第20話王国軍との激突

―マッシリア王国・ブルク将軍陣営―


 国王陛下の命令で、俺たちはシェーラの街に進軍していた。馬鹿な奴らだ。まさか、ジジイ一人を守るために、国に喧嘩を売るとはな。万死に値する。街を焼き払い、反逆者たちは皆殺しだ。


 陛下からは許可を得ている。血を吸うことが、軍人の最大の快楽。

 楽しい遠征になりそうだ。


 それも、相手はわずか数百の冒険者しかいない。こちらは1万2000の兵力を持っている。赤子の手をひねるくらいに、楽勝だろう。いくら、元・世界の英雄でもこの人数差で逆転するのは奇跡に近い。


「今回のいくさは、楽勝ですな、閣下」


「当たり前だ。早く帰って恩賞をもらおう。それで、酒盛りだぞ」

 部下たちは一斉に笑い出した。


 敵の抵抗も受けずに、我が軍はシェーラの街まであと半日の場所まで迫っていた。そろそろ、敵が防衛陣地でも用意して、最後の抵抗を試みるころだろうな。


「将軍、敵が見えました。敵は、山を陣地に魔力弓などで攻撃を開始」


「わかりやすい。焦るな。じっくり戦えば怖くない。敵の陣地に向かって、魔力と大砲をぶっ放せ。数の力でいつかは対応できなくなるはずだ」

 力技で攻めても勝てるだろうが、おそらく罠が仕掛けられているに違いない。そんなリスクは取る必要はない。


 ※


「閣下。敵の攻撃がなかなかやみません。こちらも正確に敵の攻撃方向を狙い撃っているのですが……このままでは弾丸や魔力の消耗が激しくなるだけです」


 数時間、攻撃を続けても、敵は頑強な抵抗を続けていた。前線の兵力は我慢できずに、暴走した突撃を敢行した部隊もいるようだが、二度と帰ってくることはなかった。少しずつ損害が増えていく状況に、こちらも焦りが生まれる。


「遠距離攻撃ができる部隊は残したままで、前線部隊は敵陣地に一気に突撃させろ。ここで一気に勝負を決める」

 さきほどは、あえて否定した考えを俺は採用するしかなかった。

 なぜなら、国王陛下直属部隊がこちらに合流してしまうからだ。大軍を率いているこの状況で、この体たらくでは、あの短気な国王陛下のことだ。幕僚もろとも処刑される。多少の被害を出しても、ここは力技で攻略するしか、生き残る道はなかった。


 敵ながら恐ろしい相手だ。世界の英雄は、ほんの数百の兵力で大軍を足止めしている。

 おそらく、強固な防衛陣地を作り出したのだろう。そして、それを補強するために、白魔力の使い手たちを有効活用している。だが、なにぶん寡兵だ。幾重にも防衛線を築くことはできなかったのだろう。


 この陣地を抜けてしまえば、シェーラの街までは目と鼻の先。

 最初にして最後の防衛線だ。


「さぁ、一気に進むぞ。国王陛下がいらっしゃる前に、制圧するのだ」

 本陣の守りを弱めて、リスクを取る。

 あと1時間もあれば、事実上、戦争は終わる。そう確信しながら、兵を進めた。


 ※


―シェーラ地方上空―


「そろそろ、頃合いだな」

 わしは、ブレアと顔を見合わせて頷く。


「本当に大丈夫なんですか。ふたりで、殴り込みなんて……」

 わしらが乗っている怪鳥の主である女性モンスターテイマーは、心配そうにこちらを見ていた。

 

「大丈夫ですよ、だって、ジーク師匠が考えてくれた作戦ですからね。完璧です」

 ブレアは、わしに全幅の信頼を向けてくれている。


 わしが考えた作戦はこうだ。こちらが地形を知り尽くしているシェーラ山に陣地を構える。その陣地は、入り組んだ塹壕を掘っておき、敵の遠距離攻撃を無効化する。相手は数の力を有効活用するために、砲撃中心に作戦を立ててくるだろう。だが、地形と白魔力の補助によって、被害はほとんど出ない。そして、こちらが弱らないことに、焦りをおぼえた敵は突撃に切り替えるはずだ。


 そのタイミングが最大のチャンス。

 わしとブレアのふたりで、守りが薄くなった敵軍の本陣を空中から強襲する。狙うは指揮官の首だ。


 斬首作戦というやつだな。国王派による圧政と粛清で良質な指揮官を失っている王国軍では、士気が著しく下がっている。そんな状況で空中から現れたわしとブレアが、将軍の首を取ってしまえば、士気が低い王国軍はパニックとなり、自壊する。


 前衛部隊を率いているブルクは、今の王国軍の中ではまだ、マシな方だが……わしのかつての仲間たちを徹底的に冷遇し、地方に左遷や幽閉していることで、実働部隊を束ねる士官たちの能力も落ちている。パニックを抑えることはできない。


「では、いくか、ブレア」


「はい、師匠」


 わしらは「ご武運を」と告げるテイマーに一瞥いちべつし、怪鳥は合図とともに地面に向かって急降下を始める。


 一世一代の大博打が始まった。

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