第6話 1995年8月3日
「ユウジ、お祭り楽しみだな。」
「ねぇ、お父さん、お母さん、早く行こうよ。」
「ふふ、ユウジはずっと楽しみにしてたんだもんね。」
ああ、そうだ。あの日、僕は親と三人で祭りに行ったんだ。浴衣を着て、お面をつけて。広場にはたくさんの人がいた。みんなお面をつけていて、誰だかはわからない。手を繋いでいてくれるお父さんもお母さんも本当にそうなのかわからない。でもこの手の感触は確かに2人なのだろう。屋台で焼きそばや綿菓子を買ってもらってそれを頬張る。しばらくすると太鼓の音が聞こえてきた。盆踊りの合図だ。大太鼓の周りに人が集まり、自然に輪ができる。ぐるぐるぐるぐる、大人も子供も踊る。ふと横に目をやると1人の女の子が木の影からこちらを眺めていた。
踊りの列にも加わらず、ずっとこちらを眺めている。僕は何となく気になり、列を抜けて彼女に近づき、声をかけた。
「ねぇ、君は誰?なんで踊らないの?」
少女は何も答えない。
僕は彼女のお面に手を伸ばした。
気がつくと僕は1人で家に帰る道を歩いていた。家に着くと、僕を迎えてくれた。
「おかえり!お風呂できてるよ。入ってきな。」
「ただいま!」
「あら?お父さんとお母さんは?」
「うーん、何か、先に帰ってなさいだって。」
盆踊りの後、大人たちはバタバタしていた。誰かの名前を呼びながらいろんな場所を探していた。
「おい、ちょっと。」
おじさんが緊張した顔でおばさんを呼んだ。脱衣所で着替えていると、2人の会話が聞こえてくる。
「・・・のところの娘さん、・・・・そうだ。俺、・・・・よ。」
「わかったわ。ユウジのことは私が見てるから。」
おじさんは出て行ったようだ。
湯船に浸かりながら祭りであったことを考えていた。あの子は誰だったんだろう。同い年くらいの女の子。この島の子ではなかった?でもおじさんは知っていた。しばらくすると、お父さんとお母さんの声が聞こえた。
「ユウジは?」
「今、お風呂に入ってるわ。あの子には話してないのね。」
「怖がったらいけないからね。」
怖がる?なんの話だろう。おじさんが出て行ったことと関係あるのかな?色々考えているとのぼせそうだった。お風呂出て自分の部屋に入り、ベットの中に入った。机の上には2個のお面が置かれている。あのお面、返しに行かなきゃな。明日にでも広場に行ったら会えるかな?外からはずっとパトカーの音が聞こえていた。次第に眠くなり、目を閉じる。暗闇の中、女の子が泣いていた。
「ここはどこ?ねぇ、お面を返して。」
僕は近づこうとするがその子はどんどん離れていく、返して、返してと泣き声だけが響く。
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