EP.8 責任と使命
突然ダイナーの名前が出てきたボクはゾッとした。散らばっていた記憶の断片が、一瞬で繋がったんだ。
確かに、ダイナーはイズマさんに負けて落ち込んでた。それに目をつけた悪夢がダイナーを飲み込んで、しばらく寝たきりになってしまったんだ。
ウォーカーは、ダイナーをそうさせてしまったイズマさんを悪夢だと判断し襲ったんだ。
ちょっと自分勝手な気がするなぁ。イズマさんはただサッカー選手として試合をやってただけだし、特に煽るようなこともやってない。負けたダイナーは落ち込みはしたけど、それで悪夢の連中に襲われたのなんてイズマさんには関係ない。
「ダイナー? なぜあの子が関係しているのです?」
イズマさんがウォーカーに尋ねる。そりゃそうだ。ダイナーが寝込んでたなんて知らないはずだ。
「ダイナーは貴方との試合に負けた後、悪夢に囚われて寝たきりになったのですよ」
ウォーカーが落ち着いた口調で説明する。うん。このあたりの認識はボクと一緒だ。
「……そうなの?」
イズマさんがボクの方を向いて聞いてきた。
「あっ、うん。寝たきりになってた」
……あれ? なんでボクがダイナーと友達なのを知ってるんだろう? どこかで見てたのかな?
……そういえば、ウォーカーがイズマさんを狙っているのだとすると、まさか……。
「まさか、2回目の爆破は、イズマさんを狙ってたの?」
そうだ、あの時はイズマさんもいたんだ。本当に偶然だったんだけど、ボクも一緒にいたんだ。イズマさんを狙った爆破に、ボクとクロッパも巻き込まれたことになる。
……いやいや、イズマさんを狙うにしても巻き込みが激しすぎない? ボクら以外にも客とか店員とかいたはずだけど。
「2回目? 何のことでしょう?」
「今更とぼける気? 私、2回も貴方に狙われているのですよ」
「……ああ、あの時か。そんなわざわざ回数なんざ数えてませんよ」
「数えてないって……、1回2回すらも覚えてないのですか?」
「覚えてないね。そう言う貴方は、試合に出た回数とその内容を覚えているというのか?」
「それとこれと何の関係が──」
「イズマさん待って、分かった」
ボクは会話に入って、気づいたことを言う。ウォーカーがサッカーの試合の回数に例えるということは……、
「ウォーカー、キミは多分何度もこんなことをやってるんでしょ? ボクらにとっての2回目は、ウォーカーにとっては何十回目かのことなんでしょ?」
イズマさんの言うように、1回2回なら流石に覚えてるはず。でも、ウォーカーにとってはこれは1回2回どころじゃない、要するに日常だったんだ。その日常はボクの知らないところで起こされていて、最近ボクの近くで起こった。そういうことなんだな。
「回数がそんなに重要か? 私は悪夢を排除できればそれで良いんだよ」
ウォーカーがこちらを睨みながら言う。
「さっきから悪夢、悪夢と……、私はただ試合をしていただけで、あの子が負けて寝込んでいたなんて、たった今知ったことだし、……申し訳ないとは思うけど、不本意だったのよ」
イズマさんが冷静に弁明していると、
「うるっせぇんだよ物分りの悪い子トカゲがぁ!!」
突然ウォーカーが怒鳴った。瞬間、周囲で爆発が起こる。ボクは咄嵯に身を屈めた。爆発の衝撃で土煙が舞い上がる。
「お前は一人の少年の夢を潰しかけた! 結果どうなったか分からないか!? あの少年は折れた夢を嗅ぎつけた悪夢に囚われ、数日寝たきりになったんだ! 俺達の住人が助けたからなんとかなったが、もう少しで手遅れになるところだったんだ! お前はその責任を取るべきだぁ!!」
ウォーカーは怒りに満ちた叫び声と共に、イズマさんへと突進していく。
「危ないっ!!」
一瞬、何が起きたか分からなかった。
ウォーカーの角がイズマさんを突く瞬間に、イズマさんが消えたんだ。
……いや、違う。上に飛んで避けたんだ。イズマさんはそのまま空中で一回転して、ウォーカーの背中に踵落としを決めた。
「ぐぁ!?」
ウォーカーは地面に叩きつけられ、イズマさんはその隙に地面に着地した。
……かっこいい。イズマさん、そんなことできたんだ。流石プロサッカー選手だ。
「小癪なぁ!!」
ウォーカーが立ち上がると、また爆発が起こった。今度はイズマさんの周囲で立て続けに起こる。
それでもイズマさんは素早いフットワークで爆発を避ける。爆発の勢いで巻き上がった砂埃や小石をも利用して、まるで踊っているかのように華麗に動く。
爆発の最中、ウォーカーが音もなくイズマさんに襲いかかった。
「ハァアアッ!!」
ウォーカーが霧を至近距離で爆破させた。煙が立ち込めるせいで、中で何が起こっているのか分からない。
ゴスッ!!
「ぐわぁ!?」
鈍い音とウォーカーが煙の中から飛ばされてきた。
……ボクのほうに。
ボクはすかさず避けるが、ウォーカーの視線がボクに向いてしまう。
「……こうなっては仕方ない」
嫌な予感がしたボクは急いでその場から逃げ出したが、遅かった。
ボクはウォーカーに尻尾を握られ、捕まってしまう。
「あっ! しまった!」
霧から出てきたイズマさんが叫ぶ。
「おっと、そこから動くなよ。この小僧に何かあっても知らないぞ」
ウォーカーがボクの身体を拘束する。
「くっ……、卑怯者」
痛いっ……。
ボクは思わず声を漏らしてしまう。このままじゃ握り潰される……。
「ったく、こんな真っ昼間に起こすんじゃねぇよ」
「何だ!?」
ウォーカーが光り出すボクを見て声をあげる。
「……この声は、ネイル?」
「おう、大丈夫か?」
ひどく聞き慣れたその声は、呆れと同時に笑ってもいた。
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