第4話 昔の話

夕飯には僕らが釣った魚が並んだ。刺身に焼き魚、煮魚と様々な料理が出てきた。僕らも手伝ったが慣れてないせいか、おばさんが捌いた魚に比べたら見た目はよろしくなかった。

「お、おい・・誰だよこの焼き魚焼いたの。生焼けじゃないか・・・。」

タケルが箸で焼き魚をつまみながら言った。確かにその魚は生焼けであった。ヒロシがサクラの方を見て言った。

「焼き魚の担当はサクラさんでしたよね。」

サクラは気まずそうにしている。

「へへへ、新鮮だから大丈夫だよ。」

「そう言う問題じゃなくて、だな。」

タケルはそう言いながら箸をすすめた。食卓は笑いに包まれ楽しい時間を過ごした。夕飯を食べ終わるとおばさんがコーヒーを用意してくれた。漁のこと、魚釣りのこと、広場でのこと、今日一日あったことを話していると話題はお祭りの話になった。特にヒロシとタケルはお祭りが楽しみで仕方ないようだった。

「お祭りかぁ、もう待ちきれないですよ。」

「ヒロシは子どもだなぁ。」

「そう言うタケルさんだって、ずっと祭りの話をしているじゃないですか。」

「なぁ、ユウジ。祭りに参加したことあるんだろ。どんな感じなんだ?」

「それがさ。あまり覚えてないんだよ。最後に参加したの小学1年生のころだし。そうだ、おばさん。僕のお面ってまだある?」

おばさんはそうねと言って立ち上がり倉庫の方に行った。しばらくすると手に2枚のお面を持って出てきた。1つは朝にもらったお面と同じ模様が、もう片方のお面には別の模様が描かれていた。おばさんはその2つのお面を僕に手渡した。

「おばさん、このお面は誰のなの?」

おばさんはコーヒーを一口飲むとこう続けた。

「それがね。わからないのよ。でもユウジが持って帰って来たのよ。」

おばさん曰く、僕が最後にお祭りに参加した日、帰って来ると持っていたとのことだった。

「お面どうしたのって聞くと拾ったって。捨てるわけにもいかないからとっておいたんだけどね。結局落とし主は見つからないままだったのよ。」

チヒロは不思議そうに尋ねた。

「でも模様を見たらわかるんじゃないんですか?この模様って名前を表しているんですよね。」

「それがね。誰もその名前を知らなかったのよ。結局、島の外の人じゃないかって話になったんだけどね。」

ヒロシがお面を手にとって言った。

「で、この模様はなんて名前なんですか?」

「※@+>?¥よ」

僕はその名前が聞き取れなかった。聞き返そうにも何かが邪魔をした。聞き返してはならない。聞き返したくない。そんな考えが頭を巡った。

「ユ・・・。ユウ・・ユウジ!」

タケルの呼ぶ声ではっとする。

「どうしたんだよ。ぼーっとしてさ。」

「いや、ごめんごめん。疲れちゃったのかな。」

「あーあ、確かに眠くなって来ちゃった。」

マイがあくびをするとそれにつられてみんなもあくびをした。

おばさんはコップを片付け始めた。

「みんな疲れたでしょ。今日はもう寝なさい。夜更かしはダメよ。」

おやすみと言って女子組と別れた。部屋に戻って寝る準備をするとすぐに眠気が襲ってきた。他の2人はもう寝てしまったようだ。目を閉じるとそこには1人の少女が立っていた。顔を隠して泣いていた。少女は何かを繰り返し繰り返し言っていた。

「・・・・・・して。お・・・・・して。」

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