EP.2-2 初日の期待と疑問

地平線から顔を出した太陽が、街を燦燦さんさんと照らし始めていた。


今日は9月1日。昨日まで夏休みを謳歌おうかしていた児童学生達が最も憂鬱ゆううつになる日である。

1ヶ月以上もの長い休みを過ごした彼ら。たった1日で気持ちを切り替えて「さぁ学校に行こう」となる獣は一体どのくらいいるだろうか。

少なくとも、約1匹を除き、そういう者はほとんどいなかった。


「みんな! おはよう! 元気にしてたか!?」

その約1匹というのは、たった今教室に勢いよく入って来た、赤いたてがみを持つワニの子供だ。

「ダイナーおはよう。宿題終わった?」

教室の中にいた白いウサギの子供がワニに話しかけた。

「グワうっ、ま、まぁ良いじゃんかよ! それより久しぶりだなコッペ!」

ダイナーと呼ばれたワニは目をそらしてそう言うと、自分の机に飛び乗ってくつろぎ始めた。

「そう言えば久しぶりだね。なんだかんだで1ヶ月以上休んでたもんねぇ……」

コッペと呼ばれたウサギが微笑ほほえみながら言った。

「だよな〜! 俺がいない間に何か変わった事あったか?」

「特に何もないよ。……あっ、サッカーの試合見たよ。決勝戦まで行くなんて凄いじゃない」

「ああ、でも、決勝の奴らはかなり強かった。俺もあのくらいできるようにならねーとな!」

「良い事言うじゃない! その調子でがんばってね!」

「おうっ!」

「あとダイナー、机に乗っちゃだめよ」

「なんで?」


ダイナーとコッペが笑顔で話していると、教室にクロッパが入って来た。

「……ああ、ダイナーとコッペ。おはよう」

「おう、クロッパ! おはよう!」

「おはよう、クロッパ。……なんか疲れてない? 大丈夫?」

コッペと呼ばれたウサギが心配そうにクロッパに尋ねた。

「ああ、ちょっと夜更かししちゃって」

「あー、やっぱり? でもよくすっぽかさずに学校来たな」

「ほんとは休もうとか思ってたけど、来ちゃった。あとダイナー、机は寝るところじゃない」

ダイナーとコッペが関心する中、クロッパは無表情のまま席に着き、教科書やノート類を机の中にしまい、ランドセルを机の横にかけた。

すると、クロッパがあるものに気がついた。

「あれ? 机1個増えてない?」

クロッパが見たものは、教室の後ろのほうにある誰も座っていない席。

「ほんとだ。……あ、もしかして、転校生とか!?」

ダイナーが目を輝かしてそう言うと、コッペもそれに賛同さんどうした。

「そうかも! ……ねぇ、先生来たら転校生かどうか聞いてみよっか?」

「おっ、良いじゃん!」

2匹の提案にダイナーはご機嫌な様子で賛成した。


そして、背が高い薄オレンジ色のキツネが教室に入って来た。

「みんなおはよう!」

「おはようございます、先生!」

教室にいた児童たちは、ハキハキと先生に挨拶をした。

「……あれ? ティールは」

クロッパが、クラスメートのうちの1匹がいないことに気付き声をあげる。

「ん? あれ、ほんとだ、ティールがまだ来てないぞ」

「あら、遅刻かしら?」

「ティールが遅刻? ないと思うけど……」

その時、学校のチャイムが鳴り響いた。

「あーー、ティール遅刻だ」

ダイナーが小さく呟いた。

「皆さん、おはようございます。夏休みは楽しかったですか? 今日からまた学校ですが、怠けず勉強していきましょう」

教卓の前に立ったキツネの先生が児童たちに話した。

「それと、ティールくんなんだけど、どうやら風邪をひいたみたいで、今日はお休みです」

「か、風邪!? マジか……」

先生の話を聞いて、ダイナーが驚きの声をあげる。


「……風邪? 先生、なんで風邪ひいたって分かるんですか?」

一方、クロッパが疑問をあらわにした。

「ティールのお母さんから電話があってね。そのときに聞いたんだ」

「ん、うーん……」

クロッパは先生から説明を受けたものの、納得がいかない様子だ。

「クロッパ、どうしたの?」

