EP.9 夢を追うとは

「っ!? お前は、あの時あの少年を助けたあの!?」

『おうおう、オイラの相棒が世話せわになったなぁ』

 ボクがネイルと合体した姿を見せると、ウォーカーは明らかに動揺どうようし始めた。

「……キミは一体?」

 ……ついで言うと、イズマさんもボクの姿を見て困惑こんわくしていた。

 うん、まぁ。そうだよね。

「説明はあとでね。とりあえず、イズマさんの味方だよ」

「貴様はあの時の! 何故なぜここにいる!?」

 ウォーカーが焦った声で訊ねてくる。

『ああん? 相棒のピンチにけつけるのは当然だろうが』

「なぜ悪夢の味方をする!? こういうやつのせいで夢の世界が乱れているのだぞ!!」

『逆だな。お前のせいで乱れてんだ。爆弾なんかばらきやがって、今度こそ逃さねぇぞ』

「ふざけるなぁ!!」

 ウォーカーが叫びながらボクに爆発する霧を投げつけてくる。……ていうか、最初のウォーカーの落ち着いた雰囲気はどこに行ったんだろう?

『無駄だぜ!!』

 ボクはネイルにあやつられるまま尻尾を振る。すると、尻尾の風圧で渦ができ、ウォーカーの霧を吹き飛ばした。

 あれ、ティール? 今尻尾を使った? 今まで全然使わなかったのに。

「な、なんだ!? 今何をした!?」

『何って、ただ尻尾っただけだろ』

 ネイルは何でもないことのように答えた。

「そんな、馬鹿な! そんな馬鹿げた芸当ができるわけがない!」

『でも、オイラにはできるんだよ。オイラの得意とくい分野だからな!』

 ネイルはそう言うと上空に飛び上がった。ウォーカーが霧の爆弾でボクを撃ち落とそうとしてくるけど、1発も当たらない。

「ええい! ちょこまかと生意気なぁ! ほら、来るなら来やがれ!」

 ウォーカーは撃ち落とすのを諦めて、後手に回るようだ。

『あっそう、それじゃ行かせてもらうぜ』

 ネイルはそう言うと、また尻尾を使って風を起こした。風は音を立ててウォーカーに向かっていき、軽々と吹き飛ばした。

「のわあぁ!?」

 ウォーカーが地面を転がっていく。

「ネ、ネイル。こんなことできたの?」

 見たことない技を見せられたボクは、思わずネイルに聞いていた。なんで今までやってなかったんだろう?

『あっ? いま初めてやったんだよ』

「はじめてぇ!?」

『お前の尻尾もうまく使えばいけるなこれ。邪魔じゃまとか言って悪かったな』

「いやいや、こんな本番ほんばん勝負でアドリブやるなんて危険でしょ!?」

『そうかぁ? バトルなんてアドリブの連続だぜ?』


 そんな話をしてると、ウォーカーが立ち上がって来た。ボクをギロリと睨みつけ、ゆび差して言った。

「調子に乗るなよ! たかが悪夢ごときが!」

 ウォーカーの体から爆発する霧が大量に噴き出していく。そして、ボクめがけて一斉いっせいに襲いかかってきた。

『さーて、ちょっと動くぞ!』

 ネイルがそう言うと、……じゃない、言い終わる前にもう動いてた。ネイルは霧の隙間すきまを縫うように空中を駆け抜け、たまに風を起こして霧の軌道を変えていた。

 すると突然、目の前にウォーカーが現れた。

「消えろぉ!!」

 霧をまとったウォーカーの拳が迫る。ボクはそれをかわすために思いっきりジャンプをし、空中で身体をひねらせ、蹴りを放った!

「がぁあっ!?」

 当たった! ボクのかかとはウォーカーの頭にヒットし、彼を地面に叩きつけた。

『……ティール。今オイラと同じ動きしたな?』

「え? そうなの?」

 そういえば、今のはボクもウォーカーを迎え撃とうと身体を動かした。ネイルも一緒だったのか。


「ぐうう、私は悪夢にくっせぬ……!」

 ウォーカーが立ち上がるが、少しふらついている。どうやらさっきのが効いたらしい。

 だけど、さっきから悪夢あくむ呼ばわりされてるのが納得いかない。ウォーカーの考えは一応いちおう理にはかなってるかもしれないけど、かなり歪んだ思考だ。

「ウォーカー。キミが言うように、現実に打ちのめされて夢を諦めちゃう動物だっているよ。でも、そこから立ち直って頑張ってる子達もいるんだ。キミがやってることは、無理やり希望を持たせてるようなものじゃないか」

「それの何が悪いと言うのです? 夢を叶えるために手段なんて選ぶ必要ないでしょう!?」

「そういう考えができる動物は、キミの持って来た希望にえて乗っかることなんてしないよ」

『おうよ、クソ野郎! テメェがやってることだって立派な悪夢だろうが! 1匹の夢を叶えるために何十匹も犠牲にしやがって!! さっさとその身体から出て行きやがれ!!』

 ネイルも相当そうとう怒ってるなぁ。ボクと気持ちは同じみたいで嬉しいよ。言葉ことば使いはだいぶ荒いけど。


 ……ん? 待って、今気になる言葉が──。

「お前だって悪夢の住人だろうがよぉ!!」

 ウォーカーが霧と一緒に突っ込んで来る。するとネイルが尻尾をたたんで地面に当てる。

『さて、突っ込むぞ。準備はいいか?』

 ボクは、ネイルが何をしようとしてるかすぐに分かった。聞きたいことがあったけど、後で良いや。

「いつでも良いよ、ネイル」

 ボクが答えると、ネイルは思い切り尻尾で地面を蹴った。ボクの身体は宙に浮いて、そのままウォーカーに向かっていく。

「うわっ、ちょっ、速いっ!!」

 予想外の速さに思わず声が出た。

 そして次の瞬間、ボクの爪がウォーカーの胸元を切りつけていた。

「ぐわぁああああああああああああ!!」

 その瞬間、ウォーカーの身体から黒い霧が吹き出してきた。

 そして、跡形もなく消えて行った。


 ……そうか、この感じ。ダイナーを助けたときと同じ感じだ。

 ってことは、ウォーカーも悪夢に囚われていたのか? だとしたら、あのウォーカーのもとは一体誰だったんだろう?

 そんなことを考えていると、視界が歪み始めた。

 ああ、もう朝が来るんだ。ボクは意識を手放した。

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