第24話国王の誤算
―マッシリア王国軍本陣―
今ごろブルク将軍が冒険者たちの最終防衛ラインを突破している頃合いだろう。
いくら小国の軍隊に匹敵するとはいえ、こちらは大国・マッシリアの正規軍だ。負ける要素はほとんどない。ジークフリートがどんなに強かろうが、しょせんは多勢に無勢。戦いの基本は、数。
「おい、前線はどうなっている。一番おいしいところは、余に譲るように言っておけばよかったかな」
そういうと側近たちは笑い出した。
しかし、その余裕の笑みは、次の報告で一瞬で凍りついた。
『陛下、大変です。我が前線のブルク将軍の部隊が……"壊滅"しました』
その言葉に、笑いは乾いた大地にすべて持って行かれてしまった。残ったのは、心地の悪い沈黙だけだ。
「何を言っている。わずか数百の敵に、こちらの1万を超える大軍が敗れるわけがないだろ。なにかの言い間違いだろ。そうだ。いまなら許してやる。ほんとのことをきちんと報告しろ」
こちらのすがるような声に伝令は、目を丸くしながら続けた。
『陛下……ブルク将軍は、ジークフリートが仕掛けた奇襲によって、戦死なさいました。指揮を引き継いだ次席指揮官のマルス様も、ジークフリートとその弟子との決闘に敗れ同じく討死』
怒りなのか、絶望なのか、よくわからない。ただ、震えが止まらない。
「兵はどうなった? まだ、1万を超える兵がいるだろう?」
『同時に両指揮官を失った兵たちは、パニックに陥り、四散しました。本体に合流しようとする兵もいるでしょうが、おそらくほとんどは逃亡したものと思われます』
※
「まさか……」
「たしかに、最近、士気は著しく下がっていた」
「優秀なジークフリート派の軍人を粛清したから、軍が空洞化していたんだ。だから、誰も立て直せなかったんだ」
※
部下たちはそんな絶望の声をあげた。にらみつけると、慌てて口を押えて目を逸らした。
「だが、まだこの本陣には3000の兵がいる。敗残兵を収容すれば、数は増える。まだ、負けたわけではない。皆の者、次は余自ら指揮を執るぞ」
これで士気は上がると思った。だが……
『……』
部下たちは白けた表情で渋い顔をしていた。なぜ、そんな顔をこちらに向けるんだ。
やめろ、やめてくれ。
そして、残酷なニュースは続く。
『陛下、悪い報告です。東部地方軍が蜂起しました。陛下の右腕のモルト将軍を拘束し処刑した模様です。東部反乱軍、王都に向かって進軍中。また南部と北部でも地方軍が不穏な動きを見せています。ジークフリート派の軍人が裏で結託しているものだと推測されます』
「うわあああぁぁぁぁぁああああああ」
自分の絶叫と共に、めまいが起きた。「陛下?」と心配する部下たちの声が聞こえたが、目の前は暗闇のように変わってしまった。冷たい地面に体が落ちていく。口の中は土の味に変わった。
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