第9話 伝えるもの 忘れられたもの
最大まで充電された電池を取り付けて、バスが研究所を離れていく。
キュルルたちとかばんを乗せたバスを、博士と助手は研究所の入り口で見送っていた。
バスが見えなくなってから、博士はぽつりと呟く。
「肝心な時に一緒に行けないというのは、落ち着かないものなのですね」
もう一人のカラカルの捜索と追跡には、当然博士も同行するつもりでいた。しかし昨日の話し合いの後、助手とかばんに止められたのだ。
高い場所から地面に叩きつけられて、頭を打っている可能性もあって心配だからだと言うのが理由だった。
念のため残っていたほうがいいと言うかばんに、博士は何も問題ないと主張した。
しかし助手にも万が一の事を心配され、更にかばんにはあまり大人数で行くともう一人のカラカルに余計な警戒をされてしまうと説得され、博士は助手と共に残る事になったのだ。
セルリアンに食べられたサーバルとカラカルは大丈夫なのかとキュルルは心配していたが、その不安はかばんがあっさりと解消した。
救出が早かったお陰で記憶を失ってはいないし、フレンズ化が解けてもいない。経験則ではあるが、サーバルとカラカルは重症にはなっていないのだ。
絵を取り戻すとイエイヌに約束したキュルルたち、バスの運転が出来るかばんがもう一人のカラカルを追うという事で話がまとまり、助手は博士の付き添う為に留守番を引き受けたのだった。
「博士。体の具合はどうですか?」
助手に訊かれた博士は、ご覧の通り健康だと胸を張る。
「昨日と同じで問題ないのです。心配し過ぎなのですよ」
確かに外から見ても問題はなさそうだが、もしもの事が助手の頭をよぎる。
「調子がおかしいと思ったらすぐに休んで下さい」
「分かっているのです。……まったく、お前もかばんも私の事ばかり言っていないで、少しは自分の事も心配するのです」
ここにはいないかばんにも不満を言いながら、博士は助手と共に研究所内へと戻っていった。
バスがまず向かったのは、サーバルとカラカルが大型セルリアンと戦い、もう一人のカラカルと別れた森の入り口だった。
当然と言うべきか、そこに彼女の姿はなかった。サーバルとカラカルが微かに残っていた匂いを辿ったものの、すぐに途切れて追えなくなってしまった。
手がかりが消えたのであれば、周辺にいるフレンズに聞き込みをするしかない。しかしそのフレンズを探して訊ねても、目撃情報が得られる訳ではない。
ここにいるカラカルと同じ姿のフレンズを見ていないか。そう訊いては知らないと言われ、同じ種類のフレンズが同時にいる事に驚かれるばかりだった。
聞き込みをしたフレンズに知り合いや友だちを教えてもらい、そのフレンズに訊ね、目撃情報があればそれを頼りに進み、またフレンズを捜しては同じ事を繰り返す。
そんな地道な方法でもう一人のカラカルを追跡していたのだが、中々決定的な情報はつかめなかった。
「あーもう! あいつどこにいるのよ!?」
フレンズに聞き込みを終えて走り出したバスの中で、はかどらない捜索にカラカルが声を上げた。
「大体の方向は分かったけどね……」
若干気疲れした顔をしたキュルルは、短い筒を二つ並べてくっつけたような道具――双眼鏡を手に窓の外を眺める。
これはもう一人のカラカルや聞き込みをするフレンズを見つけるため、出発の際にかばんから渡された物だ。
「見つからないね」
キュルルと逆側の窓から顔を出して、サーバルも目を凝らしている。今のところ、見える範囲にフレンズはいないようだ。
「近づいてはいるはずだよ。周りをしっかり見てて」
運転席でハンドルを握るかばんは緩やかな速度でバスを走らせている。あまり速度を上げると、キュルルたちが周囲にいるはずのフレンズを見落としてしまうからだ。
もちろん、かばんも正面側にフレンズがいないか注意している。もう一人のカラカルであれ聞き込みをするフレンズであれ、見過ごすのだけは避けたい。
