悪魔護送者スタッド~死刑になったマフィアの下っ端のオレが、半日以内に悪魔を大聖堂まで護送すれば復活させてもらえるかもしれない件~
悪魔護送者スタッド~死刑になったマフィアの下っ端のオレが、半日以内に悪魔を大聖堂まで護送すれば復活させてもらえるかもしれない件~
悪魔護送者スタッド~死刑になったマフィアの下っ端のオレが、半日以内に悪魔を大聖堂まで護送すれば復活させてもらえるかもしれない件~
よしふみ
悪魔護送者スタッド~死刑になったマフィアの下っ端のオレが、半日以内に悪魔を大聖堂まで護送すれば復活させてもらえるかもしれない件~
どんな人生だったのか、昔からの悪人だ。
子供の頃、着ていた服は全て盗んだものばかり。
おふくろは、そんなオレをしかりつけることもなかった。
周りも似たようなクズばかりで、そいつらとやる悪事が、どんどん楽しくなっていき。
犯罪を繰り返しながら、どんどん堕落していったんだ。
「だから、ここにいる……別に、言い遺すことなんてない。言い遺したい相手も、いない」
口に、水を含んだ黄色いスポンジを噛む。
少年院の頃に教わったボクシングを思い出す。
ちゃんと、マウスピースを噛んで試合をしなさいと教わった。
スポーツに打ち込んでいるあいだは、多少、人間らしく生きられた気がする。
でも、それはけっきょく気のせいだった。
少年院から出ると、またマウスピースも噛まない相手を殴り、ナイフで刺して、銃でも撃つ。
どんどん邪悪になって、けっきょく、こうなった。
……指示されて、動く。スポンジを噛んだ。死刑のための、人道的な電流が、オレの脳みそを焼きやすくするための道具らしいけど、詳しいことは知ったことか。
もういいさ。
どうせ、死ぬのなら……。
……さっさと、死ねばいいんだ。オレみたいなクズなんざ。
……死ねば。
『良いこと』もある。
「はらわたまでは、焼けないんだな」
「そうだ。最新型なんだよ。焼かれるのは、皮と、脳だけ。腹部の臓器は無事。良かったな。最後に、人助けをやれる。自分の信仰に、告げてみればどうだろうか?心が少しは安らぐかもしれないぞ?」
「いらない」
見届け人の助言を断る。目をつぶった。怖いわけじゃない。落ち着いていたかった。
傍若無人に生きてきたんだ。
乱暴者として、恐れられて。
そういう男であることも、嫌いじゃなかったから。
最後は……怯えたくない。
クズにでも、カッコつけたいっていう願いはあった。
遠くで、何か重たげな金属が動くような音がして、全身に電流が走ったのだろう。
痛みと、焦げるにおいを、感じた気がする。
オレは……電気に焼かれて、そのまま死ぬんだよ―――――。
―――気づけば、目の前に『黒い者』がいた。
手足が長すぎる人型の何かで、顔はのっぺりとした暗黒がある。
口もない、耳も目も鼻もない。
そんなバケモノの割りには、いいスーツを着ていやがった。
あちらは立っていて、こっちは……古いロッキングチェアなんかに座らされている。バカにされている気になった。
だが。手首は重たく、冷たい。また手錠がはめられてた。
「死んだのに、自由じゃないのか」
「やはり、いい人材だ。死んだ自覚を持っている死者は、貴重だよ」
「……あの世のバケモノが、何の用だ」
「チャンスを持って来たよ」
「……チャンス?」
「死にたくないだろう。自由を取り戻したいはずだ。自覚していなかったとしても、本能はそうあることを望んでいる。だから、私がここに呼ばれた。取引のために」
「取引だと?」
「そうだ。あるモノを、ある場所にまで運べば、君は復活できる。死んだことを帳消しに出来るんだよ」
「……」
「魅力的に感じられる提案だろう。死は、楽しくはない。もう一度、罪のない無垢な状態から、人生をやり直してみたらいい。少なくとも、今回よりは、いい死に方をする」
「……だが……」
「スタッドくん、マフィアの手先となって、多くの人を殺めたのに。最後は、献身的な態度を見せた。『神さまみたいな者』が、それを買っている。安心したまえ、君の臓器はちゃんと求めていた者の手に渡った。君は、新しい臓器と一緒に復活する。嫌かな?選べ、死ぬか、生きるか。どちらだ?生きたいだろう?」
