第9話 海水浴

それぞれの部屋に戻り、海に行く準備をする。サマースクールに参加すると決めた日に買ってきた水着。緑色、黄色、黄緑色のペンキが白いキャンバスにかけられたようなデザインをしている。タケルとヒロシもそれぞれ水着を買ってきたようだった。ケンジは真っ赤な水着を、ヒロシは水色と青色の水着を持ってきていた。

「海行くの久しぶりだなぁ。僕、小学校の頃に行ったきりなんですよね。」

ヒロシが嬉しそうに言った。

「ヒロシ、浮輪いらないのか?溺れても知らないぞ。」

「何てこと言うんですか!タケルさん!!」

ケンジとヒロシは相変わらずだ。

「ヒロシくん、大丈夫だよ。さっきおじさんが何かあったら船で助けに行くって言ってたから。」

「もう!ユウジさんまで!」

準備が終わり、食堂に向かう階段を降りていくと、女子組がおばさんと話していた。おばさんがビーチボールや浮き輪といったものを用意してくれていた。海の家にも連絡をしてくれており、他にも色々準備してくれているそうだ。今日は海水浴場近くの宿に泊まることになった。

「せっかくだから夕飯はバーベキューでもしてきなさい。食材はまた持っていくからね。」

おばさんはそういうと台所に消えていった。

「ね!早く行こうよ。」

サクラが真っ先に玄関に駆け出していく。ここにきて一番元気そうだ。あのノートの一件以来、ユミは暗い顔をしていた。サクラに続いてチヒロとマイも駆け出していく。その後に続き、僕らも玄関に向かった。


海水浴場に着くとちらほら家族連れがいたが、テレビで見るような人で溢れかえった海水浴場とは違い、ゆったりと過ごせそうだった。海の家に向かうと更衣室に案内された。水着に着替えて海の家の食堂で待っているとサクラたちが更衣室から出てきた。

「お!男子たち、私たちに見惚れたらダメだぞ!」

マイが元気よく出てきた。ユウジたちが意に介せずと懸命に浮き輪やビーチボールをふくらましているとマイは近くに置いてあった小さなボールを僕らに向かって投げつけてきた。そのうち一つがタケルに命中した。

「いてて、何すんだよ。マイちゃん。」

「全く、美少女三人がいるのに。ねぇ、チヒロ、サクラさん!」

チヒロとサクラは生返事をしてまだ膨らませていない浮き輪を手に取って膨らませ始めた。持ってきたものの他に海の家の人が準備してくれたビニールボートを持って海の方へ向かう。勢いよく海に飛び込むと冷たくて気持ちが良かった。海の中をよく見ると浅いところにも小さな魚が泳いでいる。透き通った海水はキラキラとと太陽の光を反射していた。

「こんな綺麗な海で泳いだことないよ!」

「人も少ないし、最高ですね。」

サクラとチヒロがそう言っているうちにマイの姿が見えなくなった。みんなでマイの名前を呼ぶが返事がない。溺れでもしたのかと嫌な予感がした時、ヒロシがものすごい声で叫んだ。

「足が足が、何かに掴まれて!」

するとヒロシの後ろからマイの声がした。

「ははは、ヒロシくんは相変わらずびびりだね。」

どうやらマイがヒロシの足を掴んでいたようだった。

「そんな小学生みたいなことをして楽しいですか!?」

ひひひと笑いながら泳いでいたマイが急に海の中に引き摺り込まれた。すぐにサクラとマイが海に上がってくる。

「はは、どう?マイちゃん、びっくりした?」

「何するんですか!サクラさん、溺れちゃうでしょ??」

サマースクールが始まって一番の笑顔かもしれない。こんな時間がずっと続けばいいのにとユウジは思った。


海から上がると日が暮れるまでビーチボールで遊んだり、砂のお城を作ったり、砂浜でたくさん遊んだ。夕日が水平線に沈み始めた頃、おばさんと海の家の人が食材を持ってきてくれた。バーベキューの時間だ。島で採れた食材がたくさん並んでいる。おじさんや他の漁師さんたちも魚を持ってきてくれて、大勢で楽しい時間を過ごした。酔い潰れたおじさんたちをよそに片付けが終わった頃、僕らは宿に案内された。そこは海の近くの一軒家を改修した宿で、外見のわりに中は綺麗だった。

「寝床は用意してあるからね。お風呂は一つしかないから順番に入ってね。」

おばさんはそう言うと、学校に戻って行った。家の中に入り電気をつけると広いリビングがあり、ソファや大きなテレビが置かれている。まるでつい最近まで人が住んでいたような雰囲気がある。

「トイレどこかな?」

ケンジがそう言うと、サクラがあっちと指をさした。

「サクラちゃん、どうしてわかったの?」

ユウジがサクラに尋ねる。

「あぁ、えっとね。トイレに行きたくなって、おばさんに教えてもらってたの。」

トイレからケンジが戻ってくる。

「すごいな、この家。かなり広いぞ。」

1階はリビングの他にキッチン、ダイニングがそれぞれあり、元は寝室であろうか2部屋あった。2階に上がると3つ部屋があり、それぞれベットが置かれていた。家の中を一通り見て回った後、寝る準備をしてからまたリビングに集まることにした。

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