「あっ! かばんさん! 右に曲がってください!」
双眼鏡を覗いていたキュルルが運転席へ伝え、かばんはハンドルを回してバスの進行方向を変える。
「誰かいた?」
「はい。あれは……」
正面を向いたキュルルは目を離した双眼鏡を再び覗き、さっき一瞬だけ映ったフレンズを捉えた。丸い視界に見えるのは、頭に帽子を乗せて赤い服を着たフレンズと、傍らに置かれた大きなキャリーケース。
「リョコウバトさんだ」
キュルルの呟きに、サーバルとカラカルが身を乗り出すように正面を見やる。始めは小さい人影にしか見えなかったが、それがリョコウバトだと分かるまで時間はかからなかった。
キュルルが窓から顔を出して手を振ると、リョコウバトがそれに気付いて手を振り返す。
かばんはバスの速度を落とし、リョコウバトの少し手前でバスを停めた。
「お久しぶりです。ホテルの時以来ですね」
リョコウバトは微笑んで、バスから降りたキュルルたちに挨拶をする。そして、少々遅れて降りたかばんに顔を向けた。
「あなたは……申し訳ありません。ホテルの海岸でお見かけしたのですが、お名前を存じ上げず」
気にしないでと言ってから、かばんはリョコウバトに自分の名前を告げる。
「パークガイドのかばんです」
リョコウバトもかばんに名乗って会釈をする。二人の挨拶が終わるのを見計らって、キュルルが口を開いた。
「リョコウバトさん。訊きたい事があるんだけど」
「どうしましたか? キュルルさん」
「カラカルと同じフレンズと会ったり、見かけたりしてないかな?」
今日だけで何回したか分からない質問をする。ここまで訊ねた大半のフレンズ同様、リョコウバトもおそらく知らないだろうと思っていた。
「その方でしたら、先ほどお会いしましたよ?」
それ故に、あっさりと返って来た答えにキュルルたちは驚きの声を上げる。色めき立つ一行を不思議に思いつつ、リョコウバトは言葉を続けた。
「カラカルさんだと思って話しかけたのですが、私の知っているカラカルさんとは違うとおっしゃられて……」
「どこで!? どこで会ったの!?」
予想外の朗報に食いついたのはカラカル。興奮気味の彼女とは対照的に、リョコウバトは落ち着いた口調で返す。
「ロバさんが食べ物を配っている高台をご存じですか?」
「知ってる! キュルルちゃんと初めて会った時に行ったよね!」
サーバルに同意を求められたキュルルは頷いて、バスを示してリョコウバトに確認する。
「ここにあるバスと似た乗り物がある所だよね?」
リョコウバトはバスを見やり、キュルルの言葉を肯定する。
「はい。前にも行った事があったので久々に行ってみたのですが、ロバさんは留守にしていまして……ですが、そこにカラカルさんがいらっしゃったんです」
「そこからどこに行ったか分かる?」
大体の方向さえ分かれば一気に距離を縮められると、かばんが逸る気持ちを押さえて問いかけた。
「行き先はお聞きしてはいないのですが……もしかしたら、そこから見える建物に向かったのかもしれません。下まで運んで欲しいと頼まれたので、お運びしましたから」
有力な手掛かりを聞いた途端、キュルル、サーバル、カラカルの三人は揃って息を呑む。リョコウバトは知らないだろうが、もう一人のカラカルが向かったと思われるのは、キュルルと関係がある場所。
「そこって、ぼくがいた所だ……」
呆然と呟くキュルルは疑問を覚えずにはいられない。あそこにあるのは、自分が眠っていたと思われる妙な丸い物体があるだけだ。
あの場所にもう一人のカラカルが向かっているとは限らない。しかし目的地があそこだとしたら、理由も目的も全く分からない。
「ありがとう、リョコウバトさん。行こう、みんな」
礼を言ったかばんがバスに戻っていき、キュルルたちもそれに続こうとした時だった。
「あっ、キュルルさん」
「どうしたの?」
