第5話 自由研究のテーマ
朝ごはんを済ませると、何をするか話し合った。するとヒロシが明日開かれる祭りについて調べようと言い出した。
「どうしたんだよ、あんなに怖がっていたのに。」
「夏休みの自由研究ですよ。島に伝わる祭りの歴史っていうテーマで書いてみるのも面白いかなって思って。」
「いいねそれ!私たちもそれにしようかな。」
マイとチヒロがそう言うと、他の2人もいいねと頷く。
「ユウジ、この島に図書館とかないのか?」
「
準備ができたら食堂に集まる約束をしてそれぞれの部屋に戻った。
「ユウジさん、この島ってどれくらい学校があったんですか?」
「小学校が2つ、中学校が1つだよ。今は統合して小学校は1つだけだけどね。」
今は宿泊施設になっているこの小学校も昔はたくさんの児童がいたらしいが、僕が小学校に入ってすぐの頃に統合し、廃校になった。小さい小学校と中学校だが、島の図書館も兼ねている図書室はかなり充実している。準備をして食堂に向かったが、女子組はまだ来ていないようだった。おじさんとおばさんは祭りに出す出店の準備をしていた。おじさんがこちらに気がつき声をかけてきた。
「今日はどこに行くんだい?」
「ヒロシくんたちの自由研究のために小学校と中学校の図書館に行ってきます。」
ヒロシが続けた。
「せっかくだから祭りについて色々調べようと思って。」
「そうか、だったらお昼くらいに帰ってきなさい。ちょうど神主さんと打ち合わせするんだ。お祭りのことなら神主さんに聞いたらいいよ。」
祭りがある広場に行った時に出会った神主さんのことだろうか。そんなことを考えていると女子組が食堂に入ってきた。
「お待たせ。何話してたの?」
「お昼くらいに神主さんがくるってさ。せっかくだから神主さんに祭りの話を聞こうってなったんだよ。」
「そうなんだ。で・・どっちから行く?小学校?中学校?」
ここから近いのは烏丸中学校だ。
「中学校から行こう。歩いて20分くらいで着けると思うよ。」
おじさんとおばさんに行ってきますと言って、中学校に向けて出発した。話は祭りの話から、昨日のお面の話になった。
「なぁ、ユウジ。祭りのこと、ほんとに覚えてないのか?」
「おばさんから話を聞いて思い出そうとしたんだけど、どうしても思い出せないんだよな。」
「まぁ、小学1年生の頃の話でしょ。私だって何も思えてないよ。」
ユイがそういうと、ケンジも確かにと頷いた。
中学生たちはそうなんだと不思議そうな顔をしている。
チヒロがそういえばと思い出したように言った。
「昨日の誰かわからないお面ですけど、模様から名前を推測できないですかね?」
「僕、みんなのお面を写真にとってますよ。」
ヒロシが携帯をみんなにみせる。
「一文字で一つの模様なのかな?字を崩して書いているようにも見えるけど。」
「図書館で調べたらそのことについても何かわかるかも、うわぁ」
ケンジが何かにつまずいて茂みに転んでいった。
「ケンジ、大丈夫か?」
みんなが茂みの中を覗く。
「いててて・・何だよ。」
ケンジがつまずいたところを見ると拳大の石に文字が掘られていた。その近くには木でできた何かがあり、そこから転がり落ちてしまったようだった。
「何か書いてありますね。人の名前かな?」
チヒロが拾い上げて名前を読み上げた。
「西条美由?サイジョウミユかな?」
マイが起き上がったケンジに対して意地悪そうに言った。
「ケンジさん、呪われましたね。ほら謝らないと。」
「な、なんだよ。怖いこというなよ。」
「何だろね?お墓かな?でも、こんな道端につくらないよね。」
ユイは首を傾げている。
お墓というよりは何かを祀っている祠のようにも見える。僕らはその石をその祠のようなものに置き、手を合わせた。
しばらく歩くと中学校が見えてきた。グラウンドでは部活中なのか生徒の声が聞こえる。体育館の方からも声が聞こえる。
「部活やってるんですね。結構賑やかじゃないですか。」
ヒロシは不思議そうに言った。
「人数が少ないから全校生徒が部活に参加してるんだよ。数ヶ月ごとに部活が変わるんだ。」人数が少ないため、小学生も中学生も、時には大人も一緒に部活をしている。グランドの端を通って正面玄関から校舎内に入り、職員室に向かった。職員室のドアをノックして中に入ると年配の先生が声をかけてきた。
「こんにちは。お、君は民宿のところのユウジくんかい?」
白髪のその先生の顔には覚えがあった。保育所の竹山先生だった。
「竹山先生・・ですか?」
「いやー随分と久しぶりだね。覚えてくれて嬉しいよ。今日はどうしたんだい?」
「図書館を借りたくて。今使ってもいいですか?」
「いいよいいよ。使いなさい。そちらはサマースクールの学生さんかい?」
それぞれ挨拶を済ませると、竹山先生が図書室に案内してくれた。
「何を調べたいんだい?」
ヒロシが答えた。
「明日からある祭りの歴史とかを調べたいんですが、何かいいものがありますか?」
「そうだな、地域の棚を調べたらいいと思うよ。あとは過去の新聞とかじゃないかな。好きに使いなさい。帰るときは声をかけてね。」
竹山先生はそういうと鍵を机の上に置いて図書室を出て行った。地域のことに関する資料や本を調べる男子組と過去の新聞を調べる女子組に分かれた。古びた本が並ぶ棚を探していると、とりわけぼろぼろになった本を見つけた。その本には祭りとお面についてという題名が書かれていた。
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