第8話 島の歴史

食堂に戻ると神主さんとおばさんが話をしていた。おばさんが僕らに気がつき、こっちにおいでと手招きをする。

「お帰りなさい。早かったね。」

「十分調べることができたので。」

僕は誤魔化した。あんなこと言えるわけがない。

「こっちの話は終わったから、神主さんに色々教えてもらいなさい。」

この前あった神主さんはお茶を一口のむとこちらを見てニコッと笑った。

「久しぶりだね。お祭りのことについて調べているんだって?熱心だね。」

「ありがとうございます。お祭りの歴史とか、祀られている神様のこととか、その・・・」

そこまでヒロシが言いかけると、ケンジが肘で突いた。

「ん?どうしたんだい?遠慮しないんでいいんだよ。」

「あ、いや。何でもなくて。昔のお祭りは今とは違うって本に書いてあったんですが、詳しくは書いてなかったんです。」

神主さんは少し困った顔をして言った。

「うーん、参ったな。昔の祭りのやり方は口伝えだけで引き継がれていて、その・・教えられないんだ。」

どういうことだ、あの日記には詳しく書かれていたはずだ。

「そのかわりと言ったら何だが、神社に保管されている資料を見せてあげよう。」

「ありがとうございます。助かります。」

「しばらくは祭りの準備があるからまた祭りが終わったらおいで。」

その後、神主さんからこの島の伝説を聞いた。

祀られている神様はトコヨ様と言ってこの島で暮らす人々と自然を守っているという。かつてこの島を大きな災害が襲った。それからしばらくこの島は災いが生まれる島と言われ、人が住めるような島ではなくなってしまった。ある日、この島に多くの人が流れ着いた。彼らの乗った船が波にさらわれてしまい、沈没したようだった。生き残ったのは2人の兄妹だけだった。2人は記憶をなくしていたが、島民に大切に育てられ、兄はトキ、妹はトヨと名付けられた。その頃、島では災いを納める手段を模索していた。当時の島の人々は島の神の怒りに触れてしまったのだと考えた。農産物、家畜を備え、祈祷を行ったが効果はなく、島長は今では考えられない恐ろしいことを考えた。それは生贄を捧げることだった。このことは島民には隠され、一部の者のみで行われることになったのだ。その生贄に選ばれたのはトヨだった。トキとトヨの成人の議の日、彼女は生贄に捧げられた。これに怒ったトキは関わった島民を手にかけ、トヨを祀った祠を作ったそうだ。これ以降、島が災害に襲われることは無くなった。これが今の神社の成り立ちということだった。

神主さんは一通り話をすると、祭りの準備のために帰って言った。

「さっきの話だけど、神主さんに日記のこと言わなくて良かったんですかね?」

チヒロがそういうとマイが続けて行った。

「何言ってるのよ、チヒロ。あんなこと信じてもらえるわけないじゃない。」

みんな不安そうな顔をしている。いつも明るく振る舞うケンジですら下を向いている。そんな雰囲気を変えようとサクラが明るくいった。

「ね!色々あったけどさ。せっかくの夏休みだよ?宿題もいいけど、外でもっと遊ぼうよ!!」

「そうだな!んじゃ海行くか海!まだ昼過ぎだろ?一泳ぎしてこようぜ。な、ヒロシ!」

ケンジがヒロシの肩をバンと叩いた。イタタと背中を擦りながもヒロシも笑顔だ。チヒロとマイ、そして僕もそれをみて笑顔になった。気になることはたくさんある。祭りのこと、ノートのこと、みんなも同じだろう。ただ残された数日、思いっきり楽しむことだけを考えたいと思っていた。

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