うなずいていた。
受け入れるために。
強がる気には、なれない。
本能的に、これが『最後のチャンス』だと理解していたからだ。
綺麗なスーツのバケモノは、よろこぶ。
拍手で、称えた。
「素晴らしい。いい選択だ。とても勇敢でもある。私みたいなものと契約するなんて。さあ、見たまえ。すぐ隣を。横を見るんだ……怖がるな。そういうガラじゃないだろ」
言われっぱなしは嫌だから。
右を向く。右だってことは分かった。手錠から伸びる鎖が、そっちに引っ張られていたからだ。
そして。
『出遭ってしまう』。
目の前にいるスーツのバケモノよりも、ずっとおそろしい姿かたちをしている。
皮を剥がれた、血まみれの筋肉と骨の集合体……。
アタマからは、デカくて曲がった角が生えている。
背中には、コウモリのような羽根が……。
体は……大男であるオレよりも、ずっとデカい。三メートル、近く、あるんじゃないだろうか。
スーツのヤツよりも、ずっとバケモノ具合が強い。
恐怖で口のなかが乾く。
それでも、ちゃんと声は出せた。
「……悪魔……」
オレと鎖でつながれた悪魔は、ニヤリと笑う。
「そうだよ、彼は悪魔だ。正真正銘の罪深い大悪魔。でも、安心したまえ。彼とその鎖がつながっている以上、スタッドくんは『契約者』の代わりが出来る。君は、彼の力さえ、使えるようになるんだ」
「何だ、それは?」
「力がなければ、成し遂げられないからだ。だから、私が与えてあげるんだ。彼を、君は生まれ育った街の中央にまで運ぶ。何処だか分かるね」
「……大聖堂」
「そう。そこでならば、彼を葬りされる。彼は、そこで死刑になるべき悪魔なんだ」
悪魔が、ぎりぎりと歯を鳴らす。怒りを覚えているのだろう。しかし、鎖のおかげで暴れはしない。
だが、恐怖がふくらむ。電気椅子さえ恐れなかった男でも、悪魔は怖かった。
「なんてものを、オレと結び付けて、いやがるんだ……っ」
「まあ。運命だ。多くを殺した者には、罰も与えられる。死後の罰だが、再生のチャンスでもある。がんばりたまえ。君だって、故郷を『あのまま』にはしたくないだろうから」
「『あのまま』?」
「時間だ。さて、がんばりたまえ。どうにか、大聖堂へと辿り着き給え。何をしてもいい。立ちはだかる者は、全て、殺したまえ。君ならやれる。得意分野だ。だから、神は選ばれた」
「おい、もっと分かるように説明を―――」
スーツのバケモノが、懐から拳銃を取り出す。
蜘蛛みたいに長い腕で、オレを狙う。
アタマに狙いを定めているのが分かった。
オレも、そうやって何人か殺したから。
「幸運を。その悪魔を他の邪悪どもに奪われないように、護送したまえ」
引き金が絞られて。
音と衝撃が、意識を潰していた。
「はあ!?はあ、はあ、はあ……っ!?ここは……っ」
刑務所の独房のなからしい。
だが、普通ではない。
壁が、血の色だ。
そして、壁には血管みたいなものが這いまわり、動いている。
まるで、生き物の腹の中にいるみたいだ。
それでも、『現実』はまだわずかに残存している。
記憶のなかにある、独房……一応は、オレの部屋。
『前に使っていたヤツの遺品』でもあるグラビアのポスターがある。
見覚えがあった。
『次のヤツ』もいた。
「クロード……か?」
デブの連続強盗犯、クロードがいた。
トイレに座っている。
うなだれた頭は、スキンヘッドで相変わらず肉団子みたいに醜い。
「おい、オレだ、スタッドだ。分かるか?」
「……う、ぐ、がああ!?」
ヤツは苦しみ出す。そして脂肪のついた太った体をぶるぶると振り回し……。
いきなり、破裂した。
血と肉と、脂がそこら中に飛び散った。
頭だったから、きっと脳も飛び散っていたんだろう。
だが、クロードは動いている。
頭からは、変な『花』が咲いていた。
サボテンみたいに肉厚な花だ、きっと、この世のものじゃない。
そいつも壁みたいに血管が走り、脈打っていたからだ。
頭の代わりに花を生やしたクロードが……立ち上がり、いきなり襲い掛かって来た。
争いになる。
狭い独居坊で殴り合った。
ボクシングの警官は、今日も、オレに暴力の恩恵を与えてくれた。