リョコウバトがキュルルを呼び止める。何かあったのだろうかとキュルルが怪訝に思っていると、思わぬ言葉が耳に届いた。
「ホテルで描いていただいた絵ですが、今はお持ちではないですか?」
苦い話題に顔が強張る。リョコウバトが寂しくないようにと思って書いたあの絵は、ホテルで大量のセルリアンが現れる原因にもなった。
フレンズ型セルリアンの騒動でバタバタしていたのもあるが、回収した絵をまたリョコウバトに渡してもいいのかと考えている内にうやむやになってしまって、結局スケッチブックと一緒にかばんの家の引き出しにしまいこんでそのままだ。
「……ごめん。今は持ってないよ」
絵を回収した時に話すのを忘れていた引け目もあり、キュルルは若干表情を暗くして謝罪する。
「そうですか……。よろしければ、あの絵を譲っていただければと思ったのですが」
「でも……」
リョコウバトの言葉は嬉しい。しかしあの絵の事となるとホテルでの騒動を思い起こしてしまい、キュルルはすぐに聞き入れる事が出来ない。
不安が拭えないキュルルを安心させるように、リョコウバトは微笑みかける。
「キュルルさんが心配になるのは分かります。ですが、わたくしはあの素敵な絵と一緒に旅がしたいんです」
丁寧で穏やかではあるものの、その口調はリョコウバトの凛とした意志が感じられるものだった。
「キュルルさんと会って、また旅をしていて思うようになったんです。わたくしも絵が描ければよかったって」
「どうして?」
聞き返すキュルルに、リョコウバトは神妙な表情を浮かべる。
「前にアードウルフさんとお話ししたんです。もし自分がいなくなったら、色んな思い出も全て消えてしまう。誰かに話しても、その誰かがいなくなってしまえば忘れられてしまいます」
自分の事を覚えている誰かがいなくなる事が怖い。リョコウバトが胸に手を当てて語る言葉に、誰もが無言で耳を傾けていた。
「だけど、絵があればたとえ自分がいなくなっても残ります。誰かに思い出を伝える事が出来るんです」
「思い出を伝える……」
キュルルは囁くような声でリョコウバトの言葉を繰り返す。そんな事、考えもしなかった。
「それは凄い事だと思うんです。……ですから、いつかで構いません。また絵を描いてもらえませんか?」
まっすぐに見つめて来るリョコウバトに、キュルルはすぐに答えられない。
また絵を描いて欲しい。そう言われたのはこれで何人目だろう。その度に嬉しい気持ちと怖くて描けないという思いが一緒に湧いて、どうすればいいか分からなくなるのだ。
分かったと同意する事も、無理だと断る事も何か違う。今の気持ちはどちらでもなくて、はっきりと決められない。
「……いつかで、いいなら」
だから、曖昧な返事をするのが精一杯だった。
「ええ。待っています」
それでも優しく受け入れてくれたリョコウバトに安心し、キュルルは自然と顔がほころんだ。
サーバルとカラカルもまた、口元に笑みを浮かべていた。ホテルの一件以来スケッチブックを開く事もなく、絵は描かないとまで言っていたキュルルが、ほんの少しでも意欲を取り戻したのだ。
「ごめん、リョコウバトさん。ぼくたち、もう行かないと」
「そうですか……お引き留めして申し訳ありません。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
丁寧なお辞儀をするリョコウバトに礼を言って、キュルルたちはバスに乗り込む。
行く先はキュルルがサーバルとカラカルと出会ったエリア。リョコウバトが教えてくれた場所はかばんも知っている場所だ。もう迷う必要はない。
目的地を目指してバスが走り出す。みるみる遠く離れていくキュルルたちを、リョコウバトは手を振って見送っていた。
キュルルたちがリョコウバトと話している頃。
かつて女王と呼ばれたセルリアンの結晶体が運び込まれた建物の中で、もう一人のカラカルは巨大な物体を前に佇んでいた。