その様子を見たコッペがクロッパに聞く。

「……うん、またあとで話すよ」

「先生! もしかして転校生っていますか!?」

そんなクロッパたちをよそに、ダイナーが先生に聞いた。

「えっ!? て、転校生!? どうして分かったんだい?」

「だって、机が1個多いじゃん!」

ダイナーが例の空席を指差して言った。

「あーー……」

先生は気まずそうに机を見て、教室の中を見回す。

「ごめんね、今日は来ないんだ。待っててね。それじゃ、今から始業式に行くよー」


「なーんか色々とおかしいなぁ……」

始業式を終え、学校から帰る道のりの上で、クロッパが呟いた。

クロッパの隣で歩いてるダイナーが聞く。

「おかしいって、転校生が今は来ないってやつ?」

「まぁ、それもそうだけど……」

続けて、ダイナーの隣で歩いてるコッペが聞く。

「ダイナーが宿題ほとんどやって来なかったこと?」

「いや、ごめんって」

「まぁ、それもそうだけど……。ティールのことだよ」

クロッパがどこからかスマホを取り出して言う。

「おい、スマホ持って来てたんかよ」

ダイナーがクロッパのスマホを見て言った。

「うん。バレなきゃ大丈夫だよ。で、ティールなんだけど、風邪なんかひいてるはずないんだ」

「どういうこと?」

コッペが不思議そうに聞く。

「ダイナーも見てると思うけど、今日の朝もティールからおはようメール来てたでしょ?」

「ああ、来てたぜ」

クロッパがスマホの画面に写したのは、ティール、ダイナー、クロッパが話すためのグループメールだった。


『ダイナー: 今日から学校ダルすぎ』

『クロッパ: ほんそれな』

『ティール: そろそろ家出るから、あとは学校で』

『ダイナー: あいよ』


最近のメッセージはこんな感じだった。

「キミたち、いつの間にそういうの作ってたの?」

「うん。コッペも招待しようか?」

「良いの? じゃあ、あとでお願いね」

「それで、これがどうしたんだよ?」

ダイナーが不思議そうに聞くと、クロッパがダイナーを見て言う。

「風邪ひいたなら、『そろそろ家出る』なんて言わないよ」

「……うん?」

ダイナーはよく分かっていないようだ。

「とりあえず、ティールは風邪をひいていないはずだ。だから、学校休んだのは風邪じゃなくて、別の理由なんだ」

「あ、そう? じゃあズル休みか……?」

「これがダイナーならズル休みだと思うんだけどなぁ」

「おい。クロッパだってズル休みしそうなやつらの一員だぞ」

「まぁそれは置いといて……」

「置くなって」

ダイナーとクロッパのやりとりに、コッペが静かに笑っていた。

「だから、結局ティールがなんで学校休んだのかが、謎なんだ」

「そういえば、……なんでだ?」

「うーん……」

クロッパ、ダイナー、コッペが唸る。

「それじゃあさ! ティールの家に行ってみようぜ!」

「え!?」

突然のダイナーの提案に、クロッパが驚きの声をあげる。

「どうしたんだよクロッパ」

「いや……、えーっと、急に押しかけて良いのかな?」

「良いんじゃない? お見舞いだって言えば辻褄つじつまが合うでしょ? それに私、ティールのプリント預かってるし」

コッペがクロッパに提案を出し、さらに続ける。

「うーん、じゃあ、良いかな」

「よっしゃ! それじゃティールの家にレッツゴー!」

ダイナーが我先われさきにと走り出した。

「あっ、ちょっと、置いてかないで!」

クロッパとコッペがダイナーのあとを追うが、その距離は伸びていくばかりだった。

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2025年1月4日 20:00
2025年1月11日 20:00
2025年1月18日 20:00

ティーネイル Dream in Future カービン @curbine

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