サマースクール
@eringuitar
第1話 故郷の島
「今年はどんな子供たちが来るかね。」
おばさんはニコニコ笑いながら、港の方を眺めている。
「ユウジも楽しみだね、同い年の子たちが来るんだから。」
「そうでもないよ、きっと都会の高校生なんて気取ったやつばっかりさ。」
閉校した小さな小学校を改修した宿、ここで1週間のサマースクールが開かれる。参加者のほとんどは都会の中学生や高校生で毎年数人を受け入れている。
高校生になって最初の夏休み、民宿を経営する叔母夫婦から連絡があった。今年もサマースクールを開くから参加しないかとのことだった。今まで何度か誘われたことはあったが、部活や友達と遊ぶのが楽しくて断っていた。高校に入学してからは部活も入らなかったので暇を持て余していたのだった。
「そんなことないぞ、少なくともここにくる子たちはね。」
真っ黒に日焼けしたおじさんが漁に出る準備をしながらそういった。
「昔はこの島にもたくさん子供たちがいたんだけどね、学校も無くなって、島の外の学校に通うようになってからすっかり減ってしまったよ。」
おばさんは少し寂しそうに言った。
「昔って言ったって...僕が小学生の頃の話でしょ?」
僕が小学生の頃、この島には子供がたくさんいた。自然に溢れた島、海や山や川、遊び場所はたくさんあった。それを目当てに移住してきた人もいたが、この島に高校は無く、中学を卒業したらみんなこの島を出て行った。
「おとうさん、私はそろそろ子供たちを迎えに行くよ。」
「おう、夕方には戻るからな。ほらほら、寝そっべってないでゆうじも行って来い。」
僕はへいへいと小さく返事をして、ゆっくりと起き上がった。
港に着くと大きな荷物を持った人が5人いた。荷物を車に詰め込み、小学校に向かうバスの中はすぐに賑やかになった。高校1年生のタケル、サクラ、中学2年生のヒロシ、中学3年生のマイとチヒロ。5人とも船の中ですでに話はしていたようで和気藹々としていた。会話になかなか入れずにいると、タケルが声をかけてきた。
「ユウジはこの島の出身なんだよな?」
「うん、小学1年生までこの島に住んでたんだ。」
「いいなぁ、ユウジさん。こんな自然がいっぱいなところの出身で。」
ヒロシがぽつりと言った。ヒロシは色白でほっそりとしている。
「ヒロシくんは都内の出身だったよね。いいじゃん、お店はたくさんあるし、どこでも遊びに行けるし。」
ナイナイと手を振ってヒロシは外を眺めた。
「サクラさんも島の出身なんですよね?」
「サクラさんの住んでたところもこんな感じですか?」
マイとチヒロが立て続けに話す。2人は見分けがつかないほどそっくりだ。
「んーここよりずっと小さかったよ。人ももっともっと少なかったし。」
「島出身の2人に島での遊び方を教えてもらわないとな。」
タケルは楽しみこのサマースクールが楽しみで仕方ないようだ。サクラはそれを聞いて小さく笑った。僕らの会話を楽しそうに聞いていたおばさんが口をひらいた。
「さぁ、もうすぐ宿の小学校が見えてくるよ。」
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