第3話

 そこは俺の知らない世界だった。

 剣や槍を持った者たちが争い大地を赤く染めていた。

「なんだ……、戦国時代なのか?」

「やはり呪いの影響じゃな。

別次元の世界に来てしまった」

「そんな……」

「私は力を使いすぎたから暫く休む」

 女神はそう言うと姿を消した。

 赤く光る石がその場に落ちた。

「もしかしてこの石になったのか?

説明ぐらいしろよ」

 反応はない。

 その石を拾いポケットに入れた。

 

 背後から集団が迫ってくる音が聞こえた。

 振り返ると槍を構えた男達が向かってきていた。

「ちょっと待て……」

 よく見ると生命15に基礎能力が10前後だ。

 俺の生命力なら殴り勝てる。

 死ぬほど痛い槍が体を貫く。

 ダメージ120。

「ぐああぁぁっ」

 俺は気を失っていた。



 目を覚ますと猫耳が生えた少女が服を漁っていた。

 盗人か!

 俺は咄嗟に彼女の手首を掴んだ。

「ひぃぃっ、生き返った」

 少女は驚き猫耳がピンと立つ。

 愛くるしい顔に猫耳がとても可愛い。

「俺はまだ死んでない。

盗んだものを返せ」

 少女は掴まれてない方の手を背に回しナイフを手にしたのが見えた。

 こんな可愛いのに何で俺を殺そうとするんだ。

 少女を突き飛ばした。

 直ぐに少女の上に乗りナイフを奪い取った。

「ひぃっ、イヤッ助けて!」

「盗みどころか殺人鬼だったとはな。

許せるわけがないだろう」

 とは言ったものの、この状況からどうすればいいのか解らない。

 ナイフを捨てるか。

「ごめんなさい」

 少女はあの石を胸元から出した。

 受け取ると少女を開放し、その場から離れることにした。

「二度と盗みなんかするなよ」

「待って……、あの……」

 振り返ると少女はナイフを手にぶつかって来た。

 ダメージ32。

 もう許さない。

 怒りがこみ上げ、少女の首を絞めていた。

 ダメージ2。

 ダメージ1。

 継続してダメージが入っていく。

 やがて少女の命が尽きぐったりした。

「ああっ……、なんてことをしてしまったんだ。

殺すつもりはなかったのになんで」

 自分でも良く解らなかった。

 しつこく命を狙われたからか、刺された痛みが原因なのか。

 女神の声が頭の中に響いてくる。

『黄泉の世界に連れていくには、命を奪わなければならない。

連れていきたい者を殺すが良いのじゃ』

「遅い、一人殺してしまった。

連れていきたかったわけじゃない」

『私に惹きつけられ寄ってくる者は優れた能力を持つ。

積極的に連れていくのじゃ』

 この少女も、女神に魅入られていたのか。

 だとしたら女神と言うより死神だ。

 少女を埋めようと穴を掘り始める。

『捨てておけば良い。

それは抜け殻じゃ』

「それでも、このまま放置はできない」

『よく回りを見てるのじゃ』

 周辺には死体が転がっている。

 その死体から物色する猫耳の少年達が見えた。

「……ここも地獄だな」

 猫耳の少年達はの動きが突然止まり耳を立てた。

 そして一斉に走り出す。


「まだ生き残りが居るぞ!」

 武器を手に持った男達が猫耳の少年達を追いかけている。

 俺の体に槍を突き刺してくれた奴らだ。

「今の俺だと手も足も出せない。

一泡吹かせてやりたい」

『私を握り、死者を呼び覚ましたいと念じるのじゃ』

 女神の言葉を受けて石を握った。

 そして念じる。

 地面に魔法陣が現れ、あのゾンビが這い出てきた。

「うわっ……」

『君の血を浴びた者達じゃ。

使い捨てるには丁度良い』

「その為に戦わせたのか。

なんか手の上で踊らされている気分だ」

 ゾンビは勝手に男達に向かい襲いかかる。

 悲鳴が響き渡り、直ぐに静かになった。

 あっさりと一突きでソンビは息絶えたのだった。

 命がたったの25しか無い、敵のもつ槍は120近くダメージを与えるのだ。

 全然勝負にならないのは当然だ。

「……無意味なことした」

 そう思ったのもつかの間だった。

 ゾンビが突然動き出し男に噛みついた。

『現世ではアンデットは死んでも蘇る特性を得るのじゃ。

特別な力で浄化しない限り不滅』

「俺は、なんて恐ろしいものを解き放ってしまったんだ」

『気にすることはない。

私達が帰れば直ぐにアンデットは消滅するのじゃ』

「じゃあ帰ろう……」

『まあ良い。

どのようなものか知れた筈じゃ』

「なんか、俺は自分を見失いそうだ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る