EP.5 救うための戦い
ボクはネイルと一緒に、以前ダイナーを見かけた森に来ていた。もちろん、ダイナーを探すためだ。まだこの森にいるはずだけど、思ったよりも広くて難航していた。しかも悪夢の住人がひっきりなしに襲ってくるせいで戦闘を強要される。結局1日では見つからず、3日目を迎えていた。
現実世界では、イズマさんが先日のコンビニ爆破事件に巻き込まれたことで大騒ぎになっていた。控えていたサッカーの試合に出ることができなくなり、キャプテンなしで試合に臨んだらしい。まぁ、勝ったらしいけど。
ダイナーはというと、相変わらず眠ったままだそうだ。ダイナーも明日、サッカーの試合を控えている。何としても今日で見つけて夢から覚めさせないと……。
「あーもう、また来たよ!」
ボクの目の前に悪夢の住人が現れた。みんなボクめがけて突っ込んでくる。もっと交友的な住人はいないのかい?
「よっしゃ、さっさとやっつけようぜ!」
ボクの体の中にいるネイルが元気そうに言った。
「ネイルー、もうこいつら無視しない? 時間がもったいないよ」
「いいじゃねーか! どうせ逃げてもずっと追いかけてくるぞ」
はぁー、しょうがないなぁ……。
ボクは敵の攻撃をかわし、すかさず蹴りを入れる。……ボクはっていうよりは、ネイルがボクの身体を操って攻撃を仕掛けている。ネイルの攻撃を受けて敵は倒れていく。あっという間だった。
「よし、終わった! 次いくぞ!」
「はいはい、ダイナー探しね」
一方ボクは、今までの連戦の中で段々と戦い方が身に付いていた。なにせ実際に身体を動かして敵を倒してる訳だ。ネイルは戦い慣れているというか、動きが軽やかなんだよなぁ。まるで踊っているみたいに。
そんなことを考えていると、ボクはダイナーの気配を感じ、振り向いた。
「ん? どうしたティール」
「……ダイナーだ」
「ほんとか!? ……って、何もいねーじゃねーか」
「匂いだよ。あっちからダイナーの匂いがするんだ」
「あーそうか、ティールは犬だったな」
ボクが匂いの方向へ駆け出そうとしたその時、
「うわっ!?」
突然正面から何者かが飛び出してきた。ダイナーだ。ボクはとっさに横に飛び退いた。飛び蹴りを繰り出していたダイナーは地面に着地し、ボクを見ていた。ダイナーは相変わらず悪夢に取り込まれていて、いつもは緑色の身体が暗い紫色に包まれていた。
「会えたのはいいけど、どうやったら元に戻るんだろう……」
「なーに、いつもやってるみたいにちょっと叩いてやれば良いんだよ」
「叩くって、大丈夫なのそれ?」
「大丈夫だって、行くぞ!」
ネイルが言うなりボクの身体はダイナーに向かって走り出した。そしてそのまま勢いよくジャンプすると空中で一回転しながら回し蹴りを放った。しかしダイナーは難なく頭で受け止め跳ね返す。ネイルは宙を舞いつつ着地した。
「なかなかやるじゃんか」
ネイルは続けてパンチを放つ。ダイナーはそれを外側へかわして脇腹をしっぽで叩いた。
「おい、まじか!?」
ネイルは驚きつつ後ろに飛び退きダイナーと距離を取った。
「だいぶケンカ慣れしてないか? いつもこんな感じなのか?」
ネイルはイライラした様子でボクに聞いた。
ダイナーがケンカ慣れしている……。そんなはずはないと思うけど、ボクには一つ心当たりがあった。
「さっきの動き、まるでサッカーをしてるような感じだった。元々運動神経も良いし……」
「なるほどな……」
ネイルが納得したように言ったとき、ダイナーが素早い動きでボクたちに迫り来る。ネイルは横に飛んで避け、すぐさま反転してダイナーに蹴りを入れるが、これも足で弾かれてしまった。
「……なぁティール、サッカーって格闘技だったか?」
「違うけど……、ボクたち、サッカーボールみたいに扱われてるよ」
ボクたちは体勢を整えながら会話をした。
「ネイル、ここはボクに任せてくれる?」
「ティール、お前戦えるのか?」
「戦いとかそんなのは全然知らないよ。だけど、ダイナーはボクの友達だ。だからボクがなんとかしたい」
「……分かったよ。やってみな」
ネイルがそう言うと、ふっと身体が軽くなった。……ボクの身体を乗っ取って姿まで変えていたネイルだけど、今は完全にボクに任せてくれているようだ。
ボクはダイナーの目を見て向き合う。相変わらず敵意を感じるけど、どこか苦しんでいるようにも見えた。
……そうか、ダイナーも悪夢と戦ってるんだ。そうとなればボクがすることは戦いじゃない。
ボクはダイナーに向かって走りだした。ダイナーもこれに応えるように身構える。見覚えのあるサッカーのときのポーズ。ああ、やっぱりダイナーなんだね。でも、残念だけどボクはボールになってあげないよ。
ボクはダイナーの目の前に来ると、素早く横に飛んだ。ダイナーはフェイントにあっけなく引っかかり、蹴りを空振りした。ボクはすかさずダイナーの小さな腕の辺りを叩く。ダイナーは無理に避けようとしてバランスを崩す。
すぐに反応できるダイナーも流石だけど、やっぱりサッカーの動きが見に付いているからか、腕への攻撃を嫌がるようだ。
ダイナーとこうして向き合って分かったけど、何かがダイナーに取り憑いている。たぶん、こいつを追い払えばダイナーはもとに戻るんだ。
ボクはダイナーに飛び蹴りを繰り出し、ダイナーはガードしてくる。ここまでは予想通り。攻撃が当たる直前に膝を曲げて間合いを詰める。身体が横を向いたままだから、ネイルがよくやってる風の力とやらで強引に身体を起こす。そしてその勢いのままダイナーの顔に拳を叩き込んだ。
もろにくらってしまったダイナーは吹っ飛んでしまった。すると、ダイナーの身体から何か黒い砂のようなものが噴き出てきた。
「うわっ!?」
ボクは思わず目を閉じてしまう。しばらくして目を開けると、ダイナーはいなくなっていた。
「ダイナー?」
「悪夢から解放されて、現実世界に戻ったんだよ」
「そっか……良かった」
ボクがほっとため息をつくと、急に疲れが押し寄せて来て倒れそうになった。
「おっとあぶねぇ!」
ネイルが慌ててボクの身体を支えてくれる。
「ありがと……」
「にしてもティール、なかなかセンスあるじゃねーか。オイラたち良いコンビになれるぜ」
「コンビって……。まぁ、そうなのかな……?」
コンビねぇ……、ボクはダイナーを助けたかっただけだし、ネイルは戦いたいだけだったみたいだし。
……でも、ネイルがいなかったらダイナーを助けられなかったかもしれない。こうやって協力してくれる辺り、悪いやつでもなさそう。
そう思ってると、ボクの意識がだんだん遠くなっていく。そろそろボクも起きる時間か……。そんな中、ネイルがボクに話しかけて来た。
「選んだのがティールで良かった、ありがとな」
そしてまた、朝が来た。
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