第2話 お祭りのお面

おばさんの声で目が覚めた。

「おーい、お寝坊さんたち。朝だよ!」

眠い、タケルはまだ寝ぼけているようだ。タケルはボサボサになった寝癖のまま、着替えもせずにベットから降りて教室を出て行った。ヒロシが着替えながら言った。

「タケルさん、寝巻きのまま出ていきましたね。」

はははと2人で笑っていると、タケルが戻ってきた。

「おーい、なんで言ってくれなかったんだよぉ。みんなに笑われたじゃないか。」

「だって、声をかけるまもなく出て行ったんですもん。」

この小学校についた後、施設と島の案内があり、歓迎会があった。島民も参加し、夜遅くまで歌って踊って、寝る支度をした後もたくさん話した。要は夜更かしをしたのだ。

「おばさんがご飯できてるから、食堂に集まれだってさ。」

部屋を片付てから、教室をでて階段に向かっていると3階から女子が降りてきた。

どうやら女子3人も夜更かしをしていたようだ。1階の元給食室、今はそれが食堂になっている。階段を降り、食堂に近づくといい匂いがしてきた。誰かのお腹が鳴った。恥ずかしそうに下を向いたのはサクラだ。

「わ、私じゃないよ。」

マイとチヒロが声を揃えて言った。

「タケルさん、食いしん坊ですね。」

「タケルさん、昨日もずっと食べてたもんね。」

「なんで、俺なんだよ。ユウジもヒロシもなんとか言ってくれよ。」

ヒロシはケラケラ笑っていた。

「ユウジさん、フォローしてあげないと。」

「タケル、僕たちの分まで食べるなよ。」

「なんだよ、もう。」


食堂の扉を開けるとおばさんが台所に立っていた。

「さぁ、みんな、手伝って。」

炊き立てのご飯、味噌汁、魚の塩焼き、卵焼き、サラダとどれもこの島で採れたものばかりだ。それぞれ食卓に並べているとおじさんも入って来て、全員が席についた。

「いただきます!」

おばさんの作る料理はとても美味しい。

「よし、みんな朝飯が終わったら、港に来てくれ。今日は漁に連れて行ってやるぞ。みんなは漁船には乗ったことがあるかい?」

タケル、ヒロシ、そしてマイとチヒロの4人は初めてのようだった。サクラは以前住んでいた島で乗ったことがあると言った。

「親戚が漁師をしていて、何度か乗せてもらったことがあるんです。釣りもよくしていました。」

「そういえば、小学生くらいまで島で過ごしていたんだってな。どこの島なんだい?」

「えっと・・・」

サクラが言いかけたとき、宿泊施設のチャイムが鳴った。

「郵便でーす!」

はーいと返事をしておばさんが出て行った。しばらくして戻ってくると、おばさんは荷物を抱えていた。

「お、届いたか。ずいぶん早かったな。」

ヒロシが荷物を覗き込んで言った。

「お面?、何かお祭りでもあるんですか?」

「そうだよ、これはみんなのお面だ。3日後、この島のお祭りがある。その祭りにはそれぞれ模様の違うお面をつけるのが慣わしなんだ。」

この島には少し変わった祭りがある。祭りが行われる3日間、お面をつけて過ごすのだが、祭りが行われる広場ではお面を外してはならない。外すと神様に連れて行かれてしまうとか。そして、このお面は全て模様が違う。お面の左側はその家を、右側はその人を表す模様が描かれる。食事が終わってからおばさんがみんなにお面を配った。

「お祭りが始まるまで大切に持っておくのよ。」

「無くしたら、神様に連れて行かれちゃうぞ。」

おじさんが意地悪そうに言うと、ヒロシは声を震わせながらお面を抱えた。

「はは、冗談ですよね。」

おばさんがおじさんを睨みつけた。

「すまん、すまん、まぁあれだ。うん。はは。」

と言いながら食堂を出て行った。

「全く、あの人は。ごめんねぇ、ヒロシくん。さぁ、みんなも部屋にお面を置いて、出かける準備をしなさいな。」

食堂を出てそれぞれの部屋に戻った。お面を机の中にしまい、出かける準備をした。学校の正面玄関から出るとおじさんが車の中で待っていた。漁港に向かう車の中ではお祭りの話になった。

「今度ある祭りはな、おじさんが生まれるずっと前からある祭りなんだ。昔は色々な儀式をやっていたらしいが、今は屋台が出たり、花火が上がったり、どこにでもある祭りになっている。ただ、お面をつけないといけない。この風習は変わっていない。」

タケルが思いついたように言った。

「ユウジは小学校の1年生まで住んでいたんだろ。自分のお面はないのか?」

そうだ。さっきもらったお面は新しいお面だった。なぜだろう、島を出るときに処分してしまったのだろうか。それに祭りのことがあまり思い出せなかった。

「教えてくださいよ。本当にお面をつけなかったら連れて行かれちゃうんですか?」

「はは、ヒロシくんは怖がりだなぁ。」

「本当に連れて行かれちゃうかもね。」

マイとチヒロは笑っていた。

「でもあながち嘘じゃないかもな。何年前だったか。祭りの最中に行方が分からなくなって警察沙汰になったんだ。すぐに見つかったらしいんだが、島の年寄りは神隠しだとか言っているぞ。」

らしい、という言葉が引っかかった。それにそんな話は聞いたことがなかった。

「らしいって、見つかったんじゃないの?」

タケルも気になったようだ。

「それがな、見つけたのはその子の両親なんだ。祭りの後すぐに引っ越してしまってな。だから。」

おじさんの話を遮るようにサクラが言った。

「もう、ヒロシくんが怖がってるじゃないですか。ほら、おじさん早く漁港に行きたいよ。」

「え、僕もう怖がってなんか。」

車内が笑いに包まれた。

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