第12話 前夜祭 儀式
学校の寝室に戻るとおばさんが全員分の浴衣を準備してくれていた。それを着て玄関に戻る。サクラは白の生地に桜の花びらの模様の浴衣を、チヒロとマイはそれぞれ黄色と黄緑色の浴衣を着ていた。男子はお揃いで藍色の生地に縦線の模様が入っている。
「みんな似合ってるね。」
サクラが嬉しそうに言った。
「よし、広場に戻るか。」
タケルがお面を頭につけて玄関から駆け出していった。僕らもお面をつけてタケルのあとを追った。
広場に戻ると多くの人が浴衣姿で集まっていた。みな、お面をつけている。ユウジは広場に続く階段を登りながらお面をつけた。お面に開いた穴から他の4人もお面をつけているのが見えた。
「これじゃ、誰が誰だかわからないですね。離れないようにしないと。」
ヒロシが心配そうに言った。広場には先ほど準備した露天が立ち並び、多くの人が行き交っている。階段を上りきり、出店を見てまわりながら神社の方に歩いていくと太鼓の音が響いた。その音に続いて神主さんが姿を見せた。
「みなさん、準備お疲れ様でした。今年も無事に始めることができました。まもなく儀式を執り行いますので神社前の階段にお集まりください。」
ぞろぞろと人が神社の階段下に集まる。ユウジは人混みに流されて他のみんなと離れてしまった。仕方なく流れに身を任せて階段下に行くと、すぐに儀式が始まった。神主さんを先頭に数人の男が鈴のようなものを鳴らしながら階段を登っていく。神主を除くその3人は真っ白な衣装を着ていた。神主と男3人の中央には中学生くらいの女の子が一緒に階段を登っていた。全員が階段を上り切ると神主がこちらを振り返り祝詞を言った後、周りの当人たちが膝をつき深くお辞儀をする。ユウジは周りから少し遅れて続いた。その時同じように遅れたタケルたちの姿が見えた。しばらくすると鈴の音がとまり、太鼓の音が鳴った。顔を上げると階段の上では神主と男たちが立っていた。神主が口を開く。
「儀式は終わりました。きっとトコヨ様も島でとれた供物を美味しく召し上がってくださることでしょう。」
拍手が起こる。すると男たちのうち1人がこう続けた。その声には聞き覚えがあった。
「さぁさぁ、これからは歌え踊れ。出店も出揃っています。お祭りを盛り上げていきましょう。」
その声はおじさんの声だった。再び広場中央に置かれた矢倉の太鼓がなる。いつの間にか矢倉の上には縦笛など楽器を持った人が居て、演奏を始めていた。
その音に合わせて盆踊りが始まると、タケルと合流することができた。
「タケル!ごめんごめん。はぐれちゃった。」
「ユウジか、お面つけてるからわからなかった。」
どうやらはぐれてしまったことに気がつかなかったようだ。タケルの近くには黄色と桜模様の浴衣を着た2人が腕を組んで立っていた。チヒロとサクラのようだ。
「ヒロシとマイちゃんはどこにいったんだ?」
ユウジが尋ねるとタケルは首を横に振った。
「はぁ、やっぱはぐれちまったか。」
「確か、ヒロシくんは2人と同じ浴衣で、マイちゃんは黄緑色の浴衣だったよね。」
桜模様の浴衣を着た少女が心配そうに言った。それに横の少女も頷く。
「2人の携帯にかけてみないか?」
タケルがヒロシに電話をかけるとすぐに返事があった。
「もしもし、ヒロシ、どこにいるんだ?おう、わかった。そこで待ってな。」
タケルの話によると、広場入り口近くのたこ焼き屋でまっているようだった。チヒロはマイに電話をかけるが繋がらないようだった。ユウジたちはひとまず、ヒロシと合流するために広場の入り口に向けて歩き始めた。コツンとユウジの足に何かが当たった。足元を見るとお面が落ちていた。4人の目線がお面に向かう。
「このお面、まさか。」
タケルがお面を拾い上げた。裏を向けるとそこには文字が書いてあった。チヒロが「ひっ」と声を上げる。そこにはマイの名前が書いてあった。
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