1-1『路地裏の邂逅』
「──
夜風が吹き抜ける路地裏で、男は空を見上げながら
視線の先には、暗闇に
初めてこの光景を目にした者ならば、その
そして思うのだ。
『こんな光景が偶然生まれる筈がない。これらを創造した存在、
しかし──。
「……なァンて
次に男が口にしたのは、そんな
美しい星空に対する感動など
「参ったなァ……。
その呟きには、深い落胆が滲んでいた。
「ここは致命的に、
再び空を仰ぐ。だが何度眺めても、ただ美しいだけの景色に心揺さぶられることはない。
当然だ。身体の
それを証明するかのように、冷たい風が男の肌を撫でる。
直後、クシャミの音が夜空に
※ ※ ※ ※ ※
世界には、無数の"
国はそれぞれ独立した歴史や文化、文明を持ち、一つとして同じものはない──どの国も、巨大な
"彼"が訪れた砂漠の国『オアシス』も、その例に漏れない。
「はァ……えらいところに来ちまったよ」
胸元が開いた
所持品は、
その姿を見れば、誰もが
そして、それは正しい認識である。
「どうしたもンかねェ。ここは
"旅人"とは、様々な土地を
その多くが
その
そして、そんなハミ出し者の例に漏れないジンは
「
そう呟くジンは、路地裏の外に視線を向ける。
そこには背の高いビルが
この国で暮らす人々からすれば、何の
しかし、この地を訪れたばかりの彼にとって、それらは目を疑いたくなるものばかりであった。
そんな光景から目を反らし、ジンは
そして溜め息。
「悲しいことに、この国じゃ他国の
中にあるのは、数枚の
しかし彼が口にした通り、この国ではゴミ同然の無価値なモノでしかない。
つまり今の彼を
そんな彼の
「うゥっ! 冷える冷える……このまま
震える身体に鳥肌を立て、体温を下げまいと腕を
状況だけを見るなら、とても砂漠の国の環境とは思えないだろう。
しかし、この寒さには理由があった。
砂漠と聞いた時、多くの人は何を思い浮かべるだろう。きっと大半が、焼けるような
その認識は間違いではない。ただし、そこには『あくまで日中に限った話』という注意書きが立てられる。
現在の彼が居るのは夜の砂漠。太陽からの熱を失った砂漠は、それだけで気温が氷点下を下回ることもあるのだ。
当然、
加えて、
──あァ
不意に振り掛かる、抗いがたい眠気。理由は単純、旅の疲労だ。
彼は入国して以降、宿を探して日が沈むまで休まず歩き続けていた。
しかし無一文の旅人に手を差し伸べる物好きは居らず、行く先々で門前払い。結果、辿り着いたのが現在の路地裏だった。
疲れが
その時──。
「……なンの音だ?」
パシュンッ──くぐもった破裂音。
不意にジンの鼓膜が、路地裏の奥から響く音を捉えた。
一拍遅れてガキャンッ、バキンッと硬い何かが激しくぶつかり合うような甲高い音が響き、ザリザリと何かを引き
「──!」
これが
しかし静寂こそが常である夜の路地裏に
そして、それは
「ただでさえシンドイ状況なんだ。追い
足元の刀を拾い鞘を帯に通すと、油断なく路地裏の奥を
そんなジンの前に現れたのは──。
「ハァ……ハァ…………っ」
「……もしかして、子供か?」
「ッ!?」
それは、見るからに小柄な人影だった。
荒い呼吸を繰り返し、左脚を地面に引き摺りながらも、両腕で大きな荷物を抱えて歩いている。
暗い路地裏であるため、人影の明瞭な容姿までは
対する影はというと、ジンに気付いた途端ビクリと体を震わせ、直後にバランスを崩し荷物を下敷きに倒れ込んだ。
ガシャンと響く、固い物体が地面にぶつかる音。
「お、おーい、大丈夫か……?」
突然のことに
ただし、すぐに駆け寄ろうとはしない。それは弱った人間を装った強盗である可能性を
『人が倒れたからといって
しかし、
「……おいおいおい、なンだってんだよ」
距離が縮まるにつれ
「おい嬢ちゃん、その怪我はどうした。何があった」
「うっ……うぅ…………」
影の正体。それは
ヘソを露出した白いトップスと、その上に羽織る
紺のショートパンツとタイツには切りつけられたような裂け目がり、肩まで伸びる銀髪は汗と
状況を理解できなくとも、
「待ってろ、すぐに手当てしてやるからな。とりあえず仰向けに──」
「っ! ダメ……ッ!」
ジンは手当てのため、荷物に覆い被さる少女を仰向けに寝かせようと手を伸ばす。
しかし彼の動作に何を思ったのか、少女は
思わぬ抵抗に、ジンは目を丸くする。
「
「渡せない……これだけは、絶対に……」
「こいつ……」
少女は出血も気に留めず、
その強硬な態度に、ジンは思わず眉を
とはいえ、なら仕方ないと引き下がれる状況ではない。今も
故に、
「悪いが治療が優先だ。このままじゃ命に関わる」
そう判断したジンは、抵抗を続ける少女の肩に手を掛ける。
多少強引ではあるものの、それが一番手っ取り早い。
しかし、いざ肩を引こうとしたその時。
「──そこのお前。そのガキを今すぐこちらに引き渡せ」
路地裏の奥から不意に、
続けて、カツンッカツンッという固い足音が大袈裟に立てられる。
「あン?」
瞬間、ジンは
この状況で、一体どこの誰がほざいていやがると、苛立ち混じりの声を挙げながら。
しかし暗闇の中、彼が目にしたものは──。
「おいおい、冗談だろ……?」
そこに現れたのは、両腕を前に突き出して構える二メートル近い
その手元で、金属の
暗闇の中、月明かりに照らされた銃口が、
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