直ぐ通用口に向かっていく。
そして、
「さァて、ミッション
廃街に足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます