第21話空中からの奇襲

―ブルク将軍陣営―


「閣下、高速で飛来する怪鳥が……背中に誰か乗っているようです」


「なんだと!? モンスターテイマーによる奇襲か。すぐに魔力で撃ち落とせ」

 魔導士たちは、一気に攻撃の弾幕を打ち上げる。だが、それらは無情にも斬り刻まれた。

 魔力を剣で相殺するのは、高度な技術を有する者しかできない。具体的に言えば、A級冒険者クラスの上級剣士以上の存在だ。


 あの怪鳥の背中にいる奴は、つまり相当な腕を持つ剣士だろう。

 

「あ、あれは……今回の反逆事件の首謀者の一人……ジークフリートです」

 斥候せっこうの兵士は、俺の予想通りの名前をつぶやく。


 ※


『あれが、英雄・ジークフリート=オートリー』

『なんで、こんなに早く伝説の英雄が前線に!!』

『最強の刺客だっ』

『おい、逃げた方がいいんじゃないか。勝てるわけがない』

『誰だよ、この戦争が楽勝だって言った奴は。本陣に、敵の大将が来てるじゃねぇか』


 ※


 兵士たちの動揺が広がる。

 

「うろたえるな。しょせんは、半世紀前の伝説だ。朽ち果てている」

 俺は必死にそう言い聞かせたが、嫌な汗が出てきてしまう。

 自分はどこかで、間違えたのではないか。


 いくら撃ち落とそうと思っても、ことごとく攻撃は弾かれて、逆に地上部隊に損害が発生する。斬撃に弱い魔道部隊を守ろうにも、肉体派の兵士たちは前線に出て行ってしまったため、無理だ。


 すでに、無断で逃亡する兵士が出始めていた。

 そして、自分でジークフリートの姿を視認できるほどの距離まで来た時、奴は俺に向かって正確無比な斬撃を繰り出す。完全に狙われていた。早く逃げねばと、頭は必死に体に命令するが、スローモーションのように固定された世界では、ほとんど動くこともできない。


 体全体に猛烈な熱さを感じて、目の前が白くぼやける。斬られた。そう認識した瞬間には、もう何もすることができなかった。


「ブルク将軍が斬られたぞ」

「誰か、治療を」

「ダメだ、あんな傷じゃまず助からねぇ」


 残酷な真実を他人の口から聞かされて、どうしようもない後悔しか頭には思い浮かばなかった。

 どうして、俺はあの愚王に従ってしまったんだろう。

 呪ってやる。お前だけは、一緒に地獄に……


「ブルク。悪く思うなよ。これ以上苦しまないように、介錯だ」

 ジークフリートは、穏やかな顔で、そう言う。俺は、思わずその慈悲的な表情に向かって、頷いた。


 ※


「ブルク将軍、討死っ」

 わしの横にいた兵士が、そう叫ぶと、大軍は一気に自壊を始める。まるで、雪崩でも起きたかのように、兵士たちは一目散にここから離れようと駆けだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る