第2話

 艷やかで黒い髪は足元まで伸びる。

 品のある顔立ちに赤く小ぶりな唇。

 黄泉の女神と言う肩書に相応しい美女なのだろう。

 ただ幼い姿でなければの話だ。

「なんで幼女なんだ」

 あの巨乳は何処に消えた。

 大人の魅力あふれたアレは偽りだったのか。

「君の魔気が足りなくて、大人姿を形成するには足らなかっただけじゃ。

つまり君の責任なのだよ」

 何だと、俺の力不足が原因なのか。

 ああ何ということか。

 焦ったばかりに。

 この不満を何処にぶつければ良いんだ。

 そうだ。

「……まあ良い。

それで呪いを掛けたやつの正体を教えてくれ」

「君がぶん殴ったと言う神じゃ」

「はぁ?

それって殴れないよな」

「そうじゃな」

 愚かだった。

 考えれば簡単に解りそうなものだ。

 そんな凄い呪いを掛けられそうな相手なんて、たった一人しか居ないってことを。

「ミスしたのは、あのポンコツ神なのに、

一発殴っただけでこんな仕打ちはあんまりだ」

「早とちりするでない。

私が力を取り戻せば……」

「俺を利用して何かを企んでいるんだろう」

「察しが良くて良いのじゃ。

協力してくれるなら力を貸し与えよう」

「もうこうなったらとことん付き合ってやる」

「まずは外に出るのじゃ」

「嫌だ」


 俺がこの城から出ない理由は単純だ。

 外には動く死体が這いずり俺を見つけると襲ってくるからだ。

 それも巨大な生物のように数え切れないほど集団で押し寄せる。

 その時から、扉を固く閉じ外に出ることを諦めた。


「では君の能力を可視化してあげよう。

チェッカー!」

 女神の目の前に映像が映し出された。

 そこには能力値が細かく表示されている。

「えっと、生命が一、十、百……八千万!」

「なんと凄い生命力じゃな。

これは私の見立てだから若干の誤差はある」

「基礎能力が全部一桁なんですけど、二や三って……」

「それは呪いの影響じゃ。

もしかするとすべての才能が生命に置き換わっているのかも知れぬな」

「それって最悪じゃないか。

無能って事だし……」

「悲観することはないのじゃ。

外にいる奴らの能力を見てみるが良い」

 女神が指を鳴らすと表示が変わりゾンビの能力値が映し出された。

 ゾンビは生命がたったの25しか無い、基礎能力は6~9だ。

「こう見ると俺って規格外に凄いんじゃないのか?」

「そう優れている。

チートじゃ」

「凄い、これなら突破できそうだ」

 迂闊にも俺は強いと錯覚してしまったのが運の尽きだった。

 棍棒を手にゾンビの群れに突っ込んだ。

 ゾンビの頭にクリーンヒットを決めた。

 そこまでは良かった。

 ダメージがたったの2しか与えられない。

「なっ……、13回も殴らないといけないのか。

怠い」

 ゾンビは見かけは薄のろだが、爪を振り下ろすときだけは俊敏だ。

 避けることが出来ず一撃を受けた。

 ダメージ12。

 腕がもげるかと思うような痛みが襲った。

「嘘だろう、たったの12ダメージの訳ない。

絶対数万のダメージだ」

 しかもゾンビは生命吸収の種族特性を持っている。

 与えた2ダメージが一瞬で回復して満タンになった。

 これってジリ貧、じわじわと命削られて死ぬやつじゃないか。

 だが俺にも自己回復の特性があり、一気に傷が回復して消えた。

「はぁっ、こんなの地獄だ。

無理無理……」

 お互いに殺せず、無限に戦い続けることになる。

 ただ痛いだけだ。

 俺は逃げ出し城に立てこもることに決めた。

 出迎えた女神は呆れた顔をしている。

「情けないのぉ。

戦っていれば能力が伸びて強くなれるというのに」

「いや、死にそうなぐらい痛いんだって。

精神の方が消耗してなくなる」

「では優秀な部下を仲間にする方向で考えるしかない」

「仲間って何処に居るんだ?

居るなら出してくれよ」

「ここは黄泉の世界、見渡す限り死者しかおらぬ。

現世に向かい連れてくるのじゃ」

「えっ現世に戻れるのか。

だったらここに戻ってくる必要はないだろう」

「この世界の食べ物を食したであろう。

もうここから出ることは出来ないのじゃ」

 中庭に巨大な大木が生えている。

 そこに果実がたわわに実っていた。

 空腹で食すととても甘くすぐに腹が満たされたのだった。

「あの赤い実を食べたのが不味かったのか?」

「そうじゃ。

現世にいられるのは数日だけ、それを過ぎると引き戻される」

「数日だけって、何もできそうにない」

「3ヶ月程まてば、再び数日行けるようになる。

繰り返し行き来して見つければよいのじゃ」

 それならなりそうだ。

「でも、なんで外に出る必要があるんだ?」

「私の力を奪った神々は、それを分割して封印したのじゃ。

それを取り戻す必要がある」

「なるほど、その為にあのゾンビの群れを突破する必要があるのか」

「では扉を開こう」

 女神が指を鳴らすと、空間が裂けた。

 空気が吸い込まれていく。

「中は真空とか無いよな?」

「さあ早く通るのじゃ。

すぐに閉ざされる」

 俺は裂け目に飛び込んだ。

 これでボッチとはお別れだ。

 女神様に従うふりして、城内で平穏に暮せば良い。

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