物体は一対の突起が生えた卵のような形をしており、表面は壊れて大きな穴が広がっている。その内部に敷き詰められた色とりどりの四角い塊が光を放ち、塊の上に置かれた一枚の絵と、正面に立つカラカルを照らしていた。
カラカルは腰のポーチからセルリウムの入った瓶を取り出すと、栓を開ける事もせずにぼんやりと見つめる。
パークはかつて何度も危機に見舞われて、その度にフレンズとヒトが協力し、時に犠牲を出しながらも乗り越えてきた。
自分がやろうとしている事は、そうやってパークを守り、救ってきたみんなの思いを踏みにじる行為だ。
でも、当時の事を覚えているヒトもフレンズも、もういない。遠い昔にみんないなくなって、忘れられて、自分以外に残っているかも分からない。
友だちや仲間と同じ姿の、新しく生まれたフレンズと何度出会っただろう。その度に忘れられている事実を突きつけられて、どれだけの虚しさを感じただろう。
過去には戻れない。未来にも進めない。自分はとっくに足を止めてしまっていた。
「皮肉なものよね……」
足を進めるきっかけになったのは、友だちのあの子を取り込んで、親友を間接的に奪ったセルリアンだ。
女王だった結晶体を利用する事に後ろめたさはある。だけど、親友やミライともう一度会うにはこれしかない。
瓶の栓を開けようとして、不意に昨日出会ったキュルルたちの姿が頭をよぎる。あの子たちは今何をしているかと考えて、すぐにその考えを振り払う。
今更やめる事なんて出来ない。迷いかけた心を叱咤し、カラカルは栓をこじ開けた。瓶を傾け、結晶体の中に置いた絵にセルリウムを零していく。
『パークのおにいさんおねえさんへ』と書かれた絵が黒い泥のようなセルリウムに覆われて、セルリウムが音を立てて膨らみ始めた直後。
セルリアンだった結晶体が、震えた。
「何?」
以前と同じく光が炸裂するのを予想して、カラカルは咄嗟に両腕で顔を庇う。しかし周囲が眩い閃光に包まれる事はなく、代わりに奇妙な音が耳についた。
もう一人のカラカルは腕を下ろし、目の前で起きている異変に息を呑む。
セルリウムは結晶体の内部全体に広がり、絵はおろか敷き詰められた四角い塊をまでも包み込み、何かの形を取る事もなく膨張を続けている。
だが、何より異常なのは結晶体の方だ。黒く変色した穴の縁から触手のようなものが何本も伸びて、穴の内部に広がるセルリウムと繋がって太くなっていく。
まずい、とカラカルが直感した瞬間、結晶体から飛び出した触手が腕と体に絡みついた。
「ぐっ!」
何かおかしいとは思った。おそらくサーバルとミライの再現は失敗。セルリウムを与えられた結晶体が復活しようとしているのだ。
自分がしでかした事を悔やむが、それにかまけている場合ではない。
目の前ではまるで壁が広がっていくように結晶体の穴が覆われて、あと僅かで完全に塞がってしまう。
せめて絵を取り出そうと、カラカルは野生解放をして手を伸ばそうとする。しかし絡みついた触手のせいで動くのもままならない。
「この……!」
カラカルの目の光が更に強まった刹那、結晶体と一体化したセルリウムから腕のようなものが生えた。そして、カラカルを抱き寄せるように彼女の背中へ伸びていく。
セルリアンになりつつある結晶体は、カラカルを引きずり込もうとしていた。
野生解放をしたままのカラカルは何とか踏みとどまっていたものの、僅かな時間稼ぎにしかならず。
どぷん、と重い音が聞こえたのを最後に、カラカルの意識は暗転した。
道の先に木々以外のものが目に映り、運前席に座るかばんが振り返る。
「見えて来たよ」
後部座席に座るキュルルたちにも、正面にある建物が見え始めていた。
バスが進む先にあるのは、草木に囲まれてひっそりと建つ建物だ。
建物の手前にあるフェンスの傍でバスが停まる。カラカルと一緒にバスから降りたキュルルは、懐かしさを感じて建物を見上げる。