不気味な花をぶん殴ると、クロードの死体と、それに寄生した花を床に倒す。
「ぎぎぎいいいいいい。『男爵』を、かえせえええええ」
「どこから、声を出してるんだか……でも……男爵……っ?あ、ああ。あれか、あの、鎖の……悪魔……っ!?」
鎖が見えた。
その瞬間まで見えなかったのに。
今ではオレの手首から伸びて、『男爵』とつながっているのがよく見えやがった。
「だんしゃくううう!!そんな、そんな、死にぞこないの魂なんぞに、使役されないでくださいませ、偉大なる我々の、指導者さまああああああ!!!」
「使役……使える、っていうことか。なら……この花を、黙らせろよ、『男爵』!!」
『男爵』が、巨大な拳銃を抜く。
金色に輝く不気味なそれを、腹の肉の裂け目から引き抜いて、クロードの首の上で暴れながら叫ぶ花に狙いをつける。
「撃て!!」
『男爵』が従った。
引き金が絞られて、大砲みたいデカい拳銃が弾丸を放つ。
いや、弾丸じゃない。
何かは分からないが、赤い光を放って、爆発する謎のものだ。
とにかく、威力は……十分過ぎた。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!
爆音と衝撃と灼熱を浴びる。
花どころか、クロードの上半身も吹き飛んでしまっていた。
「や、やりすぎだ……っ。だが、しかし……おかげで、壁にも穴が」
脱出できる。
独房を、抜けられそうだ。
脱出計画を夢想したことぐらい、ここにいた12か月のあいだに何度もあったが。
現実になるのは、初めてだな。
嬉しい。
まあ、これが『現実』だということは、憂慮すべきことだが。
「地獄だな」
監獄は地獄だという『普通』のことを言いたいわけじゃない。
今の監獄は、壁も天井も床も、動物のはらわたみたいだった。
赤くてぬめぬめしていて、人の手首ほどの太さはありそうな無数の血管が這いまわり、脈打っていやがる。
そんな場所に。
クロードと同じく寄生された囚人たちと、看守たちまでもが歩いている。
「……囚人は、ともかく。看守は銃を持っているな……奪うか。『男爵』の……悪魔の力なんて、使うのは、少し気持ちが悪い」
『……聡明だな』
「しゃべるのかよ、『男爵』」
『この街は、私と契約した者により、地獄へと堕落させられたのだ。死者と魔物が棲み、生者の肉を喰らう場所となった』
「……街の外も?……スーツ野郎め。だから、力が要るのか」
『そうだ。私を取り戻そうと、多くの眷属が貴様を待ち受けている。悪魔の指導者のひとりである私を救出したいのだ』
「……させないさ」
『やってみればいい。挑まれることも、好きだ。最後には、絶望を見せてもらえる』
「……ふん」
オレは、襲い掛かって来た頭が花になった警官を殴り倒すと、腰から拳銃を奪う。
暴れる花に至近距離から三発、銃弾を浴びせた。
花は飛び散り、警官も動かなくなる。
「殺せるな。お前に頼らなくても」
『頼るほどに、貴様は力を注がれる。悪魔に近づいて行くぞ』
「……悪魔に近づくと、どうなるってんだ?」
『神ならば、答えまい。だが、私は答えてやろう。貴様は私自身になる。そうなっても、私の勝ちだ。眷属どもに貴様が負けても負け……そして……夜明けまでに、大聖堂に辿りけなかったでも、貴様の負けだ。貴様の身体を乗っ取り、この街を支配する。永遠に』
「させないさ」
『使命感か。つまらんな。もっと、素直に堕落すればいい。スタッド。貴様は、やがては、私を受け入れる。この街では、多くの惨状を見れる。裏切りも、悲しい死も』
「悲しい死……っ!?」
『いい耳をしているな。護送担当に選ばれるわけだ。そう、悲鳴だぞ。悲鳴が聞こえる。女子供の悲鳴だあああああ!!』
正義の味方ではない。
だが、悲鳴は嫌いだ。
男の悲鳴は別にいい。
女と子供の悲鳴は、嫌いだ。
おふくろが……ヒモ野郎に殴られていたからな。
オレも、あいつに殴られて蹴られた……。
だから、大嫌いだ。
刑務所を出ると、街並みが広がる。
『男爵』の言う通りに、地獄だった。
死者たちが、バケモノに寄生されて動き回っている。
互いを、襲っている?
