第18話英雄の逮捕

 わしは、いつものようにギルドの受付係をしていた。

 今日は比較的に暇な日だ。ドラゴンの影響で、人里に降りてきた強力なモンスターたちもギルド協会のメンバーが協力して駆逐に成功している。ドラゴンを倒したという成功体験が、皆に強い自信を授けているのは間違いない。落ちこぼれだと思って、落ち込んで本当の力を発揮できなかった者たちも多くいたのだろう。


 皆、生き生きと仕事クエストに取り組んでいる。

 ドラゴン討伐の際に、ほとんどの者がわしの正体に勘づいたようだが、あえて何も言わないようにしているのもありがたい。シグルドたちは、いつものように酒に誘ってくれるし、ブレアたちはわしを慕ってくれる。セシル嬢も、いつものように、わしを出迎えてくれた。


「(このまま、ここで天寿を全うするのも、悪くないな)」


 騎士団出身の冒険者も、ギルドになじんできて、積極的に交流を持っている。おかげで、全体の実力向上が進んでいるな。もう、何もしなくても大丈夫だと思えるほどだ。


 そんな幸せな日常に、ひとつの大事件が起きた。


 昼休憩の後、再び受付に戻ると、完全武装した2人の騎士が入り口から入ってきた。

 鎧の紋章を確認する。やはり、マッシリア王国軍のものだ。顔にも見覚えがある。騎士団で3番目の腕前だったグールと、王のお気に入りの騎士。


「シェーラの街ギルド協会の受付係・ジークだな」


「いかにも」

 まるで、芝居がかった言い方だった。お互いに面識もあるのに、こんな言い方をされるとは。次に言いたいことは、すぐにわかる。


「ふざけるなっ!! 元マッシリア王国騎士団長・ジークフリート。お前には、国家反逆罪の容疑がかかっている。逮捕する、一緒に王都に来てもらおう」


「その名前は、捨てたんだ。拒否したら?」


「我が軍の全力を持って、この街を包囲する」

 追放を宣言した時の王と同じような顔をしていた。こちらを見下したかのような、鼻につく顔だ。


 あきれていたその瞬間、脇にいたセシル嬢が、グラスに入った水を2人の騎士に向かって、ぶちまけた。


「ふざけんなっ!! 街にドラゴンが迫っている時に、国は何もしてくれなかった。マスターが何度援軍要請を出しても、無視し続けていた。なのに、それが終わった後、この街を救ってくれた英雄を逮捕するっ? ありえない。頭の中、腐っているんじゃないの」


 一般市民から水をかけられるとは思っていなかったのだろう。ぎょっとした顔でにらみつけたいた。


「公務執行妨害で、お前も……」


「おいおい、騎士ナイト様達よ。ずいぶん、ライン超えて来たな。この街の顔役であるシグルド様に黙って、ダチ逮捕するなんて暴挙、許せねぇよな。筋が通らねぇだろ」

 シグルドは一番に立ち上がった。


「痛めつけられたいのか!」

 王のお気に入りの騎士が、シグルドに向かって剣を抜く。


「お前がな!!」

 しかし、突進してくるシグルドの方が早かった。騎士の剣を華麗にかわして、彼の顔面を拳で強打する。


「ぐへっ」

 クリーンヒットした強打にたまらずに、兵は意識を失った。


「おのれ……」

 グールも剣を抜いたが……

 それに対応したのは、わしの弟子だった。


「一刀流・疾風怒濤」

 ブレアの方が早かった。一瞬で剣士に近づき、鎧ごと斬りつける。王国でもトップクラスの剣士は何もできずに無力化された。


「まいった、降参する。助けてくれ」とそう無様に命乞いしながら……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る