建物はかばんの家よりも大きく高いが、比べ物にならないほどボロボロだった。あちこちが壊れた屋根や壁には葉が茂り、窓は割れていない部分を探す方が難しい。
ここに来たのはサーバルとカラカルと初めて会った時以来だ。そんなに昔の事じゃないはずなのに、なんだかとても久しぶりな気がする。
ここから冒険が始まって、もう一人のカラカルを追ってまたここに来たのは、なんだか不思議な気分だ。
「サーバル、カラカル、どう?」
かばんの声が聞こえて、キュルルは我に返る。ぼんやりしている間にサーバルとカラカルが周辺の匂いを確かめていた。
「あいつの匂いがする。……多分そんなに時間は経ってないわ」
自分と同じ匂いを感じ取ったカラカルが答えて、サーバルが建物を示す。
「やっぱりあそこかな?」
もう一人のカラカルの姿は見当たらないが、匂いは残っている。彼女がここに来たのは確かだ。
「カラカルさん、いるかな……」
不安と期待が入り混じった声で呟いたキュルルを安心させるように、かばんはキュルルの肩に手を乗せる。
「みんな、行こう」
かばんの言葉に頷いて、キュルルたちは建物へと足を進めた。
軋む音と共にドアが開いて、隙間からサーバルとカラカルが顔を出す。
建物の中は前に来た時と変わらず薄暗く、よく分からないが壊れているものでごちゃごちゃしていて、床には破片が散らばっていた。
サーバルとカラカルを先頭に、四人は建物内を進んでいく。もう一人のカラカルがいるのかいないのかも分からない緊張から、誰も口を開かない。
姿勢を低くし、周囲に目を配りつつ歩いていたサーバルは、鼻に届いた匂いに足を止めた。
「気を付けて、セルリアンの匂いがする」
カラカルも立ち止まり、警戒の面持ちで耳を動かしている。
「奥の方にいるみたい……あいつの匂いも、そっちの方からしてる」
「この奥って……」
サーバルとカラカルの言葉を聞いたキュルルが言いよどむ。物陰に隠れて見えないが、この先に何があるかは知っている。
「何かあるの?」
声を潜めたかばんの問いにキュルルが答える。
「ぼくが目を覚ました場所です。奥にある丸い変な物の中で、ずっと眠ってみたいみたいなんです」
「前に話してくれたところだね」
納得しながらも、かばんの脳裏には疑問が浮かんでいた。
キュルルがこの建物で目覚めたというのは、以前キュルルたちから聞いている。何があるのはまだ分からないが、それが奥にある事は別段おかしくはない。
妙なのは、何故そこにもう一人のカラカルがいるのかという事と、彼女とセルリアンがいるのに静かすぎる事だ。戦っている音などが聞こえてもおかしくないのに、耳を澄ましても物音一つ聞こえない。単に離れているからだろうか。
再び歩き出した四人は、天井の穴から光が差し込んでいる場所に到着する。そこはキュルルが眠っていた卵のような物体があった場所のはずだった。
「何よ、あれ……」
光に照らされる巨大な姿に、立ち止まったカラカルが呆然と呟く。サーバルも驚いたように口を開けて、キュルルとかばんは言葉を失っていた。
そこにいたのは、昨日現れた大型セルリアンを更に上回る、異様な姿のセルリアン。黒い歪な丸い体の左右からは先端が指のように枝分かれした腕のようなものが生え、その腕の上部では長い触手がうねっている。
頭に当たる部分にはサーバルの耳やカラカルの耳、かばんとキュルルの帽子の羽飾りに似た形の突起がまるで角のように伸びていた。
「セルリアンの中に誰かいるよ!?」
サーバルの言葉でキュルルたちも気付く。まるで水の中に浮かんでいるように、一人のフレンズがセルリアンの中に閉じ込められている事に。
「カラカルさん!?」
困惑と驚愕が入り混じったキュルルの叫びが、建物の中に響き渡った。
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