いや、生きている者を襲っているんだ。
自分たちの仲間に引きずり込もうとして。
悲鳴が、また聞こえた。
視線と耳がそれを探す……街並みを、走った。バケモノどもを警官から奪った銃で仕留めながら……。
やがて、見つけてしまう。
聖人の名前を冠した病院だ。
そこの産科がある病棟から、悲鳴が聞こえている。
『私とつながっているおかげで、聞こえたな。人を超えた力を使役している。だからこそ、聞こえた。あの病棟は、死者の苗床となっている。生きているのは、子供一匹、その母親一匹だけ……見捨てて、大聖堂に行くべきだろうなあ』
「……悪魔の言うことを、聞くほど、愚かではない」
『愚かさ。愚かだから、けっきょくは死んだ。それに、この惨状の原因も知らんままだ』
気になる。
『男爵』の言葉は気になるが、悲鳴に向けて、走っていた。
病院のなかも地獄だった。
死者にされた者と、小さなバケモノ、大きなバケモノ。
不気味なものが何でもいた。
そいつらを倒したり、やり過ごしたりしながら先を進む。
たどり着いたのは、新生児たちが保育器に並べられているはずの部屋。
何もいない。
何もいないが……。
中央に、泣いている女がいて……そいつの腹は5メートル近くある、赤ん坊になっていた。
『罠だったようだ。『悪魔』は嘘をつくから、気をつけたまえよ、スタッドくん』
「くそが!!」
戦わない。
逃げる。
逃げたが、オレを一口で呑み込めそうなほどにデカい赤ん坊に追いかけられた。
銃弾が切れる。
どうしようもない。
どんどん追い詰められていき、オレは『男爵』の力に頼った。
バケモノを、銃弾が斃した。
オレと『男爵』をつなぐ鎖が炎で包まれて、オレの腕を焼きにかかる。
『神の罰だ。私には効かないが、貴様にはこたえるだろう。強さが欲しければ、いくらでもくれたやるから……告げるがいい。貴様への私の侵食率を高める代わりに、銃弾をやってもいい。治療薬もくれてやる。求めれば、与える。対価をいただくがね』
……上手く、使いこなす方が賢明かもしれない。
侵食を受けれいるのではなく、何かしら、『男爵』が欲しがるものを与えれば、願いを少しは叶えてくれるかもしれない。
金目の品を、可能な限り拾い集めていた方が良さそうだな。物資も、可能な限り集めておきたい……。
街を突っ切るためにも、先は長そうだ。
病院を出た。少しばかりの窃盗をした後で。死体から奪った金の指輪を、『男爵』に捧げることで、警官の拳銃の弾をもらえた。
対価を支払えば、何でも叶えてくれる。
悪魔が実在していれば、頼るヤツも出て来るなんて非常に自然なことだ。
街中でバケモノどもと戦いながら大聖堂を目指した。
その途中に、大聖堂を見下ろせる高級住宅街へと辿り着いてしまう。
『懐かしいな。貴様のボスの屋敷が見える。貴様を助けてくれるはずが、やはり裏切ってしまったなあ。助けてなど、くれなかった。司法取引にも応えずに、当たり前のように貴様を裏切った男だ』
「……うるせえよ」
『知りたくないことを、もう一つ教えてやろう。私と契約した者は、四人いる。いずれも、この街の名士たちだがね……』
「まさか」
『そう。察しがいい魂は好きだ。君の予想した通り、四人のうちの一人は、貴様のボスだよ』
「コリントめ!!」
『怒りがあるなら、探し出して殺してみるがいい。裏切りの血を、浴びて、もっと強い男になったらどうだね、スタッド』
「……オレは……」
そのとき、銃声の嵐が聞こえる。
住宅街のどこかで、誰かがバケモノどもと戦っているのだろう。
『ほう。手助けを選ぶか。いいぞ。力が欲しければ、いつでも言え。欲しいだけ、対価に釣り合う力を得られる』
