第11話 前夜祭 準備
海の家近くの宿を出発し、学校の宿に戻った。倉庫からおばさんとおじさんが大きな段ボールを運び出している。
「ただいま!」
そう声をかけると、汗を拭いながらおじさんが手招きをした。
「おかえり!荷物を置いたらこれを運び出すのを手伝ってくれないか。」
「たくさんあるからね。どんどん運んじゃって。」
おばさんも大きな段ボールを抱えていた。
部屋に荷物を置いて、そのまま倉庫に戻った。そこには提灯やら、看板やらお祭りに使うものがたくさん置いてあった。みんなでそれを運び出す。そうしていると、漁船に乗せてくれたシゲさんが軽トラに乗ってやってきた。
「やぁやぁ。みんな、おはよう。手伝ってくれているんだね。」
シゲさんはニコニコしながら言った。倉庫から運び出した段ボールを荷台に乗せると、おじさんとシゲさんは広場に向かった。
「私たちは先に行ってるから、みんなはお昼を食べたら広場に来てちょうだい。お昼は作ってあるからね。」おばさんはそう言うと車に乗っておじさんたちの後を追っていった。お昼ご飯まではまだ時間があった。倉庫の中を覗くと、ヒロシがあっと声を出した。
「あちゃーこれ積み忘れてますよ。」
そこにはガムテープで封がされた段ボールが一つ残っていた。
「おい、これ結構重たいぞ。」
タケルが持ち上げようとするがなかなか持ち上がらない。ユウジとタケシの2人がかりでやっと持ち上がった。
「これ、どうしようか。広場に持っていく?」
ユウジがそう言うとタケルが首を横に振った。
「こんな重たいもの持ってあんな場所まで持って行けれないわ。」
「でも、大事そうなものですよね。随分と厳重に封がされてますし。」
ヒロシがそう言うと、チアキがユウジに言った。
「ユウジさん、おじさんかおばさんの連絡先知らないんですか?」
「おばさんは運転中だろうし、おじさんに電話してみるよ。」
携帯電話からおじさんに電話するとすぐに留守番電話になってしまった。
サクラが段ボールにかかった埃を払いながら言った。
「下手に運んで壊しちゃったらあれだし、広場に行った時に伝えようよ。」
みんなが頷き、とりあえず段ボールは置いたまま、部屋に戻ることにした。
部屋に戻るとヒロシが寂しそうに呟いた。
「お祭りかぁ。楽しみですけど、このサマースクールをもうすぐおしまいですね。」
タケルがヒロシの肩に手を回した。
「何言ってんだよ。残り4日、思いっきり楽しめばいいじゃんかよ。」
タケルは相変わらず明るい。やんちゃなところはあるが、みんなと仲良くできるか不安だったが、タケルの明るさがみんなと仲良くなるきっかけになったのは事実だった。ヒロシはタケルにぐちゃぐちゃにされた髪を整えながら言った。
「もう、やめてくださいよ。そんなこと言って、タケルさんも寂しいんじゃないですか?」
ヒロシもサクラもチヒロもマイも最初こそ、仲良くなれるか不安だった。最初の頃に抱いていた都会の中高生に対するイメージももはや消えていた。このサマースクールがずっと、少なくとも夏休みの間はずっと続けばいいのにと思っていた。そんなことを思っているとドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けると、サクラが立っていた。
「そろそろお昼にしない?もうチアキちゃんとマイちゃんは食堂に行って準備してるよ。」
「よし、ユウジ、ヒロシ行くぞ。」
タケルヒロシを捕まえたまま、部屋から出ていった。
食堂でお昼を済ませたと、広場に向かった。広場では島の大人たちがせかせかと準備を始めていた。広場の中央におじさんがいて、こちらに手を振っていた。
「おーい、こっちに来てくれ。」
広場の中央に向かうとたくさんの提灯が並べられていた。島の子供たちが他にもいた。提灯には祭りの文字が書かれている。
「この提灯を広場にぐるっとつけて回って欲しいんんだ。」
広場を見渡すと提灯を吊り下げるための紐が広場の端から中央に向かってはりめぐされていた。
「高いところは大人がするから低いところを頼むな。」
おじさんはそう言うと、神社の方に向かって歩いて行った。
提灯は小さいものから大きなものまであった。かなりの数があったがすぐに終わった。その間、大人たちはやぐらを組んでおり、立派なものが組み上がっていた。木陰で休んでいると、神主さんが声をかけてきた。
「お疲れ様。さぁ。これでも飲んで。」
お礼を言って受け取るとよく冷えた水だった。
「神社の裏に湧き出てる水だよ。冷たくて暑い日にはもってこいだ。」
神主さんのいう通り、冷たくてとてもおいしかった。タケルがふーと息を吐いた。
「にしてもあっついな。」
「まぁ、夕方になればもう少し涼しくなるよ。前夜祭が始まる頃にはね。」
神主さんはそういうとではまたと神社の方に戻って行った。その後もテントを立てたり、看板を打ちつけたりと祭りの準備は順調に進んでいった。日も傾き始めた頃、おばさんが声をかけてきた。
「さぁ、みんな。一度、学校の方に戻ろうか。みんなの分の浴衣を準備してあるよ。あと、お面も忘れずにね。」
おばさんの運転する車に乗り込み、学校に戻る。昼からみんなで吊り下げた提灯には灯が灯され淡く光っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます