第7話 The Intruder
空を飛ぶドローン、街灯やATMの他自動販売機にも取り付けられている監視カメラ、各施設で運用されるドロイド、自動車のセンサー、そして人間のアイ・インプラント……高天原には無数のレンズが存在している。
それらから逃れ、身を隠す事は容易ではない。
であるにも関わらず、この街の治安は決して良いとは言えなかった。
技術というものは常に進歩し続け、誰かを出し抜いた次の日には他の誰かに足元を掬われる、そんないたちごっこがそこら中で繰り広げられている。
要するに、優れた監視システムも使い方次第では、犯罪者にとっての強力な武器へと姿を変えるのだ。
(ズゾゾゾ……)
隼斗はストローを咥え、控えめにコーヒーを啜った。
彼が見つめるスクリーンの中では、イルカのマスクを被った主人公に無法者達がぶちのめされている。
隼斗は映画を見る傍ら、客や店のネットワークに侵入し、多くのシステムを中継して街中の監視映像にも目を向けていた。
そんな中、突如として通話が繋がる。
『緊急だ。直ぐにそこを出ろ』
これを受けて隼斗はゆっくりと席を立ち、映画館を後にする。
そして、人の流れに沿って街を歩きながら、送られて来たデータを視界に映した。
『つい2分前、我々のサーバーに不正アクセスを検知した。アクセスポイントはそこから近いはずだ』
隼斗は周囲200mの監視映像とアクセスログを表示、中継器を数回経由しているようだが、その程度を見破るのは造作もない事だった。
「特定した。ここから70m先の飲食店、外見は160cm前後の女」
『やるべき事はわかるな』
「当然だ」
隼斗は歩調を僅かに早める。
視線の先には、丁度店から出ていく女の姿が見えた。
「行き先は……モノレール駅」
『人目に付く場所は避けろ』
隼斗は一定の距離を置いたまま、女の後を追っていく。
すると、女は駅の前で自動運転タクシーを拾った。
タクシーはその後すぐさま発車、次第に遠ざかって行く。
「めいりん地区方面……むしろ好都合だな」
隼斗はぼそり、と呟いた。
そんな彼の元に無人のバイクが近づいてくる。
それに素早く跨ると、隼斗は豆粒ほどになったタクシーを追い始めた。
その後、しばらくバイクを走らせた彼は、女がタクシーを降りたのを見てバイクを止める。
この先は人通りが少なく、また局地的にカメラが無い場所が点在していた。
そのため、カメラだけを使っていては巻かれる可能性がある。
しかし、当然ながら距離を詰めるのも危険だ。
どうやら、相手はかなり用意周到らしい。
「それなら、コレを使う」
隼斗は上着のポケットから楕円状の物体を取り出した。
それは彼の掌の上で足を広げると地面に跳び下りる。
そしてカサカサと素早い動きで女を追い始めた。
この多脚ドローンは遠隔操作タイプではなく、事前にプログラムされた命令に則って動く。
その為、通信を傍受され敵に感づかれる心配は少なかった。
ドローンは虫に紛れて女を追跡し、遂に行き先を突き止める。
「雑居ビルか」
『如何にも、と言った所だ』
隼斗は周囲の監視システムに警戒しながらビルに近づく。
そして裏手に回って配電盤を開け、現れたバーコードを目で読み取り、メンテナンス用の機能をハッキングしてビルのシステムに侵入した。
「目標は6階、人数は4、表向きは人材派遣企業のオフィスという事になっている」
『他のフロアに人影は?』
「無い。あるのは机と椅子だけ……十中八九、ペーパーカンパニーだ」
隼斗はビルの各部屋のカメラを確認した。
いずれもオフィスとして看板を掲げてはいるが、室内は殺風景だ。
つまり、このビル全体が敵のアジトという事になる。
「どうすればいい?」
『これ以上、データの拡散を許す訳にはいかない。ここで仕留めろ』
「了解」
隼斗は上着の襟元に手を持っていく。
そして、チャックに備えられたセンサーを指で擦った。
すると瞬く間に上着の色と模様が変わっていき、ネイビーブルーのジャケットはブラックのテックウエアに姿を変えた。
『今から90秒間、その付近の回線に負荷を掛けて外部との通信を遮断する。その間に終わらせろ』
「勿論」
隼斗はマスクで口元を覆い、フードを被る。
準備は整った。
『始めろ』
黄金色の眼光が、尾を引いて飛翔した。
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