「いらねえよ。必要最低限しか、頼らん……っ!!」
住宅街の奥にいると。
巨大なバケモノと撃ち合う連中がいた。
こちらも参加する。
しかし、生き残りたちは次から次へと殺されていった。
「『男爵』!!」
その力を借りるしかない。
薄笑いを浮かべていただろう。
また一つ、オレを侵食できたのだから。
『男爵』の力を借りたことで、あの爆撃みたいな射撃もやれた。
おかげで、デカブツを倒せていたが。
生き残りは、一人だ。
その一人も、ライフルを突きつけてくる。
「動くな!!近づけば、殺すわよ!!」
「……近づかないさ。この状況を、オレはどうにかしたいんだ。それだけだ!」
「……っ!?うそ、でしょ!?あなた、スタッド……っ!?」
「……君は……ケイトか!?」
友人の妹だって、この街にはいるんだ。
見つけられたのは、ケイト。
友人の妹で、新米警官になる予定の女だ。
「……いや、もう警官のバッジをもらったのか」
「ええ。もらった。でも、どういうこと?あなたは……たしかに死んだはずなんだけど」
「色々あって、神さまみたいなヤツの使い走りをしている。オレが、大聖堂まで、悪魔を連れていければ、この騒ぎは収まる」
「本当に?」
「確たる証拠があると言うわけじゃない。しかし、他に方法を知らない」
「……死者が動き回って大暴れ。あなたは、とっくの昔に死んでいるのに、あらわれた。不思議なことが起き過ぎている……」
「一緒に行くか、街の平和を守る警官?」
「……いいえ。貴方は、信じられないわ。お兄ちゃんの友人だったのは、過去のことでしかないもの。今は、とても信じられない」
「……そうだな。それがいい。マフィアの下っ端なんて、信じちゃいけない」
「ええ。任務が、あるもの」
「任務?」
「死刑囚には、関係ない」
「死んだら、罪は償われるんじゃなかったか」
「……何人も殺した、獣みたいな男だわ」
「……死んだぐらいじゃ、どうにもならないか」
「……ええ。でも、教えてあげる。一応は、私が守るべき市民かもしれないし。死んでいるけど……タレコミがあったのよ。マフィアのボス。あなたのボスでもあるかしらね、コリント。ヤツの部下が、この状況の原因を作ったのは、ヤツだって教えてくれた」
「だから?逮捕でもする気なのか?」
「特殊部隊が、もう一組、向かっている」
「仕留めるつもりか。だが……」
「……力不足でも、するしかないわ。仲間も行くんだ。私も行かなくちゃ、より戦力が弱くなる」
選ぶことが、出来る。
見捨てることも。
ケイトは、そもそも信じてくれちゃいない。
『悪魔』の力を使う、死んだはずの男は……。
コリントよりも、よっぽど危険な気がするはずだ。
だが、結局は、ついて行くことを選ぶ。
警官たちの死体から、銃と装備を回収した。
マフィアの道は、マフィアが知る。
コリントの軍用車両コレクションの場所は、有名ではあったからね。
そこを襲撃して、一台、奪った。
「これなら、コリントの家に乗り込める。機関銃まで備え付きだ。使えるな、ケイト」
「やるわよ。でも……もう片方のチームとの連絡が……」
「行かないなら、そっちの方が、安心する」
「……お兄ちゃんの友人だったからって、そういう態度をしないでくれる?」
「ああ。そうだな。失敬。さて……どうする?」
「行くわ。作戦時間が開始されるのは、もうすぐだもの。この車で突撃できれば、たしかに戦力として申し分ないものね」
久しぶりに、あの子の笑顔を見た気がする。
昔馴染みの笑顔は、魅力的だ。
死んだ男には、とくに。
「銃撃の音!!作戦が、開始されてるわ!!生きてて、くれたのね!!」
