第22話復讐鬼、再び

 わしは、ブルク将軍にとどめを刺した後、周囲を見回す。怪鳥は、わしらを送り届けた後は、すぐに戦場を離脱していく。恩賞や血気盛んな者たちは、逃げることなく、こちらに向かってくるが、わしが戦わなくても、ブレアがすべてを返り討ちとしていた。


「ダメだ。わずか、2人に我が軍はやられるんだ」

 圧倒的な戦力差を持ちながら、なすすべもない実力差を痛感した兵士たちは、我先に逃亡していく。


「さすがだな、ジークフリート。まさか、ふたりで軍を破るとは……」

 包帯を巻いた隻眼の男がこちらに歩いてくる。


 騎士団1番隊隊長、マルスの変わり果てた姿だ。

 わしの暗殺に失敗し、敗れたマルスは、明らかに異常ないでたちだった。


「お前たちのミスだ。奇襲を警戒せずに、本陣の防衛を弱めたからこそ、今回の奇跡のような勝利が生まれたんだよ」


「今となっては、どうでもいいことだ。お前を殺せれば、それでいい」

 異常に筋肉と血管が隆起している。そして、手の甲には独特のあざ。

 聖なる水と呼ばれる"マジ"という薬を飲んだ時に現れる症状だ。


 一時、力を強大にすることができるが、その反面、反動が大きく、命を一瞬で燃えつきさせる。

 それを飲めば、もう死を免れることはできない。


 マルスは、優秀な騎士だった。

 ドーピングしたことでS級クラスに匹敵する実力を持っていると判断する。


「ジーク師匠?」


「ブレア、わしから離れるなよ」


 そして、わしとマルスは同時に剣を相手に向ける。それを合図に開戦した。

 暗殺未遂の時とは、まるで別人のような素早い動きだ。


「あんたは言ったよな。スポーツと殺し合いは、まるで違うって……なら、俺はお前に死の恐怖を教えてやる」


「ちぃ」

 やはり、マジの効果は、恐るべきものだ。

 自分が少し押されている。


 ※


 師匠が押されているのを初めて見た。助太刀に行きたい。そう思った。でも、目の前にはまるで自分の世界とは別の異次元が広がっていた。


 おそらく、これがS級冒険者レベル同士の戦いなのだろう。無理に入っていけば、あるのは死。動物の本能がそう語っていた。目で追うことが、精一杯で無力さを痛感させられる。


 A級冒険者レベルとS級のふたつには、近く見えるはずなのに、明らかな差があった。

 師匠はすごい。でも、俺には何もできない。


 ※


「若者よ。悔しいだろう。この世界は、理不尽に大事なものを自分の手から奪っていく。奪われたくなかったら、強くなるしかない。ひざを折るな。そんなことをしていても、大事な人は守れないぞ」


 ※


 師匠に助けられた時のことを思い出す。

 そうだ、俺が強くならなければ、大切なものは守れない。

 師匠は、落ちこぼれだった俺にすべてを授けてくれた大事な人だ。ここで動かなければ一生後悔する。


 勇気を振り絞り、俺は一歩を踏み出した。


「一刀流・竜剛剣」

 師匠にも見せたことがない俺の切り札を初めて披露した。

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