「だが、劣勢だ。撃ちまくり、援護してやれ」
「わかってる!!警官なのよ、私は!!」
軍用車両の荷台で機銃をうならせる。
弾丸の嵐が敵の群れを切り裂き、オレが運転する超重量級の車両が敵をひいて潰す。
「いい調子!!」
「いや、何かデカブツが、屋敷の奥から!!」
『があああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!』
巨大な蛇のようなバケモノだった。
頭部は、人の上半身の形状をなっていたが。知っているヤツの上半身だ。
「コリント!!」
『があああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!』
狡猾なマフィアの知性は消え去っている。
ただ本能のままに、生きて動く者を襲うだけの、単調な行動パターンとなっていた。
だが。
強い。
「機関銃の弾が、切れた……っ!!」
「くそ、追いつかれる!!援護は!?」
「向こうも、かなりやられている。そんな余裕、あるはずない!!」
「くそ!!……しょうが、ないのか」
『男爵』の力を頼り、あの弾丸を使った。
かつてコリントであったものは、爆発し……『頭部』を失った蛇も、すぐに死んだ。
勝利。
しかし、その代償もある。
「ぐう、ああああ、ああああああ!!?」
『腕が、私のものになりつつある。どんどんバケモノの形と質に変わって行くぞ』
「ふざけるな……っ」
「スタッド、大丈夫!?スタッド!?」
『より悪魔に近づいた君に、新しい快楽を教えてやろう。女の血は、美味いぞ!!』
その言葉に、正気が消えた。
心配してくれるケイトを押し倒し、そのまま彼女の首に噛みついていた。
……吸血鬼になったらしい。
バケモノに、なった。
すぐに、彼女から離れられたことは正解だ。
暴走が続けば、喉笛を噛み千切っていたかもしれない。
「はあ、はあ!!」
拳銃を向けられる。
眉間に突きつけられたが……やがて、拳銃は降ろされた。
代わりに、拳で顔面を殴られたよ。
別にいいさ。
これぐらいの罰なんて、軽いもんだ。
死者が、生きている者に噛みつくなんておぞましいことをすれば、罰せられるべきだしな。
「……このまま、オレは、大聖堂まで向かう。ひどいことをして、悪かった」
「……いいえ。人格面での期待なんて、していないわ。でも、強いってことは分かった。どうにか、なるとすれば……私たち人間側の希望は、スタッドになるかもしれない。援護するから、進みなさい」
「警官隊にエスコートされるとは」
「嫌だろうけど、がんばるの。もう、これだけしか、戦うための力は残っていないかもしれない。二度目のアタックのチャンスなんて、ないのよ」
「分かっている。どうにか、成し遂げよう。この街を、これ以上、好き放題に壊されてたまるか……」
オレと警官隊と、その車両。
そして、ケイト。
バケモノどもが渦巻く街の中心を目指すには、十分とは言えない戦力だが……。
このメンツでやるほかにない。
オレは……大聖堂に向けて、車を出した。
何が、待ち受けているのか。
どうせ、ろくなものじゃない。
それでも……強く戦いたい。死んだ後でも、変わらない意志もあるんだ。
原案的には終了。こういうノリのダークなアクションも作ってみたいです。
悪魔護送者スタッド~死刑になったマフィアの下っ端のオレが、半日以内に悪魔を大聖堂まで護送すれば復活させてもらえるかもしれない件~ よしふみ @yosinofumi
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